MLB志向の強い菅野智之が巨人残留を決断した6つの理由を深掘り解説

今オフのMLB移籍を諦め、巨人残留が明らかとなった菅野智之(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 ポスティングシステムによるMLB移籍を目指していた菅野智之が、今オフのメジャー移籍を諦め、読売ジャイアンツに残留することが明らかになった。

 菅野はポスティングの交渉期限である1月7日米東部時間午後5時(日本時間8日午前7時)までにMLB球団と合意できなかった。

 菅野が憧れのメジャーの舞台でプレーできるチャンスを捨てて、巨人残留を決断した裏側には6つの理由がある。それぞれの理由を深掘りしてみよう。

1.異常に動きの遅い今オフのMLB・FA市場

 近年のメジャーリーグのフリーエージェント(FA)市場は動きが遅く、大物選手が契約が決まらないまま越年するケースが増えてきているが、コロナ禍で先行きが不透明な今オフはとくにその傾向が強い。

 サイ・ヤング賞投手のトレバー・バウアーを始め、2019年にゴールドグラブ賞とシルバースラッガー賞を同時受賞したJT・リアルミュート捕手、2017年のワールドシリーズMVP、ジョージ・スプリンガー外野手、史上初の両リーグで首位打者になったDJ・ルメイユ二塁手、2020年の本塁打&打点の二冠王・マーセル・オズナ外野手のビッグ5は誰も移籍先が決まっていない。

 メジャーのFA市場はまずは大物の移籍が決まってから、他の選手たちに動きが出ることが多いが、今オフは大物が動かないのだから、それ以外の選手たちには契約が届かない。

 菅野より一足先にポスティングの締め切りを迎えた西川遥輝に関しては、メジャー球団と具体的に交渉したとの話も聞こえてなかった。

 今オフのFAランキングでは、菅野はビッグ5に次ぐ存在との評価を受けていたが、同じような評価を受けている田中将大も次の契約は決まっていない。

2.コロナの影響により経費削減に動く球団事情

 2020年のメジャーリーグはコロナの影響で、通常は162試合の公式戦が60試合に短縮。しかも、全チーム、全試合が無観客試合で行われた。

 その結果、MLBは約31億ドル(約3224億円)を失い、平均すると各球団は1億ドル(約104億円)以上の減収となった。

 今オフは球団職員の解雇を進めるチームもある中で、各チームは選手に高額契約を与えることを躊躇している。

 今オフのFA選手で年俸1000万ドル(約10億円)以上の契約を手にしたのはチャーリー・モートン投手(アトランタ・ブレーブスと1年1500万ドル)、ドリュー・スマイリー投手(ブレーブスと1年1100万ドル)、ジェームズ・マキャン捕手(ニューヨーク・メッツと4年総額4060万ドル)の3選手だけ。

 総額5000万ドル(約52億円)以上の大型契約を結んだ選手は皆無で、マキャンの次に大きな契約を手にしたのは、サンディエゴ・パドレスが韓国球界からポスティングした金河成内野手と結んだ4年総額2800万ドル(約29億円)というほどにマーケットは冷え切っている。

 そんな状況の中で、菅野が望んだと言われる菊池雄星に匹敵する契約(4年総額5600万ドル=約58億円)を出せるチームはなかった。

3.タイミングの悪さ

 日本球界での実績は明らかに菅野の方が菊池よりも上で、菊池が勝っているのは年齢だけ。菅野が菊池以上の契約を望むのは当然のことだが、タイミングが悪かった。

 総額2億ドル(約208億円)を超える契約が3つも生まれた昨オフであれば、菅野は4年6000万ドル(約63億円)以上の契約を手にするのに苦労しなかっただろう。

 例えば2019年にメッツで11勝8敗、防御率3.96だったザック・ウィーラーは5年総額1億1800万ドルの契約をフィリーズと結んだし、サンフランシスコ・ジャイアンツでプレーした2017年から19年の3シーズンは19勝25敗、防御率3.57だったマジソン・バムガーナーもアリゾナ・ダイヤモンドバックスと5年総額8500万ドルの契約を結んでいる。

