競技人口拡大を目指して。米国のサッカー基金はどんなことをしているのか。

米国ミシガン州デトロイト郊外で開催された学校対抗戦

 米国ミシガン州デトロイト郊外の巨大なインドアサッカー場に、続々とスクールバスが入ってきた。バスから降りてくるのは、デトロイト市内の小中学校に通う子どもたち。12月11日に、学校対抗のサッカー大会が開催され、数百人の子どもたちが集まった。

 この子どもたちが参加しているのは、米サッカー協会と提携しているUSサッカーファウンデーション(米サッカー基金)のプログラムだ。Soccer for Success

 「サッカー・フォア・サクセス」と呼ばれているプログラムで、都市部の低所得世帯の多い地域の子どもたちにサッカーをする機会を与えるもの。

 サッカーはボールさえあれば、お金をかけずに楽しむことができる種目だが、米国では幼児期や小学校低学年から習い事としてサッカーを始めるのが一般的。保護者が費用や送迎を負担できなかったり、近くにサッカースクールやチームがなかったりするために、サッカーをする機会を逃している子どもたちがいる。

 そのうえ、米国では子どもの外遊びにも、保護者や大人の付き添いが求められるという事情もあり、子どもだけでの外遊びは盛んでなく、運動不足による肥満につながりやすい。低所得地域では子どもを外に連れ出す人手がなかったり、子どもが安全に遊べる場所がなかったりなど、体を動かして遊ぶにことにも不利をこうむりやすい状況にある。

 「サッカー・フォア・サクセス」は、サッカーを楽しむ機会を提供することによって子どもたちが体を動かして健康的な生活を送ること、放課後の時間をサッカーにあてることで子どもたちが非行や犯罪に巻き込まれないようにすることを最大の目的としている。競技力向上はいわば、二の次である。

 このプログラム運営の仕組みは大変に興味深いものだ。

小学3、4年生のチーム
小学3、4年生のチーム

 学校に通うキンダーガーテン(幼稚園・保育園年長児)から8年生(中学2年生まで)の子どもが対象で、参加希望者の全員を受け入れる。トライアウトはない。参加費は無料。ユニフォームとなるTシャツ、シンガード、ボール1個は、スポンサー企業になっているスポーツ用品メーカーからプレゼントされる。(学校対抗戦でも全員が同じTシャツを着ていて、ビブスのない試合では、敵・味方が全員同じTシャツという光景もあった)

 

 財源は助成金、寄付、スポンサー企業などから。

 USサッカーファウンデーションは米国でFIFAワールドカップが開催された1994年に設立された。FIFAワールドカップ開催時の余剰金が設立当初の財源となった。その後は個人やMLS選手会、スポンサー企業から寄付を集めている。個人だけでなく司法省少年司法・非行防止局からの助成金や全米地域サービス公社からの助成金も得ている。

 そして、USサッカーファウンデーションから分配するような形で、実際にサッカーを指導する各地域の非営利スポーツ団体などに助成金として給付。USサッカーファウンデーションが各地域の非営利団体に助成金を出すにあたっては、次のような条件をつけている。

  • 少なくとも週3回の練習機会を与えること。練習時間は75分から90分。

 

  • 秋シーズン12週、春シーズン12週の間は活動をすること。

 

  • 指導者と子どもの割合は1対15以下に抑えられていること。
  • 指導者の代表はUSサッカーファウンデーションの講習を受け、代表は、各地域の各指導者にこの内容を伝えること。

 などだ。

 デトロイトではPALという非営利のユーススポーツ組織がUSサッカーファウンデーションと提携している。デトロイトPALはデトロイト市内の学校に呼びかけて、プログラムに賛同した学校が放課後に自校の子どもたちを集めて練習をしている。学校での練習に必要な用具や設備も与えられるという。

 デトロイトPALの担当者によると「保護者が手伝っているところもありますが、ほとんどのコーチは学校の教職員です。コーチには日当が支払われています」と言う。指導者役の教職員に支払われる少額の日当も寄付金や助成金によってまかなわれているそうだ。

 教員のほか、学校カウンセラーといった教員以外の職員がコーチになっているチームがあった。普段は子どもたちのアクセスしやすさ、保護者の送迎負担も考慮して、各学校のグラウンドか体育館を使用している。

 デトロイトでは、PALが主催者となり6月と12月に学校対抗戦を開催している。

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 中流層以上の子どもが多いクラブチームや競技チームに比べると、「サッカー・フォア・サクセス」のプログラムに参加している子どもたちは荒削りで技術的には劣ると言える。それでも、子どもたちは対抗戦というビッグゲームに小躍りしながら試合会場へ走っていき、表情には楽しさにあふれていた。指導者の学校教員も「子どもたちはこの日の試合を目標に練習してきて、とてもすばらしい試合ができています」と満足そうだった。

 今は、大人が場所や機会を与えることによってしか、スポーツできない現実がある。

 USサッカーファウンデーションでは、公的な助成金と寄付金を集めて運用し、複数の大企業をスポンサーにつけるという「アメリカらしい」やり方で、低所得世帯の多い地域で暮らす子どもたちにサッカーをする機会を提供している。

 ちなみにメジャーリーグでは、都市部の低所得世帯の多い地域向けにRBIプログラムを展開しており、これについては8月にレポートした。「野球の機会均等」を目指して。もうひとつのワールドシリーズ。