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Bリーグのレブロン。Bリーグ最強選手、ニック・ファジーカス独占インタビュー

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
Bリーグ最強選手、川崎ブレイブサンダースのニック・ファジーカス(三尾圭撮影)

レブロン・ジェームズが世界最高の現役バスケットボール選手だという意見に異論を持つ人は少ない。

世界中からトップレベルの選手が集まるNBAの中でも頭1つ抜け出た存在で、これまでに4度もMVPに選ばれている。

日本のプロ・バスケットボール・リーグ、Bリーグにもレブロンのように圧倒的な支配力を誇る選手がいる。川崎ブレイブサンダースのセンター、ニック・ファジーカスだ。

2012年に東芝ブレイブサンダースに入団したファジーカスは、いきなり得点王のタイトルを手にして、チームを準優勝に導く。2年目はNBLと天皇杯の二冠の原動力となり、MVPと得点王をダブル受賞。昨季もブレイブサンダースにリーグ優勝をもたらした。昨季までの日本のトップリーグでプレーした4年間で、リーグ優勝2回、MVP1度、得点王3回、リバウンド王2回を手にしたリーグ・ナンバー1選手だ。

レブロンとファジーカスの共通点は多い。

二人共に年齢は31歳で、所属リーグでは絶対的な存在として君臨。昨シーズンはそれぞれのリーグで優勝の美酒を味わった。2人共に得点王に何度も輝いたスコアリング・マシンだが、得点だけの選手ではない。勝利のためならば、自己の成績を犠牲にできる「勝利最優先」マインドの持ち主で、リバウンド力やパス能力にも優れている。

Bリーグで最も支配力のある選手はニック・ファジーカスだ(三尾圭撮影)
Bリーグで最も支配力のある選手はニック・ファジーカスだ(三尾圭撮影)

Bリーグ元年の今季は、2位に6得点差以上の試合平均28.4得点を稼いで得点王争いで独走するファジーカス。11.7リバウンドはリーグ3位で、チームはリーグ最高勝率を記録している。

Bリーグ初代王者の座を狙うライバルチームにとって、ブレイブサンダースは最大の壁として立ちはだかっており、ブレイブサンダースを倒すためにはファジーカスを止めなくてはならない。各チーム共にファジーカス対策を練って試合に臨んでいるが、ファジーカスは相手の対策をあざ笑うかのように得点を積み重ねて、ブレイブサンダースに白星を与える。

ブレイブサンダースと共に初代Bリーグ王者の有力候補と言われるのがアルバルク東京。そのアルバルクで中心選手として活躍する竹内譲次もファジーカスはリーグで最も支配的で、別格な選手だと認める。

「すごく賢い選手ですし、余裕を持ってプレーしているなと感じます」

12月23、24日に行われたブレイブサンダース対アルバルク戦では、初戦でファジーカスが39得点、12リバウンドの大活躍でブレイブサンダースの勝利に貢献。続く2戦目は25得点、12リバウンドに『抑えられて』、川崎の連勝記録は15で止められた。

25得点、12リバウンドの結果を残した選手を『抑えた』というのは違和感があるが、ファジーカスを相手にした場合には『抑えた』という表現が正しいのかもしれない。

ファジーカスとマッチアップした竹内譲次(左)もBリーグ最高の選手だと証言する
ファジーカスとマッチアップした竹内譲次(左)もBリーグ最高の選手だと証言する

――君はBリーグのレブロン・ジェームズのような特別な存在だけど、自分でもそう感じる?

ニック・ファジーカス(以下NF):そうだね、僕もそう思うよ(笑)。コートに立てば、いつでも試合を支配したいという気持ちを持ってプレーしているのは、レブロンと同じだと思う。

――日本のバスケットボール界で成功できている要因をどう分析する?