 バムガーナーは菅野と同じ年で、ウィーラーは1つ下でしかない。

 FA市場に先発投手が少ない今オフは、本来であれば菅野にとって良いタイミングになるはずだったが、コロナには勝てなかった。

4.巨人からの好オファー

 悲願の日本一奪回に向けて菅野を失いたくない巨人は、菅野にポスティングを認める一方で、4年総額40億円という破格の提示をしたとケン・ローゼンタール記者は報じている。これまでに数々のスクープを報じてきたローゼンタール記者は球界内部に信頼できる情報源を数多く持っており、この報道も信憑性が高い。

 巨人から4年40億円で引き留められた菅野が、メジャー球団に4年58億円以上を要求するのは当然のことである。

 さらにローゼンタール記者の報道によると、巨人は菅野に対して、各オフシーズンにオプトアウト(契約見直し)の条項も提示したという。このオプトアウトにより、菅野は好きな年に残りの契約を破棄して、海外FAとしてメジャーに挑戦できる。

 交渉期限が1ヶ月しかないポスティングシステムとは異なり、海外FAには交渉期限が存在しないので、FA市場の動きを見ながら、じっくりと腰を据えて交渉できる。

 また、ポスティングシステムで移籍する際に発生するポスティング・フィー(移籍金)もないので、より有利な条件での契約が望める。

 菅野と巨人は2年連続で日本シリーズでスウィープ負けを喫しており、伯父の原辰徳監督を日本一にしてからメジャーに移籍した方が菅野の気持ちもスッキリするはずだ。

 巨人に入団する際に1年浪人した菅野は、メジャーに移籍する際も1年間待ってから移籍することになる。

5.先行き不透明な2021年シーズン

 2021年シーズンは2月半ばに春季キャンプが始まり、例年通りの公式戦162試合を行うと発表されたが、予定通りにシーズンがスムーズに進むとは思えない。

 アメリカでは新型コロナウイルスの累計感染者数が2000万人を超えており、36万人が死亡している。新規感染者の数も20万人台で、減少の兆しも感じられない。

 パドレスに移籍したダルビッシュ有も「スプリングトレーニングが1ヶ月ちょっとで始まるんですが普通に無理な気が」と吐露している。

 昨年12月に開幕したNBAは無観客で行われており、8月開幕のNFLも一部のチームを除いて無観客試合が続いている。NFLの一部チームは観客を入れているが、それでも収容人数の25%程度に留めている。

 仮にメジャーの21年シーズンが予定通り4月に開幕したとしても、ほとんどのチームで観客を入れるのは無理だろう。最初の数ヶ月は無観客試合、下手したら21年もシーズン全てが無観客試合になる可能性も否定できない。

 また、ダルビッシュが指摘するように、キャンプの開始が遅れた場合には、シーズン開始も遅れ、162試合ができない可能性も出てくる。そうなると、20年同様に選手の年俸も削減されてしまう。

 そんな不透明な状況のメジャーでプレーするよりも、21年は日本でプレーした方が得策だと菅野が判断しても不思議ではない。

6.ダルビッシュ、マエケン、マー君の存在

 日本球界を代表するトップクラスの投手である菅野だが、メジャー移籍の際に指摘される唯一のマイナス・ポイントが31歳という年齢。

 今が選手としてのピークであり、今後はドンドン衰えて行くと考えるメジャー関係者は少なくない。メジャーでは30代の投手には長期契約を控える傾向が高く、20代の投手に比べると見劣りする契約になるケースが多い。

 そんな状況を変えてくれそうなのが、1つ上の前田健太と田中将大、そして3つ上のダルビッシュの存在だ。

 30代の彼らが良い働きを続けてくれれば、日本人投手は30代になっても活躍できると思われ、来オフ以降に菅野がメジャーに挑戦する際に有利な契約を手にできる。