Yahoo!ニュース

30年続くプロレス界最大のリーグ戦「G1 CLIMAX」は、なぜファンを惹きつけるのか?

清野茂樹実況アナウンサー
第1回大会での蝶野正洋の優勝が歴史を変えた。(写真:東京スポーツ/アフロ)

現在、新日本プロレスの『G1 CLIMAX 31』が開催中である。1991年の第1回大会から続く同大会は今年で満30年を迎えた。企画や選手が頻繁に変わる新日本プロレスにおいて、G1 CLIMAXは、なぜこれほど長く続き、ファンを惹きつけるのか?第1回から大会を見続けている筆者がその理由について解説する。

誰が来るかわからない

G1 CLIMAX(以下G1)がファンの心を掴む理由は、4つあると考える。まずトップ選手によるシングルマッチが観られることは当然として、やはり、第1回大会で“大穴”と呼ばれた蝶野正洋が優勝した影響が大きい。あの結果によって、ファンの間には「G1は誰が来るかわからない」というイメージが植え付けられたからだ。実際、関係者・マスコミであってもG1の優勝者を的中させるのは容易ではない。もちろん、ガチガチの“大本命”が優勝した年もあるし、連覇もある。しかし、そんな事実を吹き飛ばしてしまうほど第1回大会のインパクトは大きかった。昭和の時代はどの団体も「リーグ戦の優勝は団体のエース」が多く、そのイメージをG1が覆してブランドを作り上げたのである。ちなみに、G1という大会のネーミングは競馬の重賞レースに由来しており、いきなり「万馬券」が出たというわけだ。

業界の常識を破った真夏の開催

二つ目の理由は、大会が真夏に開催されることだ。G1が生まれる以前、力道山の時代からプロレスのリーグ戦は春開催と相場が決まっていたし、昔から興行の世界では「8月は不入りになる」というのが定説だった。ところが、G1は業界の常識を打ち破って、ぽっかり空いた期間に連戦を組んだところ、ファンの需要とぴったり合致したのである。今でこそ、真夏の大型イベントは常識だが、1991年当時は新しかった。よく考えれば、真夏のG1と新年の東京ドーム大会の間隔は、日本人の体内カレンダーにある「盆と正月」に重なってちょうど良いし、夏の甲子園と同様、ダラダラと汗をかきながら観戦した試合の記憶は、暑さと結びついて不思議と忘れない…と、ここまで書きながら、昨年と今年のG1は秋開催なのだが、こればかりは東京五輪の影響なのでやむを得ない。来年は再び夏に戻るだろう。

星取り争いによって生まれるドラマ

そして、三つ目の理由は、大相撲と同じ優勝制度である。連日にわたって勝ち点を競い、最終日に1人の優勝者を決めるというG1の優勝制度は大相撲と同じで、日本人の好みに合っているからだ。まさかの番狂わせ、ケガによる欠場、最後まで読めない大混戦など、リーグ戦で起こるドラマは大相撲の本場所とぴったり重なる。しかも、優勝決定戦という「千秋楽」は(過去3回を除き)両国国技館だ。もちろん、大相撲にまったく興味のないプロレスファンも多いと思うが、海外にはこうしたリーグ戦が存在せず、日本の団体にのみ多数存在する事実は、星取り争いが日本人の好みであることの証明になる。ちなみに「星取り」という言葉は大相撲に由来するもので、第1回大会で蝶野が優勝を決めた直後、館内に「座布団」が舞ったのも、大相撲で番狂わせが起きたときと同じ反応である(現在、プロレス興行の枡席に座布団は置かれていない)。

新しいスター誕生への期待

そして、最後の理由は、G1から新しいスターが誕生する期待感だ。第1回大会は蝶野の他に武藤敬司、橋本真也という当時20代だった“闘魂三銃士”が優勝を争って新しい時代の到来を印象づけたし、後藤洋央紀やケニー・オメガは初出場で優勝してランクを上げていった。やはり、G1という“本場所”を境にしてレスラーの“番付”が変わるのをファンは楽しみにしているのだ。思い返せば、新日本プロレスの創業者、アントニオ猪木も26歳で「ワールド大リーグ戦」を制して格上げされたように、大会を機に若い選手がジャンプアップするのはひとつの伝統であり、醍醐味である。近年は優勝者にはIWGP王座挑戦権利証が渡されるようになっており、優勝者が最高峰への階段を昇っていく姿をファンは見ることができる。

以上が、筆者の考える理由である。先述したように、今年は開催時期が秋にずれたし、優勝決定戦は本拠地の両国国技館を離れ、平日開催となる。加えて、コロナ禍による観客数の減少など、例年と異なるマイナス要素は少なくない。しかし、出場回数や優勝回数などすべての記録は、継続しているからこそ生まれるものだし、30年かけて作り上げてきたブランドは、どんな形であれ、継続することが最も大切だと思う。ここまでのリーグ戦を見ると、試合内容はいずれも濃厚で、30分という制限時間で個性をしっかり見せるプロの仕事に圧倒されてしまう。10月21日の日本武道館は、閉塞したムードをすべてはね返すような、劇的な優勝決定戦を期待している。

※文中敬称略

実況アナウンサー

実況アナウンサー。1973年神戸市生まれ。プロレス、総合格闘技、大相撲などで活躍。2015年にはアナウンス史上初めて、新日本プロレス、WWE、UFCの世界3大メジャー団体の実況を制覇。また、ラジオ日本で放送中のレギュラー番組「真夜中のハーリー&レイス」では、アントニオ猪木を筆頭に600人以上にインタビューしている。「コブラツイストに愛をこめて」「1000のプロレスレコードを持つ男」「もえプロ♡」シリーズなどプロレスに関する著作も多い。2018年には早稲田大学大学院でジャーナリズム修士号を取得。

清野茂樹の最近の記事