NF:オフシーズンには誰よりも熱心に練習に取り組んで、より良い選手になれるように成長を続けている。各チームは僕を止めるために様々な作戦を立ててくるので、その作戦の上をいくプレーができるように、カウンタームーブを用意している。毎年、夏になると新たな武器を身に付けて、それまで以上のバスケットボール選手になれるように努力を積み重ねている。

――30代になっても成長を続けているけど、そんな選手は少ない。

NF:僕は身体能力に頼るタイプではなく、技術を磨くことによって上達するタイプなんだ。シュートレンジを広げたり、シュートの精度を高めたりするのには、年齢はあまり関係ないからね。

――ここ数年のバスケットボールの傾向としては、ストレッチ4に代表されるように、ビッグマンによる外からの攻撃が増えてきている。君も今季の3ポイントシュート成功率47.6%が示すように外からのシュートも非常に巧いけど、それ以上に驚きなのがミッドレンジからの得点力の高さだ。NBAでもミッドレンジからのシュートを苦手とする選手が多いのに、君はコート上のどこからでも得点できる真のスコアラーだよね。

NF:ミッドレンジからのシュートは簡単ではないけど、ディフェンダーにとっても守るのが難しいエリアなんだ。だからこそ、ミッドレンジからのシュートを決められるようにたくさんの練習を重ねてきた。オフバランスの体勢からのシュートや、フローター、ピック&ポップなどの練習を繰り返して、ミッドレンジに対する苦手意識をかき消したんだ。

難しいミッドレンジからのシュートも難なく決めるファジーカス(三尾圭撮影)
難しいミッドレンジからのシュートも難なく決めるファジーカス(三尾圭撮影)

――フリースロー成功率も78.9%と高く、フリースローで稼いだ得点数もリーグで2番目に多い。相手チームは君を止めるためにファールを仕掛けてくることも多いけど、これだけフリースロー成功率が高ければ、ファールで止める戦術も通用しないね。

NF:外国人選手にとって、新しい国のリーグに来た当初はフリースローに苦労する傾向があるんだ。ボールの違いなのか、空気が違うのか、その理由は定かではないんだけどね。僕もヨーロッパでプレーした当初はフリースローが入らずに苦労したもんだ。だけど、フリースローは「フリー」なんだから、絶対に決めないといけない。僕は常にそう考えてきた。フリースローに対しても真剣に取り組んでいて、毎日の練習でもしっかりとフリースローの練習をやっている。

――相手チームは君を止めるために、様々な作戦を用意して試合に臨んでいる。その中で活躍を続けるのは簡単ではないはずだけど、君はいとも簡単に得点を積み重ねてくるよね。

NF:僕は自分のプレーをすることに専念して、オープンな場所を探してボールを貰えるだけだよ。ダブルチームを受けるのには慣れているし、それでもオープンになる術はあるんだ。それに、このチームには優秀な選手がたくさんいる。僕がダブルチームで相手ディフェンダーを引き付ければ、それだけチームメートにオープンシュートの機会を提供できる。バスケットボールは個人競技ではなく、チーム全体でプレーするスポーツだからね。パス技術に優れたチームメートが多いので、的確なタイミングと場所で僕にボールを渡してくれる。

――オフェンスではポジショニングが非常に良いけど、それは相手チームのディフェンスを研究しながら合わせて動いているの?

NF:試合の流れを読みながら、僕がボールを欲しいと思う場所に動くようにしている。ディフェンスに僕がボールをもらう場所を決められるのではなく、僕自身がボールを欲しい場所に動いて、ディフェンスのポジションを僕が決めた方が良いプレーに繋がる。そのためには、正しいカットやフットワークが必要になるんだ。自分が自信を持ってシュートを打てる状況を作り出すようにしている。

――2ポイントシュートの成功率は62.5%で、無駄なシュートがほとんどない。ダブルチーム、トリプルチームで守られたときには、無理にシュートを打つのではなく、外でフリーになった選手に的確なパスを送るパス技術も備えているよね?

NF:高校生のときからダブルチームを受けているので、どんなダブルチームにも対応できる自信は持っている。ダブルチームからでも得点を狙えるときはシュートを打つけど、誰かフリーのシューターが生まれる瞬間でもあるので、周りの動きには気を配るようにしている。あと、ダブルチームをされた方がシュートを楽に打てる状況もあるので、ダブルチームされるのは全く気にならない。

210センチの長身から放たれるシュートの打点が高いのでダブルチームも苦にしない
210センチの長身から放たれるシュートの打点が高いのでダブルチームも苦にしない

――今年はBリーグ元年だけど、Bリーグ体制になって昨季までのNBLとどのような違いがある?

NF:バスケットボールに関してはあまり大きな違いはないけど、チーム数が増えたことによって、リーグはよりエキサイティングなものになった。

――多くのプロフェッショナル・リーグではエクスパンションなどでチーム数が増えると、その分だけリーグ全体のレベルが下がる傾向があるけど、それは感じる?

