筒香、秋山と面談したレイズが筒香を選んだ理由
ウィンター・ミーティング期間中に筒香嘉智と秋山翔吾、2人の日本人打者と面談したタンパベイ・レイズ。ニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスーーメジャーを代表する金満強豪2球団ーーと同じアメリカンリーグ東地区に属するスモールマーケット・チームのレイズは独自の補強方針で二強と競い合ってきた。
2019年開幕時のチーム年俸はヤンキースがメジャー2位の2億544万ドル(約225億9840万円)で、レッドソックスがメジャー4位の2億433万ドル(約224億7630万円)だったのに対して、レイズはメジャー最下位の5350万ドル(約58億8500万円)とヤンキースやレッドソックスの約4分の1でしかない。
しかし、順位を見てみると103勝のヤンキースが地区首位で、レイズは96勝で地区2位。この2チームがプレーオフに進み、レッドソックスは84勝で地区3位に終わった。
ヤンキースやレッドソックスのように資金が豊富ではないレイズが競い合っていくためには、マネーゲームに対抗する手法でチーム作りを進めていくしかない。
今オフにはヤンキースがフリーエージェント(FA)のゲリット・コールを9年総額3億2400万ドル(約356億4000万円)で獲得。レイズが今オフ最初に契約したのが2年総額1200万ドル(約13億2000万円)の筒香だった。
12月8日から12日までカリフォルニア州サンディエゴで開催されたウィンター・ミーティングの期間中にレイズは筒香と秋山の2人と面談している。
なぜ、レイズは秋山ではなく筒香との契約を選んだのだろうか?
まずは2019年シーズンのレイズ布陣を見てみよう。
レイズのチーム総得点はア・リーグ15球団中7位タイの769得点で、リーグ平均を下回った。失点はリーグ2位の656得点だったので、投手陣よりも野手陣の補強が今オフの優先課題として挙げられる。
ここで注目したいのは「WAR」という数字。WARとは「Wins Above Replacement」の略で、メジャー最低レベルの選手と比べた勝利への貢献度を示している。マイナスの場合は最低レベル以下の選手、2.0以上だとレギュラークラス、5.0以上がオールスター・レベル、8.0以上がMVPクラスだと言われている。
レイズの場合、捕手、二塁手、三塁手の3ポジションが穴である。
ウィンター・ミーティングが始まる2日前の12月6日にレイズはサンディエゴ・パドレスと2対3のトレードを敢行。トミー・ファムと二刀流マイナーリーガーのジェイク・クロネンワースを放出して、3年連続25本塁打以上を放っているハンター・レンフローと有望プロスペクトのゼビエル・エドワーズ、後日発表のマイナーリーガーの計3選手を獲得した。
調停の権利を持つファムは今季の年俸410万ドル(約4億5100万円)から来季は860万ドル(約9億4600万円)への倍増が予想される。昨季の年俸が58万ドル(約6380万円)だったレンフローも調停権を持つが、来季の予想年俸は340万ドル(約3億7400万円)で、このトレードで500万ドル(約5億5000万円)以上を削減できる。総合的な貢献度はファムの方が上だが、レンフローは4歳も若く、確実性はなくともパワーがある。また、レンフローは守備も良く、外野の3ポジション全てを任せられ、2019年の守備防御点22点はメジャー全体で2位なので、守備面での向上も期待できる。
この結果、ウィンター・ミーティング時点でのレイズの布陣はこのように変わった。
リリーフ投手に試合最初の1、2イニングを任せる「オープナー」を生み出したレイズは、斬新でユニークな戦術で戦うチーム。
2019年に右翼をプレーしたアビザイル・ガルシアはFAなので、代わりの右翼手として筒香と秋山をターゲットに定めた。
レイズは守備力を大切にするだけに、俊足強肩でゴールデングラブ賞を6度も取っている秋山の方が、守備が苦手と言われる筒香よりもチームにフィットしそうだ。
守備面で筒香が秋山を上回る唯一のポイントは外野も内野も守れること。
秋山は外野の3ポジションを守れるが、筒香は左翼だけでなく、一塁と三塁も守れる。レイズはFAのガルシアとの再契約にも動いており、ガルシアとの再契約に成功した場合には筒香を一塁か三塁に回すことができる。
筒香はウィンター・ミーティング期間中に渡米してロサンゼルスで自主トレをしていたが、レイズの首脳陣はサンディエゴから2時間以上かけてロサンゼルスまで筒香の自主トレを視察に訪れている。
その際、筒香の三塁守備を見て、メジャーでレギュラーを任せても問題ない守備力だと判断したようだ。
日本でも筒香の守備力は良いとは言えず、多少は守備に目をつぶっても打撃力があるから起用されていた。そんな筒香の守備がなぜ、レイズのフロントに評価されたのだろうか?
筒香はメジャーでも数多くのクライアントを抱えるワッサーマン社に代理人業務を依頼しているが、同じワッサーマンのクライアントであるコロラド・ロッキーズのノーラン・アレナドと一緒にロサンゼルスで自主トレをしていた。ロッキーズと8年総額2億6000万ドル(約286億円)の大型契約を結ぶアレナドは本塁打王に3度輝いた打撃だけでなく、ゴールドグラブ賞も7年連続して選ばれている守備の名手。ポジションに関係なくリーグで最も優れた守備選手に贈られるプラチナ・ゴールド・グラブを3年連続して受賞している。
筒香とアレナドは同じ年で、2017年のWBC準決勝ではアレナドがアメリカ代表の4番打者、筒香は日本代表の4番として対決した縁もある。
メジャー最高の守備力を持つアレナドと一緒に練習をして、守備面でのアドバイスを受けたことで筒香の守備力が改善したのではないだろうか?
韓国出身の崔志萬(ジマン・チョイ)も不安定なので、右翼、一塁、三塁で起用できる筒香は、レイズのニーズに合った選手と言える。
レイズが筒香に払う600万ドル(約6億6000万円)の年俸は、メジャー最低年俸選手の多いレイズの中では高年俸に入る。筒香を控え選手としてではなく、レギュラーとして考えているからこそ提示した契約だ。
守備位置は右翼、三塁、一塁、指名打者のどこになるかはまだ分からないが、レイズとしては筒香の守備位置を固定することなく、そのときの状況に応じて使っていきたいと考えているはずだ。
レイズは2019年に152通りものスターティング・ラインナップを使っており、相手チーム、先発投手によってスタメンを細かく調整してくる。
多くの守備位置で先発起用できるからこそ、レイズは当初は本命だと思われた秋山ではなく、筒香を選んだ。