高校球児救済 「夏の甲子園」に代わる大会は開催できないのか?

高校球児たちの聖地、阪神甲子園球場(写真:アフロ)

 日本高校野球連盟(高野連)は5月20日に今夏開催予定だった第102回全国高等学校野球選手権大会の中止を発表。「夏の甲子園」の中止を受けて、世の中では多くの議論が行われている。

 Yahoo! JAPANは『みんなの意見』で「夏の甲子園が開催中止、判断は妥当だと思う?」とのアンケートを実施。5月22日時点で6万人以上が投票に参加して、「妥当」が69%、「妥当ではない」が28%で、中止を支持する意見が多かった。

 プロ野球選手からは高校球児の救済を願う声も出ているが、「夏の甲子園」に代わる大会は開催できないのだろうか?

 関西大学の宮本勝浩名誉教授は「夏の甲子園」が中止になった場合の経済的損失を約672億円と算出

 「これは全てのアマチュアスポーツ大会の中で最高額の損失であると推定される。しかし、この夏の甲子園を目指してきた高校球児にとっては、大会の中止はこれらの金額をはるかに上回る生涯の希望の損失となるであろう」とのコメントも併せて発表した。

 700億円近い金額を上回る「生涯の希望の損失」を防ぐためにも、代替大会案を考えてみたい。

 NHKの報道によると大会運営側が地方大会中止を決定した理由は以下のとおり

(1)全国各地でおよそ3800校が参加し、1か月後の6月下旬から8月初めに渡り、およそ250の球場を使って行われる地方大会の感染リスクを完全になくすことはできない。

(2)休校や部活動の休止が、長期に及んでいて、練習が十分でない選手のけがなどの増加が予想される。

(3)授業時間の確保のために夏休みを短縮し、登校日や授業日を増やす動きがある中、地方大会の開催は学業の支障になりかねない。

(4)運営を担う役員や審判員を十分確保できず、治療や感染予防などに当たっている医療スタッフに対して、球場への常駐をお願いできないことが予想される。

(5)公的施設の使用制限で、使用できる球場が限られる可能性がある。

大会中止の理由に対する反論

(1)に関しては、「リスクを完全になくす」ことは不可能であり、新型コロナウイルスにかかわらず、移動中に交通事故に遭うリスクもゼロではない。いかにリスクを減らすかを考えるべきだろう。

(2)炎天下で連戦させ、投手に連投を強いるスケジュールを組む大会運営側が選手のケガの増加を理由にするのは意外な気もするが、練習時間が足りないのであれば、代替大会を夏ではなく秋にするのも手である。

(3)学校の授業で学べることだけが勉強ではなく、課外活動に参加することで学べることも多いはずだ。

(4)役員や審判員はボランティア制ではなく、報酬を支払う。医療従事者への負担を増やすことは避け、大会収益の中から医療従事者の勤務状況の改善に向けて支援金を払う。球場への常駐が必要なのは、アスレチック・トレーナ(AT)であり、ATの多くは新型コロナウイルスの治療に携わってはいない。

(5)公的施設の使用制限は、各地方自治体が許可すれば対応できる問題なのではないだろうか?

地方予選と甲子園大会の間に「スーパー地方大会」を挟んだ代替大会案

 代替大会では各都道府県の予選(従来の地方大会)を勝ち抜いた学校が、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州沖縄の8地方で行われる「スーパー地方大会」で戦う。そのスーパー地方大会を制した8校が甲子園球場で戦う方式はどうだろうか?

 昨夏は49校が出場して48試合が行われた甲子園球場に出られるのは8校と大幅に減り、試合数も7試合に減るが、感染リスクは大幅に軽減できる。

 都道府県予選の放映権を地元のテレビ局に売り、大会の命名権も売ることで、大会運営費を捻出する。

 「スーパー地方大会」は「北海道と関東」、「東北と九州沖縄」、「中部と中国」、「近畿と四国」のような形で4つのパッケージを作って、全国ネットのテレビ局4社に放映権を販売して、試合は全国に生中継する。甲子園と全く同じ環境は提供できないが、試合が全国放送されることで、甲子園に近い経験は提供できるのではないだろうか?

