ウィル・スミス主演の映画「コンカッション(脳しんとう)」。NFL警戒や裏話

ウィル・スミス主演の映画「コンカッション(脳しんとう)」

米国では昨年の12月25日、「コンカッション(脳しんとう)」というタイトルの映画が封切られた。

この映画はGQ誌で報道された実話をベースにしたもの。NFL(プロアメリカンフットボールリーグ)の元選手、マイク・ウェブスター氏の死体を解剖したナイジェリア出身のオマル医師が、故ウェブスター氏に慢性外傷性脳症(CTE)が見られたと報告。オマル医師は、NFLの選手が、頭部への衝撃を繰り返し受けることでCTEになる可能性を示唆した論文を発表したが、NFL側はこれをなかなか受け入れなかったという内容だ。ネタバレしないよう、この映画にまつわる裏話をまとめてみた。

2002年9月にマイク・ウェブスター氏死亡を伝える共同通信の記事。ウェブスター氏が死去/殿堂入りのス軍センター

NFLを警戒。

オマル医師の報告から10年が経過した現在のNFLは、頭部への衝撃で起こる脳しんとう対策への取り組みを当時から大きく変えている。変えざるを得なかったとも言える。しかし、NFLにとっては、この映画はあまり有難くないものだったに違いない。公開前の2015年9月には、映画会社側が製作者に対して、NFLを激怒させない内容にするよう求めているという内部情報がメディアに漏れた。

映画は実話に基づいた内容であるが、ドキュメンタリー映画ではない。オマル医師とNFL側の対立を鮮明に描くほうがストーリーとしてはおもしろいだろう。しかし、NFLが実際にコメントした内容よりも過激な表現を使うことは、それを材料に映画にクレームをつけられるリスクがあると警戒したようだ。参考記事Sony Softened 'Concussion' to Avoid NFL's Wrath, Leaked Emails Show

遺族の不満も。

一方、自分の脳を研究に役立ててほしいと遺書にしたため、2011年に自殺した元シカゴ・ベアーズのデイブ・デュアソン氏の遺族は映画で「悪役」にされたことに不満を抱いている。

映画には、デュアソン氏がオマル医師を差別的な言葉で罵る場面がある。デュアソン氏の息子は「話を完全に作っていると思いました。誰かを悪役にする必要があったのでしょう。父は亡くなっていてここにおらず、反論することはできません」とニューヨークタイムズ紙の取材に答えている。参考記事Dave Duerson's Family Says Concussion Film Smears Him

NFLのロゴ裏話。

映画にはNFLの記者会見場やニューヨークにあるNFLのオフィスでの場面がある。そこには当然のようにNFLのロゴマークや全チームのヘルメットとロゴマークが映し出されている。しかし、この映画はNFLがスポンサーをしているわけではない。だとしたら、NFLに使用許可を取ったのだろうか。ビジネスインサイダー紙では、その疑問に対してエンターテイメント専門の弁護士に取材している。ロゴを描写したものは、ロゴが現実に使われているようのと同じように(バカにしたり、ちゃかしたりせず)映画内で使用するケースは、許可なしに使用できるそうだ。参考記事Here's why Will Smith's new movie 'Concussion' can legally use NFL logos without the league's consent

ウィル・スミスの心境の変化。

オマル医師を演じたウィル・スミス。スミスはアメリカンフットボールの試合観戦がこれまでとちがうものになったと答えている。「私たちは激しい当たりに応援を送っていたけれど、それは知識が欠けていたからだ」とスミス。

スミスの息子は高校時代にアメリカンフットボールで活躍したそうだ。タックルを受けても試合に戻っていく子どもたちの姿。スミスは「今、知識として得たことをあのときに知っていれば……」と話している。参考記事Will Smith shows 'painful reality' in 'Concussion'

オーナーと選手は無料鑑賞

映画会社のソニーは、NFLの選手会の身分証明を見せることで、選手とその家族は映画館で無料で鑑賞できるとした。大金を持っているオーナーと、大金を稼ぐ選手にとっては、現実的なお得感はあまりないと思われるが。

日本でもこの映画が公開されるかどうかは未定だそうだ。日本は米国ほどアメリカンフットボールの競技人口やファンが多いわけではない。オマル医師が解剖した元スティーラーズの故マイク・ウェブスター氏は殿堂入りを果たした名センターだが、ウェブスターの知名度も日米では大きく異う。それでも、科学者や医学がプロスポーツ界がどう関わり合ったかが描かれており、日本の観客にも分かりやすく、興味深い映画だと思う。