NF:レベルの低下は感じないけど、チーム数が増えたことによって、他地区のチームにはシーズン中に数回しか対戦しないチームもあるので、相手チームの特徴をよく把握できないままに試合をすることはある。これは同時に相手チームも僕らの分析をしっかりできていないので、こちらのアドバンテージに繋げることもできる。

――君はNBAでのプレー経験もあるけど、NBAでは僅か1シーズン、26試合しかプレーしていない。このリーグには、NBAで君よりも実績を残してきた選手もいるけど、君よりも成功を収めている選手はいないのは、どうしてだと思う?

NF:NBAだって間違えを犯すことはある。ドラフト上位で指名されたからと言って、成功が保証されるわけではなく、数年でNBAを去る選手もいれば、ドラフト外からNBAに定着する選手だっている。ドラフト2巡目やドラフト外で指名した選手に対しては、辛抱強く育てようとするのではなく、1年か2年使ってみて芽が出なければ、すぐに手放してしまう。僕はNBAを離れてからも、より良い選手になりたいという目標を持ちながら成長を続けてきた。どこでプレーするのかが大切なのではなく、自分がどれだけ良い選手になれるかが大切なんだ。Bリーグでプレーすることが好きだし、川崎の勝利のために全力でプレーしている。

NBAロサンゼルス・クリッパーズ時代のファジーカス(2008年3月、三尾圭撮影)
NBAロサンゼルス・クリッパーズ時代のファジーカス(2008年3月、三尾圭撮影)

――新リーグが誕生して、多くの元NBA選手がBリーグでプレーしている。年明けには元レイカーズのロバート・サクレがBリーグ入りするとのニュースもあるが、このトレンドは今後も続きそうだ。

NF:新加入の外国人選手は適応力が問われる。正しい方法でプレーして、いかにチームに馴染めるかが鍵となる。NBAでのプレー経験があるからと言って、Bリーグで活躍できる保証は何もない。Bリーグのシーズンは9ヶ月、10ヶ月の長丁場であり、毎試合安定した活躍を続けるためには、それなりの覚悟と献身の気持ちが問われてくる。僕の場合は、幸運にも川崎という最高のチームでプレーする機会が与えられた。川崎は僕のようにサイズと得点力を持った選手を必要としており、僕はすんなりとチームが望んでいた役割にはまることができた。川崎が僕の力を必要としていたのと同時に、僕も川崎のようなチームを必要としていたんだ。

――日本で5年目のシーズンを迎えているけど、コート外での生活での適応は大変だった?

NF:それほど大変ではなかったね。日本のファンは僕を快く迎えてくれたし、チームメートやコーチ陣もすぐに僕を仲間として受け入れてくれた。コート外で不満を抱えていれば、コート上で良い成績を残すのは難しい。川崎は東京からも近く、アメリカと同じような生活環境で過ごすことができるのは大きかった。英語を話せる人もたくさんいるし、アメリカの食事にも困らない。これが地方のチームになると、また事情は大きく異なり、適応するのも大変になるだろう。僕はヨーロッパの小さな田舎町のチームでプレーした経験もあるけど、そのときの方の適応は大変だったし、コートで結果を出すのにも苦労した。練習に行くのも気が乗らなかったし、全てを後ろ向きに捉えてしまった。川崎では電車の乗り方さえ覚えてしまえば、快適な生活を送れて、僕も妻も大変満足している。

――野球の世界では、日本で結果を残して、メジャー復帰を狙う選手も多い。君は将来的にNBAに復帰したと思っている?それとも日本で現役生活を終わらせるつもりかな?

NF:アメリカでのプレーに全くこだわってないし、日本でのプレーにとても満足しているので、ここで現役生活を終えたいと思っているね。日本がとても好きだし、日本のバスケットボールも大好きだ。これからBリーグはもっと大きく発展していくので、その成長の一部を担いたいし、成長の過程を見ていきたい。あと何年現役生活を続けていけれるか分からないけど、このまま僕も成長を続けていれければ、まだまだプレーできると思っている。あと、5年、いや10年はプレーを続けたい。まずは今季、Bリーグ初代王者になれるように全力でプレーしていく。

Bリーグに骨を埋める覚悟だと口にしたファジーカス。Bリーグはこの男と成長していく
Bリーグに骨を埋める覚悟だと口にしたファジーカス。Bリーグはこの男と成長していく
スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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