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石井慧が出場した総合格闘技リーグの優勝者が賞金1億円全額を貧困層への食料配給に使う

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
優勝賞金1億円全額を貧困層のために使ったエミリアーノ・ソルディ(PFL提供)

 石井慧が出場した総合格闘技(MMA)リーグ、「プロフェッショナル・ファイターズ・リーグ」(PFL)の2019年ライトヘビー級部門で優勝したエミリアーノ・ソルディが、優勝賞金100万ドル(約1億円)全額を祖国アルゼンチンでの食料配給に使ったことを明らかにした。

 石井が参戦したのはヘビー級部門だったが、ソルディはライトヘビー級部門に出場。12選手が参加したライトヘビー級部門で5戦5勝して優勝。優勝賞金の100万ドルを手にした。

 アルゼンチン出身のソルディはブラジリアン柔術は紫帯、キックボクシングで黒帯を持つファイター。ジャングルファイトで経験を積み、UFCにも参戦。PFLで優勝して、MMA後進国のアルゼンチンの選手としては初めて主要MMA団体の王者になり、試合を観戦に訪れていたマイク・タイソンからも祝福された。

 MMAのニュースサイト「MMAジャンキー」のスペイン語版ポッドキャストにゲスト出演したソルディは、優勝賞金1億円を全て使い切ったと明かした

 昨年12月31日に行われた決勝戦に勝利したソルディは、アルゼンチンに帰って、疲れた身体を癒やしていた。試合から3ヶ月が過ぎた頃、世界を襲ったパンデミックがアルゼンチンをも襲撃。3月半ばからは街はロックダウンとなり、貧しい人々は食べるものにも困るようになった。

 「人口18万人の小さな町、リオ・クアルトに住んでいますが、この町はとても貧しく、荒れています。コロナウイルスで経済は悪化して、状況は非常に酷くなってしまいました」

 周囲の状況に心を痛めたソルディは町の人たちを助けようと立ち上がる。食べるものがない町の人たちのために、食料の配給を始めた。

 3月後半から配給を始めたが、ロックダウンはなかなか解かれずに、町の経済も回らない。ソルディの食料配給は8月まで続き、PCLの優勝賞金1億円が気づいたら消えていた。

 「ロックダウン中は町の役所から特別な許可をもらって、週に2、3回は友人と一緒に町へ出て、食料を配っていました。始めは300人分くらいだったのが、ピーク時には3000人分を用意するようになっていました」

 配給した食事はソルディと友人たちが作ったもの。ときには徹夜で数千人分の食事を調理することもあった。

 「優勝賞金の1億円で、自分のためになにも変えませんでしたし、旅行に行くことさえできませんでした。基本的には家から出ることさえできませんでしたからね。お金は全て困っている人たちのために使いました」

 ソルディの善意はリオ・クアルトに住む多くの人たちを助けた。

 「5歳とか10歳の子供が『3日間、何も食べてない』とやってきたり、子供に食事を与えるために母親がお茶しか飲まずに我慢している話を聞き、心が張り裂けそうになりました。とても辛い状況の人たちを見て悲しくなりましたが、彼らを助けたいという気持ちが日に日に強くなっていきました」

 この活動をソルディは全て自分の賞金で賄った。「賞金を全て使い切ってしまいましたが、まったく後悔していません。お腹をすかせて困っている人たちの役に立てたことを喜んでいます。しかし、今もなお飢えに苦しむ人々がいます」と訴える。

 

 アルゼンチンはつい最近まで国境を閉ざし、普段はアメリカでトレーニングをするソルディも国から出ることはできなかった。満足なトレーニング環境も与えられずに、体重は30キロ近くも増えてしまった時期もあったという。ようやく国境が開いたので、12月にはアメリカへ渡り、MMAのトレーニングを本格的に再開して、来年春の試合に備える予定だ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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