ダルビッシュが手術を受けた最後のスター投手か? メジャーリーガーのトミー・ジョン手術数が半減。
2,3年前まで「トミー・ジョン手術を受ける投手が急増している」というニュースを見聞きしたように思う。
トミー・ジョン手術とは、肘の側副靱帯再建手術のこと。患者の手首付近の腱や下腿の腱などから正常な腱を、側副靱帯の代わりとして移植するものだ。
2015年3月にはレンジャーズのダルビッシュ投手が、このトミー・ジョン手術を受けた。1年あまりのリハビリを経て、2016年5月28日にメジャーのマウンドに復帰。今シーズンは開幕投手に指名されている。
ダルビッシュが手術から見事な復活劇を見せてきたこの2年の間、メジャーリーグ全体では変化が起きていた。メジャーリーグでトミー・ジョン手術を受ける投手が大幅に減っているのだ。単なる偶然なのかもしれないが、増えてはいない。減っている。
野球の統計などをテーマにしている「ハードボールタイムズ」の執筆者、 JON ROEGELEさんは、この手術を受けた選手のリストを作成して公開している。(報道で得た情報から作成したもので、全選手ではないという注釈はあるが。ほぼ全選手を網羅している)
ROEGELEさんのリストをもとにした記事によると、トミー・ジョン手術を受けたメジャーリーガーの人数をシーズンごとに追っていくと次のようになる。
2007 22人
08 15人
09 20人
10 17人
11 17人
12 36人
13 20人
14 31人
15 27人
16 17人
17 3人(日本時間3月31日時点)
(ハードボールタイムズで紹介されているのは、2016年10月6日時点まで。筆者がROEGELEさんのリストを見て、2016年10月12日と11月、2017年に手術した選手を加えた)
2016年は、2012年にこの手術を受けた選手の半数まで減っている。
今年も減少傾向は継続している。ROEGELEさんのリストによると、3月31日時点でトミー・ジョン手術を受けたメジャーリーガーは3人。ダルビッシュ投手が手術をした2015年は、3月31日時点で、7選手が手術をしていた。
なぜ、トミー・ジョン手術は減っているのか。
はっきりとした理由は分かっていない。過去に、手術を受けた選手が多い年があっただけと言えるかもしれない。
しかし、次のような変化が理由として考えられるのではないか。
選手たちが手術ではなく、他の治療法を選択しはじめているからではないか、ということだ。
ヤンキースの田中投手が受けたというPRP(platelet-rich plasma)という多血小板血漿療法やStem-cell therapy と呼ばれる幹細胞治療を受けている選手が増えているようだ。ただし、米ヤフースポーツのパッサン記者はこれらに治療法は靱帯の部分断裂にしか効果がないことも指摘している。
もうひとつは、年間投球数との関連だ。
昨年5月の米統計サイトのファイブ・サーティ・エイトによると、メジャーリーグの投手と、有望選手ベスト100に入っているマイナーリーグ投手の年間投球数が2013年から減ってきているという。年間の投球数は何となく減ったわけではなく、各球団が投手の球数を減らすという方針を掲げてのことだろう。年間投球数の減少が、トミ-・ジョン手術の減少につながっていると決めつけることはできないが、理由のひとつとして考えられるのではないか、というところだ。
フランク・ジョーブ博士が考案し、トミー・ジョン投手がこの手術を受けたのは1974年のこと。いつの日かトミー・ジョンという手術方法も過去のものになっていくのかもしれない。そうなれば、ダルビッシュ投手はトミー・ジョン手術を受け、見事に復活をした最後のスター投手ということになるかもしれない。いずれにしても、スポーツ医学と科学の発展が多くの選手のケガを予防し、治療し、再びプレーすることを助けるものであってほしいと思う。トミー・ジョン手術がそうであったように。