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体罰の動画投稿と、指導者による密室での性的虐待。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

埼玉県の高校サッカー部のコーチが部員である生徒の顔や体を何度も叩いている動画がインターネット上に投稿された。高校側は、動画を確認するなど調査を行い、体罰があったとして、このコーチを解雇したという。

米国ではラトガース大学のバスケットボール部のヘッドコーチが、練習中に学生である選手にボールをぶつけるなどしていた様子を隠し撮りされた。この映像をスポーツ専門局ESPNが入手して放送した。大学はこの放送前から、この映像は把握していて、ヘッドコーチには一時的な出場停止処分と罰金処分を科していた。しかし、テレビ放送後に批判が集まり、大学側は最終的にこのヘッドコーチを解任したのだ。

生徒や学生がコーチによる体罰を撮影し、インターネットに投稿するのは、力を持たない側の最後の手段だろう。

サッカー部のコーチが生徒を叩いている動画を見ると、他のサッカー部員や他の運動部員らおおぜいの目撃者がいることが分かる。それは、このコーチが生徒である選手を叩くことは、他の生徒や他の教職員に見られても、問題のない行為だと考えていたからだろう。コーチは他の人に見られても許される行為と思っていたのかもしれない。だから、離れた場所からの隠し撮りとはいえ、ビデオを撮影することもできた。

しかし、コーチが違法行為をしているという意識があり、密室に生徒を連れ込み、そこで暴力をふるっていた時にはどうなるだろう。叩かれている当事者がビデオ撮影するのは難しいし、たとえ、周囲に他の生徒がいても隠し撮りするのは難しいだろう。

はっきりとしたデータは見つけられなかったが、米国ではスポーツの場で指導者が暴力を振るうということは減ってきているように私は感じている。しかし、ここ数年は、コーチによる性的虐待の問題がクローズアップされているのだ。

昨年末には米体操協会で少なくとも368人の選手がコーチや競技関係者から性的虐待をされていたという報道が出た。また、同協会のドクターから性的暴行を受けていたとして、元3選手が被害を証言している。

性的虐待や性的暴行は、ロッカールームや診察室などの密室や人の目の届かない空間で発生する。隠し撮りして、それを証拠に告発するということが難しい。

しかも、被害を受けた子どもたちはなかなか告発することができない。告発しても、その犯罪を証明することが困難であるため、うやむやにされることが多いようだ。米国でコーチによる性的虐待が明るみに出るときには、複数の被害者がいるケースが多い。これは、複数の被害者が束になって被害を受けたと訴えない限り、公平な調査や捜査が行われないことを示す。

動画投稿は力を持たない側の最終武器になる。

しかし、規則や法で禁じられた教員やコーチから生徒への暴力が発生したときに、学校内で問題を解決する力があれば、動画をインターネット上に投稿する必要はなかっただろう。指導者の暴力行為があったときに、それを生徒から学校へ伝えることができ、学校が調査をした上で、教員や指導者を処分するというシステムが機能していれば、インターネットを使わずとも、このコーチを解雇できたはずだ。

こういったシステムの存在は、人目につかないロッカールームや控え室で、指導者からの暴力や性的虐待が発生したときの対応にもつながる。

犯罪防止のために、指導者と子どもが、犯罪行為とはどのようなものかを知る必要がある。子どもたちに告発できる窓口を知らせる必要もある。ロッカールームなどの密室で2人きりになるという状況を避けるようなルール作りも有効だろう。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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