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台風で1号機カバーがどうなるかは「後で確認する」──東電にとっては想定外のようです

木野龍逸フリーランスライター
1号機建屋カバーの屋根を取り外したところ(東京電力提供)

東電にとって、台風は「想定外」の自然災害らしい。1号機の建屋カバーの無事は、神頼みだ。

大型で強い台風10号が太平洋を北上していた8月29日の定例会見で東電は、福島第一原発1号機に設置されているカバーが台風でどのような影響を受けるかは、「わからない」という認識を示した。建屋カバーは、爆発で崩壊した1号機から放射性物質が飛散しないようにするために設置されているが、現在は使用済み燃料プールから使用済み燃料を取り出すために取り外す工事をしている。そのため屋根にカバーがかかっていない状態になっている。

とうぜん、台風の影響が心配になるが、東電の白井功・原子力立地本部長代理は「10分間の平均で風速25mまで耐えられる」(東電)設計になっているが、屋根が外れた状態でその性能が発揮できるか評価したことはないと説明した。

もっとも、屋根の問題以前に、記者会見の時点での台風の風速は、中心付近の最大風速は40m(10分間の平均)、瞬間最大風速は60m。つまり仕様で想定している風速を超えていた(30日13時45分現在で最大風速35m、瞬間最大風速50m)。

だから自然な疑問として、この風速に耐えられるかどうかを聞いてみると、「風速25mで問題なくて、平均風速の2倍で、だいたい50mは問題ないと評価されているので、問題ないと評価している」という回答が返ってきた。

(いや、聞いてるのは40mに耐えられるかどうかなんですが。しかも瞬間は50mより強いし……)と、アタマの中にハテナマークがたくさん出てきた。

以下、筆者とのやりとりの一部だ。

──今度の台風は最大40mで、瞬間最大60m。

「いまの設備で問題ない。そのあとの状況は台風が通ったあとで確認することになる」

──こんどの台風は、仕様の風速25mを超えている。

「基本的にはこのカバーで様子を見ていくしかない」

──想定していた仕様を超えているということでいいか?

「今日の台風、どのくらいかを確認してないので超えているかどうか判断しかねる。いま話をしたのは、カバーは25mまで耐えられるようにしているし、2倍まで耐えられるようにしているということしか話しはできない」

──台風を確認しないで大丈夫といっても、根拠がないが。

「いまいえるのは、こういった設備でできているので、こういった風までは耐えられますということ」

──評価して説明しないといけないのではないか

「申し訳ないが、こういったものが作ってあって、こういった設備で運用してますということまでしか説明できない」

──実際の台風と比較して評価しないのか

「比較してどうかはお答えしかねる。ご意見として承る」

この台風の状態を「確認してない」というのには、ほんとうに呆れてしまった。簡単に調べられる台風の強さを見てないって、いったいどういうことなんだろう。それなのに「大丈夫」という。いったいなにをいってるんだろう、この人は(>_<)

そして東電としては、結果を見ないと「わからない」(東電)ということになる。この説明は、いくらなんでも無責任なのではなかろうか。

東電はいまでも、自然災害については、想定しないことでやりすごすという考え方でいるのだろうか。仮に急場の対策が困難であっても、リスクを評価して社会に説明するのが企業の責務なのではないだろうか。

この先数十年間、福島第一原発で続く事故収束作業の、「無事を祈る」しかない……。

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福島第一 屋根なし1号機に台風の不安 汚染水の監視強める(東京新聞 8月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201608/CK2016083002000121.html?ref=rank

フリーランスライター

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況等を中心に取材中。ニコニコチャンネルなどでメルマガ配信。連載記事「不思議な裁判官人事」で「PEP(政策起業家プラットフォーム)ジャーナリズム大賞2022 特別賞」受賞。著作に「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)他。

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