高校生選手への鉄剤注射。米国の高校スポーツはどのように対応したか

(写真:アフロ)

 読売新聞によると、高校駅伝の一部強豪校で貧血治療用の鉄剤注射が不適切に使われていたことが分かったという。

 

 鉄剤注射は、過剰に投与すると、体内に鉄分が蓄積され、肝機能障害などを引き起こす恐れがある。

 読売新聞は11日付で、日本陸上競技連盟が来年12月の全国高校駅伝大会から、選手の血液検査結果の報告を義務付ける方針と伝えた。記事には、スポーツ庁でドーピングを管轄する担当者の「ドーピングに似た行為で残念の一言」という言葉も記されていた。

 スポーツの盛んな米国では、高校生アスリートのドーピング問題に直面してきた。2003年にテキサス州の高校野球選手だったテイラー・ホートンが、アナボリックステロイドを使用。しばらくすると副作用から鬱になり、自ら命を絶ってしまった。

 アナボリックステロイドの使用が、自殺につながったかどうかははっきりとは分からないが、17歳の有望選手の死は衝撃的だった。その後、米国では、高校生アスリートにもドーピング検査をするべきだという声が巻き起こり、テイラー・ホートンの父、ドン・ホートンさんも議員を通じて高校生に対しても検査をするよう求めていた。

 日本で起こった鉄剤の不適切使用は指導者の指示によるもので、米国の高校生のステロイド使用問題とは背景が異なる。米国の高校生アスリートは海外のオンラインサイトなどから、大人の目を盗んでステロイドを購入しているケースが多いとされている。2002年にミシガン大学が調査したところによると、高校生選手の3%が「1度はステロイドを使ったことがある」と回答したそうだ。

 米国ではニュージャージー州が他州に先駆けて2006年から、高校運動部選手を対象にドーピング検査を開始した。全ての高校運動部の選手を検査するのではなく、州の決勝トーナメントに進出してくる各競技の計500名程度を対象にしたもの。2年前の2016-17年度は、502人が検査を受け、陽性反応を示したのは1人だった。ドーピング検査を導入してから陽性反応はおおむね1%以下にとどまっている。2013年時点では、ニュージャージー州のほか、イリノイ州、テキサス州の3州が高校の運動部員を対象にドーピング検査を行っていた。

 高校生を対象にしたドーピング検査の問題は費用がかかることだ。ニュージャージー州では、前述したように州の決勝トーナメント大会に出場する約500人を対象にしているが、約10万ドル(約1130万円)かかっている。ニュージャージー州の高校運動部を総括する連盟と、ニュージャージー州が5万ドルずつ費用を負担している。

 テキサス州では2007-08年度に1万117人の高校運動部選手を対象にしたドーピング検査をし、陽性反応が2人、クリアにならなかったサンプルが4件あった。このときには、検査費用に約100万ドル(約1億1300万円)かかったとされている。

 高校生を対象にしたドーピング検査がなかなか他州に広がっていかないのは、費用の負担が大きいからだ。フロリダ州でも1年だけ、検査を行ったが、費用の問題で打ち切りになった。

 米国では、高校の運動部員を対象にした大規模なドーピング検査は、検査会社を儲けさせるだけ、という批判もある。1%以下の陽性反応を見つけるために、10万ドルをつぎ込むのは費用対効果が悪いのではないかという意見もある。もちろん、検査の存在が抑止力になっているとも考えられるが。

 自ら命を絶ったテイラー・ホートンの父ドンさんは、2013年のニューヨークタイムズ紙の取材に、ドーピング検査の効果に疑問を持っていることを明かした。2004年に立ち上げたテイラー・ホートン財団では、各競技団体と提携して、ステロイド使用の危険やドーピング問題を啓蒙することに力を入れている。

 日本陸上競技連盟が、鉄剤の不適切使用を十分に調査することは、実情を知り、今後の対策を打ち出すために、とても重要だと思う。

 一方で、血液検査にどのくらいの費用と時間が必要なのか。その費用と時間を中高生や指導者、保護者、医師を啓蒙するプログラムに使ったほうが、不適切使用を予防できるのかという観点も必要だろう。

 検査は鉄剤の不適切使用の抑止力になり得るが、成長期の選手の身体へのリスクを顧みない勝利至上主義がはびこる限り、別の不適切使用や不正を引き起こす。いたちごっこになるかもしれない。

 読売新聞の取材に応じた大学生選手は、高校時代に鉄剤の注射を打っており「高校時代は無知だった」などと話したそうだ。自分の身体を「権力を持つ他人が操作可能なモノ」にされないためにも、検査だけでなく、高校生を対象にした十分な教育がなされることを望む。