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「息子3人をメジャーリーガーにする方法」は売れるか? 本を読み書籍を検索してみた

谷口輝世子スポーツライター
3人ともメジャーリーグ捕手のモリーナ兄弟。三男のヤディアー・モリーナ(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

先日から、3人の息子が灘高校から東京大学理科三類に入っている母親の子育て法がインターネット上で大きな話題になっている。書籍も出版されている。

メジャーリーグではこれまで300組以上の兄弟選手がプレーしてきた。最近ではベンジー、ホセ、ヤディアと全員が捕手のモリーナ3兄弟。JD、ティム、スティーブンのドリュー3兄弟、アップトン兄弟らが有名だ。少し前までは祖父、父もメジャーリーガーで、息子ブレットとアローンもメジャーリーガーというブーンファミリーもいた。

兄弟あわせて優れた成績を残したメジャーリーガー

大リーグ公式ホームページが2013年のコラム記事で、兄弟合わせて最も優れた成績を残した11組を選んでいる。Oh, brother: Molinas rank among MLB's best siblings

1、ジョー、ビンス、ドミニク(ドム)のディマジオ兄弟。

2、ベンジー、ホセ、ヤディアーのモリーナ兄弟

3、ペドロとラモンのマルティネス兄弟

4、ポールとロイドのワナー兄弟

5、ジミーとゲイロードのペリー兄弟

6、フィルとジョーのニークロ兄弟

7、フェリペ、マティ、ヘススのアルー兄弟

8、ケン、クリート、クロイドのボイヤー兄弟。

9、サンディ、ロベルトのアロマー兄弟

10、ディジー、ポールのディーン兄弟

11、ケン、ジョージのブレット兄弟

息子3人をメジャーリーガーにする方法

これらの兄弟メジャーリーガーたちの親は「息子をメジャーリーグにする方法」を発表してきたのだろうか。インターネットの書籍検索機能を使って、11組の兄弟に関して100冊ずつタイトルを調べた。

レジェントのジョー・ディマジオがいるディマジオ家に関してはディマジオ兄弟をタイトルにした書籍がある。父もメジャーリーガーであるアロマー兄弟は子ども向けノンフィクションとして兄弟をタイトルにした書籍があった。

兄弟3人ともが捕手で3人ともがワールドシリーズのリングを持っているモリーナ家に関する物語は今年の春に出版されている。 内容はすでに現役を引退した長子のベンジーが幼いころから父親が亡くなるまでの父と兄弟たちとの暮らしや父の教えを振り返る内容。父の教えを読み取ることはできるが、ハウツー本ではなく、家族の物語と言ってよいだろう。

11組の兄弟リストには入っていないが、保護者向けにハウツーにやや近い内容の書籍を出しているのはカル・リプケンJrである。リプケンは父のカル・リプケンSrがメジャーリーグ監督、弟のビリーもメジャーリーガーだった。

リプケンの書籍は『Parenting Young Athletes the Ripken Way』というタイトルだ。野球だけではなく、スポーツをする子どもを持つ保護者全般に向けて書かれたもの。リプケンはリプケン・ベースボールという少年野球の育成組織でCEOを務めていることから、保護者を対象にした選手育成について本を出版したと考えられる。

兄弟選手たちがこれほど多いにも関わらず、なぜ、息子たちをメジャーリーガーにする方法はあまり言及されていないのか。

  • 今回、書籍を調べた11組の兄弟選手のほとんどの活躍時期はかなり昔のことであり、保護者向けにハウツーを紹介するという考えそのものがなかったと言えるだろう。
  • もうひとつは、メジャーリーガーになることは狭き門であり、多くの人には現実味が少ないことから需要がないと考えられたのかもしれない。開幕ベンチ入りは各球団25人で、世界の野球人口のうち、メジャーのロースターに入ることができるのは750人。1年だけロースターに入った選手もいれば、15年以上もその座をキープし続ける選手もいる。
  • 育て方よりも、両親から受け継いだ、持って生まれた素質がなければ、ただ努力するだけでは、メジャーリーガーの座を勝ち取ることはできないからで、多くの人がそのように認識しているからともいえる。

米国で需要があるのはこんなハウツー本

米国の保護者たちも、子どもを○○に入れる方法に多いに関心はある。選手たちの親が書いたメジャーリーグに入れる方法は見かけないが、大学が競技優秀者に与えるスポーツ奨学金はどのようにしたら得られるのかというハウツーは大量に出回っている。

高校生の野球選手がNCAA(全米大学体育協会)の大学でプレーできる確率(奨学金を得ていない選手も含む)は6.9%だが、高校野球選手からプロ入りできる確率は野球の場合0.5%であり、プロ入りからメジャーデビューに至るまではさらに低い確率となる。メジャーリーガーになることは難しいが、高校生選手のうち上位5-6%内に入ることは実現可能な夢と捉える人が多くなってくる。

高校生選手が強豪の名門大学からリクルートされるためにはどのようにすればいいのかという講座が開催され、大学のコーチと選手を結ぶというリクルートビジネスもあるくらいだ。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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