 各都道府県の代表校が甲子園球場に集まるのではなく、移動距離が短い「スーパー地方大会」に参加することで、移動の際の感染リスクと移動経費を軽減できる。選手団の移動は公共交通機関ではなく専用バスを使えば、コロナ禍で経営に苦しんでいる全国の観光バス会社にも多少なりのお金が入る。(沖縄や離島など公共交通機関を使わないと移動できない高校は細心の注意を払って移動する)

 また、「スーパー地方大会」は北海道地方ならば札幌ドーム、中国地方ならばMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島など、その地方で最も球児が憧れる球場で開催する。

 北海道地方は北北海道代表と南北海道代表の1試合のみ。最も多い9県を抱える中部地方は8試合と地方によって試合数のばらつきが大きく不公平感もあるが、そこは目を瞑る。強豪高校の多い関東や近畿での「スーパー地方大会」が甲子園での大会を超える盛り上がりと注目度を集めれば、不公平感も少しは解消できるのではないだろうか?

 「スーパー地方大会」を勝ち抜いた8校が競う「甲子園大会」は7試合をパッケージにして最高値を付けた局に独占中継権を与える。

代替大会開催に必要不可欠な中継権の販売

 昨夏の第101回全国高校野球選手権大会の決勝戦と閉会式の関東地方での視聴率は15.5%。昨秋の日本シリーズの関東地方での視聴率は最終の第4戦が11.8%で、4試合の平均は9.4%だった。

 日本シリーズの中継権料は1試合1億円前後と言われており、「甲子園大会」7試合のパッケージは5億から10億円の収入が見込める。2017年にJリーグと10年間総額2100億円の放映権契約を結んだDAZNやBリーグと3年90億円でネット放送権を含むトップパートナー契約を結んだソフトバンクのようにネット配信サービスが高値で独占中継権を買うかもしれない。最近はアマゾンプライム・ビデオやネットフリックスなどの動画配信サービスが、高額な制作費をかけたオリジナル・コンテンツに力を入れており、「甲子園大会」を独占配信できるのであれば10億円以上を払うかもしれない。アマゾンプライム・ビデオの日本向けオリジナル・バラエティ番組の制作費はバブル期のゴールデンタイムの人気番組に匹敵すると言われる。また、世界規模の話だが、ネットフリックスはオリジナル・コンテンツの制作費に1兆円以上を費やしている。これはアメリカ3大ネットワーク各社の年間予算の2倍以上で、テレビ局よりも動画配信サービスの方が元気があるのは間違いない。

 「スーパー地方大会」と「甲子園大会」はそれぞれ冠スポンサーに命名権を売り、協賛企業からも協賛金を募る。

 勘違いしてほしくないが、この大会は利益を追い求めるためではなく、球児たちに夢を叶える場を提供するために行う。球児の経済的負担を極力減らすために、移動費と宿泊費は大会運営側で負担する。そのために中継権を売り、協賛金を募るのだ。剰余金は前述したように医療従事者の勤務環境改善のための支援金や、社会貢献のために寄付をすれば、大会開催の意義も高くなる。

 「球児の夢を応援」と「社会的貢献」を目的とした大会であれば、協賛企業の企業イメージアップにも繋がるはずだ。

 高野連と共に全国高校野球選手権大会を主催する朝日新聞社は、2019年度の第101回大会の収支報告の中で、収入が約6億6000万円、支出が約4億4000万円で、約2億円の剰余金が出たと報告している

 収入のほとんどは約72万人の有料入場者数から得た入場料収入。今回の代替大会は新型コロナウイルス感染防止から無観客で行ったとしても、放映権料収入と協賛金収入を合わせて20億円近い収入が見込めそうなので、参加球児の経済的負担をほぼゼロにできる。

甲子園大会出場校を8校に減らすメリット

 NHKの報道では「甲子園球場で行われる全国大会については、開催期間が2週間以上に及び、代表校の選手や関係者が全国から長時間かけて移動して、集団で宿泊することなどを考慮すると感染と拡散のリスクを避けられないとしています」とあるが、「甲子園大会」への出場校を8校に限定することで、開催期間を短縮できるだけでなく、過密日程の問題も同時に解消できる。移動はできる限り公共の交通機関ではなく専用のバスを使い、宿泊も大部屋を避けて個室にするなど感染と拡散のリスクはできるだけ抑えていく。北海道から甲子園までの長時間バス移動は球児たちに身体的負担をかけてしまうが、移動距離の長い高校には座席数が少なく、一席あたりの座席スペースが広いラグジュアリー・バスを使うなどで対応する。プロ野球は6月19日開幕に向けて動いており、移動や宿泊の手段はプロ野球が参考になるだろう。

 ここまでの案は数時間で考えたもので、実現へ向けての課題も多くあるのは承知だが、提案することで検討の叩き台になれば幸いだ。

 実現へ向けての最大のハードルは、高校野球を金儲けの手段として使うことへのアレルギーだと思われるが、何度も説明しているように収入は球児の経済的負担を減らすために直接還元して、剰余金は社会に寄付をすれば、代替大会を開催する意味はある。