世界一カブスのマイナー球団アイオワ・カブス。その隣りの球場で見たもの。

アイオワカブスでファンにサインをする川崎宗則選手

今シーズンのメジャーリーグは、カブスが108年ぶりにワールドシリーズ優勝を果たして幕を下ろした。

本拠地シカゴは街全体が喜びにあふれていた。今もまだその余韻が残っているにちがいない。

アイオワ州デモインの人々も盛大に祝っていることだろう。都会の喧騒とは程遠い中西部のアイオワ州デモインには、カブス傘下のマイナー3A、アイオワ・カブスの本拠地球場がある。

球場のまわりはここからメジャーリーグへと昇格した選手たちのバナーが飾られている。世界一の主力となったクリス・ブライアント、アンソニー・リゾ、先発ローテーションを担ったカイル・ヘンドリックス、ジェイク・アリエッタら。

いつも全力プレーで、ファンとのふれあいにも積極的な川崎宗則選手は、アイオワでも大人気。今はソフトバンクでプレーする和田毅投手もこのマウンドで投げていた。

アイオワ・カブスのホームグラウンドから小道を隔てたところに小さな小さな球場がある。「ミラクル・リーグ」という看板がかかっている。車いすやクラッチ杖を使ったり、装具をつけたりしている子どもでも楽しめるように作られたフィールドだ。

車いすやクラッチを使う子供が芝生の上で野球をするのは難しい。車いすの車輪がつっかえることもある。芝生に足をとられて転びやすくもなる。そこで、全面に特殊なゴムを張り、段差をなくした球場を作った。ベンチは、出入りするスペースを広く取り、車いすを使う子どもたちが動きやすいデザインになっている。

筆者がアイオワ・カブスの取材に訪れた日は、このミラクルリーグの球場には鍵がかかっていて中には入ることができなかった。

仕方なくミラクルリーグ球場の周りを歩いているときに、球場のフェンスにずらりと寄付者の名前と寄付金額のバナーが張り付けられているのが見えた。そのとき「まるで日本の神社のようだ」と思った。

アイオワ州デモインのミラクルリーグ専用球場。
アイオワ州デモインのミラクルリーグ専用球場。

日本の神社で、建立や改修をするときなどに寄付をした人の名前を石に刻んだ玉垣を見かける。それと同じではないかと思ったのだ。

ミラクルリーグの「奉納者の筆頭」はアイオワ・カブスだ。シカゴのカブスではない。アイオワ・カブスは球場がある土地を、デモイン市からリースしている。そのリースしている土地の一部を、ミラクルリーグに提供。さらにメンテナンスなどの費用に充てるため、アイオワ・カブスは年間2万5000ドルを寄付している。

調べてみると、この球場を建設するのに約1億5000万円を要したという。2007年に寄付の呼びかけを開始。地元の慈善事業や財団からの寄付、企業や個人からの寄付金で、翌2008年に目標額に達した。この時に寄付をした団体、企業の名前がバナーになって掲げられているようだ。

今も寄付は受け付けていて、一定の金額以上を寄付すれば新しくバナーを出すこともできる。数百ドル単位で寄付をする個人の名前は、球場を囲むレンガに小さく名前が刻まれる。

障害児野球ミラクルリーグの球場はアイオワ州デモインだけにあるのではない。全米初のミラクルリーグ球場は2000年にジョージア州でオープン。現在は全米各地に240以上の同様の球場がある。

筆者はデトロイトタイガースが金銭支援している、ミシガン州サウスフィールドとプリモスの2つの球場には訪れたことがあった。しかし、マイナーリーグの球団がミラクルリーグを支援していることはアイオワを訪れて初めて知った。

1989年にヒットした映画に「フィールド・オブ・ドリームス」がある。トウモロコシ畑を切り開いてフィールドを作ると、今はいないはずの選手たちがあらわれる。その舞台はアイオワ州だった。

これまで障害を理由に野球を始めることをためらっていた子どもや、やんわりと参加を断られた子どもたちが、この球場が作られたことでグラウンドに現れた。

小さなバリアフリー球場のフェンスにびっしりと掲げられた寄付者の企業や名前。広告効果狙いも多少はあるのかもしれないが、地域の野球と子どもを支える誇りが、そこからにじみ出ているようでもあった。