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七人の米国敏腕記者に聞く。日本ハムの大谷選手は「Ohtani」か「Otani」か。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

来春、開催されるWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の強化試合が行われ、13日のオランダ戦では、日本ハムの大谷翔平選手が東京ドームの天井に吸い込まれる二塁打を記録した。

この一撃の様子は、動画とともに、メジャーリーグ公式ホームページでも映像が紹介された。今オフのメジャーにはFAになったエース級の先発投手が少ないという事情もあり、米メディアは大谷の活躍や動向に関心があるようだ。

さて、ここからが本題。

大谷選手は日本ハムのユニフォームと同様に、強化試合のWBCでも背中に「OHTANI」の文字が縫い付けられたユニフォームを着ている。強化試合の電光掲示板にも「OHTANI」と表記されていた。WBC日本代表の公式ホームページを見ても「'''OHTANI'''」と書かれているので、WBC強化試合では「OHTANI」として選手登録されているのだろう。

しかし、「オオタニ」をヘボン式ローマ字表示すると「OTANI」となり「O」と「T」の間の「H」がなくなる。日本のパスポートはヘボン式ローマ字表記を採用している。(ただし、愛知県県民生活課のホームページによると、「オウ」音等長音を含む場合は、今後、表記を変更しないという条件で「H」を入れることができる。今後、変更しないという条件で「OHTANI」と表記することは認められている)

日本発の複数の英字新聞は「Shohei Otani」と表記している。人名はヘボン式ローマ字表記という内部の規定があるのかもしれない。

大谷の活躍を伝える米国メディアは「Otani」表記が主流、一部では「Ohtani」表記も見かける。

そこで最近、大谷に関する記事を書いた米国の敏腕記者、名物記者の7人にアンケート調査をした。

質問内容

1、大谷選手の名前の表記はどのようにして決めましたか。

2、参考資料として使用したものがあれば教えてください。

質問方法

メールとツイッター。米国時間14日に実施。

メジャーリーグ公式ホームページで重鎮記者のバリー・ブルーム記者。

「(野球記録サイトの)baseball-referenceではOtaniになっていますね。日本ではOhtaniが使われているようです。私が今年2月に彼についての記事を書いたときは日本バージョンのOhtaniとしましたが、編集者がOtaniに変更しました。元に戻してくれとお願いしたのですが…。それ以降は混乱を避けるためにOtaniで統一しています。大谷選手自身はどちらの表記を希望しているのでしょうか」

シカゴトリビューン紙のポール・サリバン記者。11月12日付の大谷の記事について。

「私は(メジャーリーグ公式ホームページの)MLB.COMを参考にしてOtaniと表記しました」

ニューヨークポスト紙のジョエル・シャーマン記者。11月9日付の大谷の記事について。

「(野球記録サイトの)baseball-referenceを参考にしてOtaniと表記しました」

ロサンゼルスタイムズ紙のディラン・ヘルナンデス記者。(へルナンデス記者は日本語ネィテイブとほぼ同じ日本語能力がある)

「私はOtaniと書いています。私が自分で考えたかもしれません」

野球専門誌ベースボールアメリカのJJ・クーパー記者。11月14日付の大谷の記事について。

「私の同僚に国際野球に詳しいベン・バドラー記者がいて、彼が自身のソースに基づきOtaniと書いているので、これに合わせています。正しい答えというものはないでしょう。グーグルで日本語の大谷翔平と入れて、日英翻訳するとOtaniと出てきますね。本来の音を違う言語に翻訳するのは時に難しいことでもあります」

フォックススポーツ、MLBネットワークのジョン・モロシ記者。メジャーリーグ公式ホームページ(MLB.COM)の記事について。

「大谷選手のユニフォームにOHTANIと書かれていることは知っているのですが、(メジャーリーグ公式ホームページの)MLB.COMでは過去にOtaniと表記していますので、私もこれに合わせています。もし、大谷選手がどのように表記をして欲しいかを(メジャーリーグ公式ホームページの)MLB.COMに教えてくれれば、我々は彼の希望通りの表記にします」

さらに、モロシ記者からは翌日、最新情報変更ありとのメールをいただいた。

「(メジャーリーグ公式ホームページの)MLB.COMから最新の情報をアップデートします。MLB.COMはOhtani表記に変更します。理由は彼のユニフォームの背中に合わせるということです。これにより、今後、私がMLB.COMで記事を書く場合はOhtaniとします」

この記事を書いている米国時間16日時点で、メジャーリーグ公式ホームページMLB.COMの最近の大谷選手の記事はOhtaniに変更されていた。メジャーリーグ公式ホームページのMLB.COMは2014年ごろからOhtaniで書かれたものと、Otaniで書かれたものがあったが、またOhtaniに戻したのだ。二転三転しているようだ。

そして、7人目は、統計サイトファイブ・サーティー・エイト出身で、新興のスポーツ情報・統計サイト、ザ・リンガーのベン・リンデンバーグ記者。

「米国の主要メディア、MLB.COM、ジャパンタイムスと、NPBの英語のホームページを見てOtaniと表記しました」。

リンデンバーグ記者の回答を受け、NPBの公式ホームページ(英語版)から、選手のロースターをクリックすると、そこには

Otani, Shoheiと表記されていた。

NPB公式ホームページとリンクされているWBCの英語版ロースターは「Ohtani」、NPBの英語版ロースターは「Otani」と一致していないことが分かった。

大谷翔平選手の野球選手のスケールの大きさから考えれば、ヘボン式表記か、非ヘボン式表記は全く取るに足りない些細なことだろう。ここまで書いておきながら、筆者自身もそう思う。

彼の背中に「Ohtani」と名前が縫い付けられていても、それが新聞記事の「Shohei Otani」と同一人物であることは、英語圏のほとんどの読者が了解しているはずだ。

けれども、重箱の隅をつつくような細かいことだが、NPBの英語版ロースターと、WBCの英語版ロースターの名前の表記は一致させた方がよいのではと思った。また、ユニフォームの背中につけている名前と、NPBの英語版表記も一致していたほうがNPBの英語のページから情報を得ようとする人々に親切だろう。大谷だけでなく、長音を含む他の選手の表記も、NPBの英語版ロースターとWBCのロースターの表記が一致していないものがある。

大谷選手がメジャーに移籍する時期は未定とはいえ、WBC本選に出場するとなれば、英語圏、スペイン語圏のメディアも取材する。

米国の野球界でもよく知られている王貞治氏の「オウ」の長音表記はOHであるのだから、NPBとWBCの選手の長音表記は全てOHで統一ということでもよいと思う。

一方のメディア側が人名は全てヘボン式で統一するのならばそれはそれでいいだろう。

ただし、選手側が、記事中の自分の名前のローマ字表記に異議申し立てがあるのならば、メディアに伝えれば、米国のスポーツ報道は対応すると私は思う。今回、私の素朴な疑問に応じていただいた7人の記者は、少なくともそういう姿勢だった。

丁寧に回答していただいた米国スポーツ報道の第一線で活躍中の7人の記者のみなさん、ありがとうございました。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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