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なぜカネロは負けたのか 階級を上げたリスクと誤算とは

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

6日、アメリカのラスベガスでボクシングWBA世界ライトヘビー級タイトルマッチが行われ、スーパー王者ドミトリー・ビボル(ロシア)と、スーパーミドル級4団体統一王者サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)が戦った。

試合の展開

カネロは主戦場としていたスーパーミドル級から、一つ階級上げての挑戦となった。

試合が始まると長身のビボルに対し、カネロはボディとフックを軸に攻め、ビボルは左ジャブを基点にパンチを集めていく。

前半に決定打はなかったものの、若干カネロが優勢だった。

カネロはさらにペースを上げていくが、ビボルも手数を止めない。ときおり強いパンチでビボルを牽制していたカネロだが、ビボルの勢いはなおも続く。

中盤以降、カネロは疲労から手数が少なくなり、好機とみたビボルは右の強打で追い詰める。

最終ラウンドにはカネロも猛攻をしかけるが、ビボルも負けじと打ち返し試合が終了。大きな山場はなかったがビボルの手数が印象的だった。

結果は3-0の判定でビボルが勝利し、WBA王座の11度目の防衛に成功した。

カネロの敗北

カネロにとって、2013年のフロイド・メイウェザー戦以来、初めての敗北となった。

スーパーミドル級で4団体制覇を成し遂げ、今回階級を上げ、ライトヘビー級に主戦場を移した。

2019年にもライトヘビー級で挑戦したが、その際は王者のセルゲイ・コバレフを11RTKOで破り、WBOのベルトを手にした。

過去の実績もあるため、試合前の勝敗予想ではカネロ有利の声が多かったが、番狂わせな結果となった。

最近ではパワーボクシングが目立っているカネロだが、以前は手数とコンビネーション重視の技巧派ボクサーだった。

パワーボクシングは見栄えが良く、派手に相手を倒せるためポイントを稼げるが、攻撃が単調になってしまう。

今回の試合でも手数が出せず、単発の攻撃が目立っていた。

また、スタミナも以前より落ちているように感じた。階級を上げれば、体重が増える分スタミナは落ちる。

対戦相手のビボルは180cmを超える長身の選手で、173cmのカネロと比べ体格差もあった。

スタイルやスタミナ、身長差など要因はさまざまだが、今後もライトヘビー級で戦い続けるのであれば、肉体改造やスタイル変更も必要になってくるだろう。

全階級でNo1の評価を受け、快進撃を続けてきたカネロだが、階級の壁は高かった。

今後の動向

カネロは、ヘビー級を除く全階級で最も稼ぐボクサーと言われ、今回の試合でも4000万ドル(約46億円)のファイトマネーを稼いだとの報道もある。

カネロと戦うだけで世界的な知名度とビッグマネーが得られるため、対戦を望む選手は後を絶たない。

しかし、今回のビボル戦での敗北で、今後のマッチメイクに影響がでるだろう。

ボクシングにおいて1敗は、選手の価値を大きく変える。

今回の試合に勝利すれば、ライバルのゲンナジー・ゴロフキンとの試合が決まるのでは、と言われていたが今回の敗戦で白紙となるだろう。

今後はライトヘビー級で再びビボルに挑戦するのか、それともスーパーミドル級に下げるのか。

カネロは試合後のインタビューで、「再戦については後で試合を振り返って見て、どうするかを考えます。でも、これでは終わらない。僕は競争力のある人間で、より強くなって戻ってくるつもりです」と話している。

ボクシング界の中心であったカネロが、どのような選択をするのか注目したい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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