米国の「根性合宿」から、虐待的指導と集中的トレーニングの違いを探る。

写真はイメージです。(写真:アフロ)

 競技スポーツのアスリートは、時には負荷の高いトレーニングをしなければいけない。試合を戦い抜く体力が求められる。エリートアスリートは、プレッシャーや逆境の時でも、本来の力を発揮できるようなメンタルスキルも身につけなければならない。

 しかし、夏の暑い時期に、指導者がやめて良いというまで走ることや、気合を入れるために叩かれることは、虐待的指導である。

 持久力をつける練習や高負荷の練習と、虐待じみた練習とはどう違うのか。

 13歳から18歳までのレスリング選手を対象にした米国の28日間の合宿集中トレーニングの事例を紹介したい。

 このキャンプ(合宿)は、学校運動部が行っているものではなく、民間のレスリングのコーチが主催している「ジェイ・ロビンソン・レスリング・キャンプズ」というものだ。キャンプでは、レスリングに必要な技術と体力をつけるとともに、メンタルの強さを身につけることも目的としている。大学のスポーツ施設と寮を利用しており、費用は28日間で2849ドル(約32万1400円)だ。

 日によって練習の内容は少しずつ変わるが、1日のスケジュールは次のようなものである。

 起床は朝6時30分。6時45分から7時45分までランニング、クロストレーニング、ウエイトトレーニングのいずれか。8時から9時45分まで朝食とリカバリー。10時から12時までテクニック練習。

 12時15分から2時45分までが昼食とリカバリー。

 午後からの練習は、3時から5時までレスリングの実戦。5時15分から7時15分まで夕食とリカバリー。7時30分から8時までメンタル、モチベーション、視覚トレーニング。8時から9時45分までテクニックの復習と、ランニング、クロストレーニング、ウエイトトレーニングのいずれか。就寝は11時。

 なかなかハードなトレーニングである。

 キャンプの動画を見ると、コーチの掛け声にあわせて、選手たちはバーベルプレートを、顔をしかめながら、持ち上げている。参加者の多くが、これまでで最もキツイトレーニングと言う。率直な感想なのだろう。これまで、できなかったことでも、できるようになるために、コーチたちは十代の選手を駆り立てる。

 身体活動を強要して苦痛を与えることは、米国では体罰と見なされるようになってきた。このキャンプは身体活動の強要に当てはまらないのか。

 このキャンプがメンタル強化に役立っているかを現場で調査したイリノイ州立大学の研究者、スコット・ピアースさんによると、次のような配慮がなされているという。

 まず、キャンプの参加者と保護者は、事前にどのようなトレーニングを行うかを理解しており、内容について同意している。

 このキャンプには、少なくとも2人の資格を持ったアスレチックトレーナーと、現在、アスレチックトレーナーになるための勉強をしている複数の学生が配置されている。アスレチックトレーナーと経験あるコーチたちが、トレーニングをしている子どもの体調悪化のサインを見逃さないようにしている。

 

 さらに、このキャンプのホームページによると、一日おきに参加者の体重を測定し、適切な水分補給ができているかをモニターしているという。レスリング選手が患いやすい皮膚の炎症についてもアスレチックトレーナーがモニターし、罹患していると思われる場合は、医師の診察を受けさせるそうだ。

 28日間の途中には、脱落してしまう選手もいるようだが、このキャンプに参加するかどうか、競技者としての自分を高めるかどうかは、本人次第という姿勢だ。無理強いはしない。去る者は追わず、である。

 スタート時点での本人と保護者の参加同意。期間中は、十代のアスリートがトレーニングをやり遂げられるよう背中を押しながらも、アスレチックトレーナーらが、すぐに介入できる環境。やり切るかどうかは本人に選ばせる。トレーニングは苦しいだろうが、コーチが大きな苦痛を伴う身体活動を強要しているわけではない。

 ただし、冒頭で述べたように、これは、民間業者による集中トレーニング。1日に1万円ほどの費用を保護者が負担することで、スタッフを含む環境を作っている。米国の公立校の学校運動部は、指導者やアスレチックトレーナーを雇用するための予算は限られている。だから、このキャンプが全米のスタンダードというわけではない。

 しかし、このキャンプは「選択」と「同意」、「アスレチックトレーナー」をキーワードにした、米国流の「根性合宿」のひとつのやり方であると言える。