絶対王者と呼ばれた拳四朗はなぜ負けたのか 勝敗を分けたポイントとは
22日、京都市体育館でボクシングWBC世界ライトフライ級タイトルマッチが行われ、王者寺地拳四朗(29=BMB)と同級1位矢吹正道(29=緑)が戦った。
試合の展開
試合が始まるとフットワークを駆使する拳四朗に対し、矢吹は一発を狙ってパンチを振る。
矢吹はこの階級では破格のパンチャーで91%のKO率を誇る。そんな矢吹の一発を警戒してか、拳四朗はかなかなか手が出せない。
矢吹は拳四朗のジャブの打ち終わりにパンチを合わせてペースを握っていく。
4ラウンド途中採点では、2-0で矢吹がリード。
ポイントを取られ焦りを見せる拳四朗は、半歩距離を詰めてプレッシャーをかけていく。
しかし、近距離は矢吹の得意とするところ。近づけば近づくほど強打を浴びせられた。
なかなか自分のペースに持ち込めない拳四朗は、距離を詰めて更に前に出ていくが矢吹のジャブが伸びてきて被弾してしまう。
8ラウンド終了時の採点では3-0と矢吹が大きくリードした。
後がない拳四朗は、プレッシャーをかけて前に出てボディにパンチを集めていく。
近距離で打ち合いとなり、拳四朗が眉の上をカットし流血。
チャンスと見た矢吹は拳四朗をロープに追い詰めラッシュ。
拳四朗の手が出なくなったところでレフリーが試合を止め、10RTKO勝利で矢吹が新王者となった。
絶対王者として君臨していた拳四朗の防衛記録は8回で止まった。
拳四朗はなぜ負けたのか
今回の試合では挑戦者の矢吹にペースを握られていた。
矢吹はライトフライ級では長身の166cm(リーチ166cm)、対する拳四朗は164cm(162cm)。
これまでの相手は拳四朗より背が低く、自分の距離を崩さずに戦えていたが、今回は身長とリーチが勝る矢吹のジャブに戸惑っていた。
矢吹のパンチは迫力があり、カウンターも脅威だ。最後は激しい打ち合いになったが、近距離ではやはり強打の矢吹に分があった。
また、パフォーマンスも本調子ではなかったように感じられた。試合直前にコロナ感染が発覚し、短期間での再調整を強いられた影響もあっただろう。
WBC特有の4ラウンドごとの公開採点も、勝敗に大きく影響した。
負けている方は焦ってしまい、どうしても自分のペースが崩れる。
拳四朗も8ラウンドの途中採点でリードされたことで、本来のボクシングを変えてでも強引にKOを狙いに行った。
そして何より、この試合に懸ける矢吹の思いが強かった。
「この試合で死んでもいいと思った」と話していたほどだ。
矢吹の王者になりたいという強い思いと死に物狂いで向かってくる気迫は、拳四朗に大きなプレッシャーを与えただろう。
勝っても引退しようと思っていた
矢吹は試合後のインタビューで「途中諦めそうになったが、皆さんのおかげで最後まで頑張れた。みんなのおかげで世界チャンピオンになれた」と話していた。
今回は拳四朗の地元京都での試合となったが、会場には矢吹のファンも多く駆けつけた。
また、「拳四朗は想定内の選手だった。機会があれば絶好調同士でやりたい」と再戦についても口にした。
世界戦のチャンスはなかなか訪れない。それを知っているからこそ、決死の覚悟で試合に臨んだ矢吹。
矢吹の試合にかける執念と気迫が、拳四朗を上回った。
世界チャンピオンは、チャンピオンになりたいと強く思っている選手と毎試合対峙しなければならない。
相手は死に物狂いでくるし、壮絶なプレッシャーと戦っている。
そんな中で、8度もの防衛を果たした拳四朗のこれまでの功績も讃えたい。
今後に向けて聞かれた矢吹は「勝っても負けても引退しようと思っていた。少し考えます」と話すに留めた。
王者になった矢吹は、追う立場から追われる立場になる。世界王者になってからが新たなスタートだ。
日本選手の実力者が多く揃うこの階級で、強さを発揮していってほしい。