不快な暑さにイライラ。気温が上がると、仁義なき報復デッドボールが増加する。

死球から乱闘に(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 苦痛や不快感は、人間をイライラさせる。

 高温・高湿度の暑さは不快だ。暑いというだけで、何となくむしゃくしゃしてしまう。

 暴動は寒い時期よいも、暑い時期に発生しやすいという研究結果がある。米国内で1967年から1971年の間に79都市で起こった102の暴動を分析したところ、寒い時期よりも暑い時期のほうが発生しやすいことが分かったという。

 さらに暑い日であるほど、人々が暴力犯罪に走る確率が高くなることも分かったそうだ。

 犯罪に走らなくても、暑さとイライラが関係していることを示す別の調査もある。暑さの厳しい米国アリゾナ州フェニックスでは、エアコンのない車を運転している運転手のほうが、エアコン車の運転手よりも、交通渋滞時にクラクションを鳴らしやすいことが分かった。

 暑さはアスリートの心理にも影響しているのか。不快な暑さが暴力的・攻撃的な態度やプレーにつながっているということはないのか。

 1988年、メジャーリーガーを対象に、暑さが攻撃的なプレーにつながるかを調べた結果が発表された。それによると、気温が32度(華氏90度)を超えると、バッターは有意に多くのデッドボールを受けていることが分かった。

 気温が華氏で1度(摂氏で0.5度)上昇するごとに、1試合中の死球の数が、0.002回増えるという。(筆者が計算したところ、ここ5年間のメジャーリーグの1試合あたりの死球数は0.63個から0.73個であった)

 暑い日にはデットボールが増えるという先行研究をもとに、2011年には新しい研究結果が発表された。味方の打者がボールをぶつけられたとき、今度はそのチームのピッチャーが対戦相手の打者にぶつけるという「報復死球」と気温との関係について調べたものだ。調査の対象は、1952年から2009年までの5万7293試合である。

 気温が華氏60度以下(摂氏16度)のときには、打者が1打席中に死球を受ける予測確率は0.68%、気温が華氏90度(摂氏32度)以上のときは0.73%となる。

 ピッチャーのチームメートの1人が死球を受けたとき、対戦相手の打者が死球を受ける予測確率は気温が華氏60度(摂氏16度)以下のときは0.71%。気温が華氏90度(摂氏32度)以上のときは0.89%。

 ピッチャーのチームメートの2人が死球を受けたとき、対戦相手の打者が死球を受ける予測確率は、気温が華氏60度(摂氏16度)以下のときは、0.74%。気温が華氏90度(摂氏32度)以上のときは1.05%

 ピッチャーのチームメートの3人以上が死球を受けたとき、対戦相手の打者が死球を受ける予測確率は、気温が華氏60度以下のときは、0.78%、気温が華氏90度(摂氏32度)以上のときは1.15%になる。

 この結果からは、メジャーリーグでは、気温の上昇が、報復死球の起こりやすさに関連していると言える。

 メジャーリーグの試合はリーグ戦というフォーマット。ライバル間の戦いやこれまでの遺恨もある。やられたらやり返すという暗黙のルールの存在もある。挑発されたと感じたときには、暑さによって、抑止する気持ちよりも、その挑発に過剰に反応しやすくなるということだろう。

 

 しかし、炎天下でプレーしている高校球児は、暑くて不快だからといって、攻撃的な態度やプレーが増えるわけではなさそうだ。

 暑さからくるフラストレーションで、攻撃的なふるまいをしてしまうことに注意しなければいけないのは、選手だけでなく、観客にもあてはまるのではないか。狭い空間に大勢の人が詰めかける。そのことで、さらに空間の気温は上がり、不快感も高まるからだ。

 もしかしたら、子どものスポーツ、学生スポーツの監督やコーチが暑さゆえにイライラして、つい選手に怒鳴り散らすということもあるかもしれない。

 夏のスポーツ大会は、熱中症だけでなく、暑さからくるイライラ、攻撃的な態度にもご用心といったところだろうか。

参考文献 E・アロンソン、岡隆訳「ザ・ソーシャル・アニマル(第11版)」(サイエンス社)

参考リンクTemper, Temperature, and Temptation: Heat-Related Retaliation in Baseball