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黒田博樹の「男気」をWBC決勝の舞台でみたい

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
WBC決勝戦が行われるドジャー・スタジアムで投げる黒田博樹(三尾圭撮影)

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場する8選手が1月24日に追加発表され、これで28人中27選手が明らかとなった侍ジャパン。

発表会見の席上で小久保裕紀監督は「投手を中心とした守り」の野球で「世界一」を奪回すると高らかに宣言したが、世界一どころか2次ラウンドを勝ち抜いて、アメリカで行われる決勝ラウンド進出を疑問視する声も少なくない。

第1回、第2回大会では連覇をしたが、2013年の第3回大会では準決勝で敗退。先の2大会との大きな違いは、メジャー組不在で国内メンバーだけで臨んだことだった。

メジャー組不在の前回WBCでは準決勝で敗退(三尾圭撮影)
メジャー組不在の前回WBCでは準決勝で敗退(三尾圭撮影)

前回の反省から、今回はメジャーリーグで活躍する選手たちを招集するために、昨夏にはアメリカを訪れて選手と面談するなど積極的に動いた小久保監督。ほとんどの日本人メジャーリーガーが代表入りを望んだが、今オフにチームを移籍したばかりだったり、所属チームが認めなかったりの理由で、メジャー組からの参加はアストロズに移籍した青木宣親、一人だけになってしまった。

今回のメジャー組はWBC2連覇メンバーの青木宣親だけ(三尾圭撮影)
今回のメジャー組はWBC2連覇メンバーの青木宣親だけ(三尾圭撮影)

「投手のところが一番悩みました」と小久保監督が明かしたように、WBCのような国際大会では投手の出来がチームの勝敗を左右する。

WBCで使用されるボールはメジャーの公式球と同じで、メジャー経験のない日本人投手は慣れるのに苦労する。また、決勝ラウンドが開催されるドジャー・スタジアムのマウンドの固さや傾斜も日本の球場とは異なるので、打者以上に投手はメジャー経験者の方が本来の実力を発揮しやすい。

「WBCには出ません。現実的に考えて、手術から帰ってきたばかりで、3月の寒い時期はあまりにもリスクが高すぎる」(レンジャースのダルビッシュ有)、「いろいろな状況を考えたときに、参加するのは難しいので不参加という形を取る」(ヤンキースの田中将大)、「球団の方と話をして、辞退する結果になって申し訳ない」(ドジャースの前田健太)、「今回のWBCは辞退させていただきました。本当に悔しい思いがありますが、自分はカブスの一員になったわけで、そのチームから、社長からGMから、あまり出てほしくない旨を言われたら仕方ない」(カブスの上原浩治)。WBCで侍ジャパン投手陣の柱として活躍した経験を持ち、現在はメジャーリーグでプレーする日本人投手たちは、次々に今回の代表入りを辞退した。

ダルビッシュを始め、現役メジャー組は辞退者が続出した(三尾圭撮影)
ダルビッシュを始め、現役メジャー組は辞退者が続出した(三尾圭撮影)

現役のメジャーリーガーがダメならば、メジャーで確かな実績を持つあの投手をチームに迎え入れる案はどうだろうか?

そう、昨季限りで広島カープを引退した黒田博樹だ。

2014年の年末に古巣のカープ復帰を決意した黒田は、メジャー球団からの約18億円のオファーを断って、年俸4億円のカープを選ぶ「男気」を見せた。

昨季はカープを日本シリーズまで導いたが、残念ながらも日本一には手が届かず。満身創痍な状態でも二桁勝利を挙げ、最後の登板となった日本シリーズ第3戦でも見事な投球を見せた。

黒田本人は完全燃焼した上での引退だと思うが、「第7戦までいくと、自分が投げるつもりでいました。何とか日本一になるために投げたいと思っていましたけど、こればっかりは勝負ごと」と、あと1試合登板の機会が回ってくるはずだった。

その失われた最後の先発の機会を、4年間ホーム・フィールドとして過ごしたドジャー・スタジアムのマウンドで見せて欲しい。「日本一のために」投げるのではなく、「世界一」のために投げるのだ。

黒田は高校、大学、プロ野球、メジャーリーグ、国際大会を通じて頂点に立ったことが一度もない。男、黒田の最後の花道として、WBC優勝での世界一以上に相応しいシナリオは考えられない。

黒田自身は納得がいくまで調整をしてからマウンドに上がるタイプなだけに、今から調整を始めて、3月7日のWBC第1ラウンドまで身体を仕上げるのに時間は足りない。しかし、東京ドームで行われる第1、2ラウンドは国内組の投手に任せて、3月22日の決勝戦に照準を合わせれば調整の時間は2ヶ月ある。WBC後に長いペナントレースを戦う他の選手たちと違い、WBC決勝戦1試合だけに照準を合わせて調整すれば、決勝戦で投げられるコンディションを作れないだろうか?

もう一度だけマウンドで投げる黒田博樹の姿を見たいファンは多い(三尾圭撮影)
もう一度だけマウンドで投げる黒田博樹の姿を見たいファンは多い(三尾圭撮影)

黒田をロースターに加えるメリットは、彼が決勝戦の1試合しか投げなくても十分にある。今回のWBCでは各国がメジャーリーグで活躍する選手を多数送り込んでくるが、黒田はそのような選手たちと実際に対戦した経験を誇る。

スカウトが分析したスカウティングリポートの情報よりも、実際にマウンドで対戦した生の情報の方が投手陣には役立つ。プロ野球で通算124勝、メジャーでも79勝の実績を誇る黒田がベンチにいるだけで、若手が多い投手陣にとっては精神的な支柱にもなる。コーチ陣にもメジャー経験者がいないので、黒田がメジャー生活7年間で培った経験は大きな財産だ。

メジャー通算79勝の黒田が侍ジャパンにもたらすものは大きいはずだ(三尾圭撮影)
メジャー通算79勝の黒田が侍ジャパンにもたらすものは大きいはずだ(三尾圭撮影)

2004年のアテネ五輪では中継ぎとして2勝を挙げ、銅メダル獲得に貢献した黒田。2006年の第1回WBCでもメンバーに選ばれたが、練習試合で打球を右手に当てて負傷して、出場を辞退した。2008年の第2回WBCは前年に痛めた右肩の状態が回復せず、調整が間に合わないとの理由で辞退。カープの大先輩である山本浩二が監督を務めた第3回大会も「登板数、投球回数や年齢のことを含めて3月に(体調を)マックスの状態に持っていくことは難しかった」と断っている。

日本代表のために戦いたいとの気持ちを持ちながらも、無念の辞退を続けてきた黒田は、今回は今後のことを考えずにWBCだけに専念できる。

黒田本人は「ファンの一人として応援している。世界一に向けて力を合わせて頑張ってほしい」と復帰の気持ちはないようだが、広島のために見せた「男気」を今度は侍ジャパン、そして日本のファンのために見せて欲しいものだ。

第2回大会に続き、ドジャースタジアムで優勝トロフィーを掲げる日本代表の姿が見たい
第2回大会に続き、ドジャースタジアムで優勝トロフィーを掲げる日本代表の姿が見たい
スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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