名将カブスのマドン監督のルーツに、90年代の助っ人、ジャック・ハウエルあり。

(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 カブスがナ・リーグ中地区優勝し、ポストシーズン進出を決めた。

 昨年、108年ぶりにワールドシリーズ優勝を果たしたカブスだが、今季の前半戦はなかなかエンジンがかからず、42勝45敗。しかし、後半戦は49勝25敗と勢いにのり、2位以下を引き離した。

 

 マドン監督は、選手たちがシーズン前半の疲労を蓄積したまま、終盤に優勝争いをすることのないよう、注意を払ってきた。練習をやり過ぎないようにし、同じ選手に負担がかからないような起用もしてきた。シーズン後半の快進撃と監督の方針は無関係ではないだろう。

 

 マドン監督が練習量を減らすことによって、よい結果につなげようとしたきっかけは、90年代前半にヤクルト、巨人でプレーしたジャック・ハウエルとの日々にある。

 マドン監督とジャック・ハウエルには浅からぬ縁があった。マドン監督はエンゼルスでスカウトをしていた時代に、アマチュアだったジャック・ハウエルの調査にも関わっていた。その後、エンゼルスのコーチになり、ジャック・ハウエルの指導もした。

 エンゼルス時代に大不振に陥ったハウエルがマイナー3Aに降格した時、マドンは巡回コーチのような役割をしていた。ハウエルの不振脱出をサポートしようと、あれこれと策をめぐらせたという。1980年代半ばの話だというから、ハウエルがヤクルトに入団する何年か前のことだろう。

 若きマドンコーチはハウエルの打撃練習でバッティング投手を務めて、スランプの原因を探ろうとした。

 「最初の10分、彼の打球はものすごく鋭いんだ。私はそこで練習をやめておこう、と思ったのだけど、彼はもっとやりたいと言う。しかし、20分、30分もやると、最初よりもだんだんと悪いバッティングになってしまう」

 なぜ、ハウエルは練習をするほど、ひどい打撃になっていったのか。その分析が、現在の選手育成や采配のルーツになっている。

 「試合において感覚というのは大きな部分を占めると、私は思っている。バッティングもそう。同じ動きを繰り返す、身体活動から得られるものがマイナスになるというポイントがある。そして、自分が何をやっているのかの感覚を鈍らせるのではないか。ジャックとの練習は、何がやり過ぎなのかを私が考えるようになった最初の経験だった」

 練習量だけではない。若手育成に悩んだ時も、マドン監督はジャック・ハウエル指導経験の引き出しを使っている。

 前半戦は24歳のカイル・シュワーバーが大スランプに陥った。マドン監督はカブスの番記者から「彼がスランプから抜け出すのに、どうすればよいか」と質問を受けた。

 ここでも、マドン監督は、再びジャック・ハウエルの名前を出し、ハウエルとの打撃練習から得たことを繰り返した。

 「ジャックはどんな速い球でも打てる能力のあるバッターなのに、マイナーに降格してきた時には自分を見失っていて、80マイル半ばの速球でも打てなくなっていた」

 練習し過ぎること、そして、考え過ぎてしまうことはスランプ脱出の助けにはならないと、マドン監督はハウエルを指導した経験から考えている。シュワーバーに対しても、重圧のかかる起用法を避けるため、打順を組み替えるなどの手を打った。リラックスした状態で打席に入り、本来の力を発揮できるよう配慮した。シュワーバーは今季、30本塁打を記録した。

 だからといって、マドン監督にとって、ジャック・ハウエルは決して、練習し過ぎ、考え過ぎの悪い例ではない。忘れられない愛弟子のようだ。

 「あの後、ジャックはエンゼルスでも、日本でも、よい選手になった。日本でお金も稼いだだろうが、帰ってきても野球を続けてくれた」と目を細める。

 私は話が終わった後で「ジャック・ハウエルは日本でも活躍した選手だから、日本の読者も覚えていると思う。お話していただいて、ありがとう」と礼を言った。

 マドン監督は「私はジャックが本当に好きでね」と言い、眼鏡の奥の瞳もやさしく微笑んでいた。