3階級王者の田中恒成 「スーパーフライにはやりたい選手が山ほどいる」今後の展望とは
井上尚弥(26=大橋)を筆頭に、村田諒太(34=帝拳)、井岡一翔(30=Reason大貴)と日本人ボクサーの活躍に世界でも注目が集まっている。
その中で、今後の活躍がもっとも期待されているボクサーがいる。
WBO世界フライ級チャンピオン田中恒成(24=畑中)だ。
年末の試合では、日本人キラーの挑戦者ウラン・トロハツ(中国)を相手に見事なパフォーマンスで3RKOで勝利した。
試合後の会見では、会心の出来だった試合にも満足できなかった様子で「ひとかわ剥けたい」と話していた。
その発言を受けて、試合から1ヶ月近く経った田中に今の心境と今後について取材を試みた。
減量とパフォーマンス
インタビューのため、名古屋駅近くの飲食店で待ち合わせた。
現れた田中は綺麗な顔をしており、体もシェイプされていた。
話を聞くと、試合が終わってから4日後くらいにはトレーニングを再開していたようだ。
田中は、2013年にアマチュア実績を得てプロデビュー。
デビュー当初は最軽量級のミニマム級で戦っていたが、当時から減量には苦労していた。
そこから僅か5戦目で世界タイトルを獲得し、初防衛後に階級を上げて2階級制覇を達成。
そして、プロ12戦目でフライ級のタイトルも獲得し、3階級制覇を達成した。
プロ12戦目での3階級制覇達成は、現役最強王者と言われるワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)につぐ世界最速タイ記録となる。
輝かしいキャリアを築いている田中だが、本人は自分のパフォーマンスに納得がいっていない。
そのパフォーマンスの邪魔をしていたのが「減量」だ。
試合のたびに10キロ以上の減量をしいられ、ポテンシャルの半分も発揮できていないと嘆いていた。
年末の試合では、これまでの調整方法を変えたことで手応えを掴み、KO勝利に繋がったようだ。
本人も「手応えはあった。試合までの過程も良くて、結果に結びついて良かった」と話していた。
何が変わったのか、本人は「一番変わったのは意識。これまでは勝ってはいてもレベルの低いパフォーマンスだった。このままでは、普通になってしまう。実力も出せずに終わってしまうのが嫌だ」と語った。
「変わりたい」という強い想いが田中をさらに進化させた。
倒したい選手がいっぱいいる
試合から少し経ったが、まだ今後については決まっていない。
今月中には階級を上げるか、今の階級にとどまるか、陣営と話し合って決めるようだ。
田中は「倒したい選手がいっぱいいる。誰とでもやりたい」と笑顔で話していた。
階級をフライ級のままとどまった場合、望むのは統一戦だ。
現在この階級には以下の王者達が君臨している。
WBA アルテム・ダラキアン(ウクライナ)
WBC フリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)
IBF モルティ・ムザラネ(南アフリカ)
昨年の年末には、ムザラネと3階級王者の八重樫東(36=大橋)が戦った。
その試合を見た田中は「やりづらくて嫌なタイプ。無傷では終われない」と話している。
ひとつ上のスーパーフライ級は更に激戦となり、ビッグネームが揃っている。
田中も「スーパーフライには、やりたい選手が山ほどいる」と話していた。
現在スーパーフライ級は以下の王者が君臨している。
WBA カリッド・ヤファイ(イギリス)
WBC ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)
IBF ヘルウィン・アンカハス(フィリピン)
WBO 井岡一翔(30=Reason大貴)
この他にも、4階級王者のローマン・ゴンザレス(ニカラグア)、ロマゴンに勝利したシーサケット・ソー・ルンヴィサイ(タイ)など強豪が多い。
階級を上げれば「動きももっとよくなるし、調子もよくなる」と話し、減量苦からも解放され、更なる進化が見込まれる。
試合で嬉し涙を流したい
若くして3階級制覇を達成した田中だが「世界王者になってからも自分のパフォーマンスに満足がいっていることはない」と自己評価は厳しい。
ボクサーにとって世界王者は一つのゴールだ。
それを達成した後に、次の目標を見つけられない選手も多い。
しかし、田中は自分に厳しくハングリーだ。ベルトの数や複数階級制覇などの実績は嬉しいが、そこを目指しているわけではない。
求めているのは「本当の強さ」だ。
「目標は一番強くなること。自分より強い選手はいっぱいいる。それがいる限り目標は消えない。負けるかもしれないけど、全員倒したい」と話した。
憧れや理想としているボクサーについて聞くと、
「目標や理想よりも今の自分が嫌だ。現状を変えたい。結果に全然満足していないし、満たされていない」と熱っぽく語った。
田中は強さへの欲求が非常に大きい。だからこそ求める理想もでかいのだ。
「周りの評価よりも自分への評価。無理だと思うことにチャレンジして勝てたら嬉しいし、試合で嬉し涙を流したい。満足したい」と話した。
まだ24歳と若く、ボクサーとしてのキャリアはこれからで最終ゴールは見えていない。
満たされない想いを胸に、理想のボクシングの完成を目指してリングで戦い続けている。
統一戦に進むのか、階級を変えていくのか、今年は田中のキャリアにとって非常に大切な年となるだろう。
田中のチャレンジから目が離せない。