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「高校時代から脅威だった」 天才ボクサー須佐勝明が語った井上尚弥の凄みとは

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
写真提供 FUKUDA NAOKI

ロンドン五輪でもっともメダルを期待された、天才ボクサーがいる。元アマチュアボクシング日本代表の須佐勝明(35)だ。

須佐氏は、福島県出身で、2012年ロンドン五輪にフライ級代表で出場している。

当時の日本代表チームには、3階級王者の井上尚弥(26=大橋)もいた。当時から話題の高校生だった井上について、話を聞いた。

井上尚弥は脅威の存在

ーーー須佐選手にとって、井上尚弥選手はどういう存在ですか?

須佐:アマチュア当時はすごく脅威でした。

ーーー初めて出てきた時は、どう思いましたか?

須佐:高校生で非常に強いといわれていたのですが、そういう選手は今までたくさんいました。

なので、大したことはないだろうなと思っていました。

ですが、ロンドン五輪の予選前、合宿で初めて一緒に組んで、マスボクシングをやりました。そしたら、非常に強くて驚きました。

ーーーマスボクシングで強かったのですか?

須佐:はい。向かい合ってみて、本来であればこちらの距離だったのですが、距離が遠いのです。

ーーー遠いとはどういうことでしょうか?

須佐:当たらない距離なんです。

ーーーではパンチは届かない距離だったということですか?

須佐:だから当時は「え、そんなに遠くて大丈夫?」と焦りましたね。その距離から一気にパンチが飛んでくるのです。

ーーー何が速いのですか。踏み込みが速いのですか?

須佐:踏み込み、加えてモーションがないのです。

普通はモーションがなかったら結構ぶれたりするのですが、ピンポイントに標的に当てているのです。

「こいつは何だ」となりました。

ーーーパンチも非常に脅威ではないですか。当て感や距離感もですか?

須佐:遠い距離から当たらないだろうというところから当ててくるから、みんなもらってしまうのです。前々回のパヤノ戦の時もそうでしたね。

ーーーパンチがある、見えない、あとは何ですか?

須佐:当て感がすごいです。距離があっても完璧なのです。

ーーーそしたら当たりますね。

須佐:井上尚弥がパンチをもらう時は後半なのです。後半でしっかりガードして、もう疲れて休みたい時にしかもらわないです。

後はほとんど打たせないです。

ーーー目がいいのでしょうね。

須佐:目もいいと思いますし、パンチがあるから抑止力になります。

カウンターもあるので、そういったところでみんなパンチを出せなくて、どうしようか、どうしようかと、やってるうちに倒されてしまいます。

スタッフ撮影
スタッフ撮影

オリンピックの予選について

ーーースパーリングはやったことはありますか。

須佐:スパーリングはないです。マスしかないです。

ーーースパーリングをやりたいと思ったことはないですか?

須佐:ないです。勝てる保証がなかったです。

ーーーベテランでアマチュアトップの須佐選手も、当時高校生の井上選手と戦ったらまずいなと思ったのですか?

須佐:はい。減量があるので試合だったら特にです。引き出しはそんなに変わらないですから。若さで負けるかもしれません。

ーーー若い時からすごかったのですね。

須佐:ロンドンの最終予選も勝っていましたよ。負けましたけれども。

ーーーどうだったのですか。オリンピックには出られなかったですけれども、その辺はやはり難しかったのですか。どのような試合だったのですか。

須佐:世界選手権の一次予選は、キューバの選手に負けたのです。

ーーーそれは負けたと書いてありました。

須佐:いいえ、五分五分です。勝ってもいいような試合でした。相手はそれでオリンピックに行ったのですが、どっこいどっこいです。

負けたので、最終予選がなかったのです。

ーーー枠がなかったのですか。

須佐:世界選手権でアジア枠はなくなってしまいました。

ーーーアジアは強いから全部持っていってしまったのですか。

須佐:はい。そのあとに最終予選でライトフライ級で1枠増えたのです。

世界選手権で5枠か6枠あって、みんな一気に世界選手権を取ったので、ほかの選手の枠がなくなりました。

そのため、それをどこかの枠、重量級から持ってきて1枠増やしたのです。

ーーー決勝まで行けば出られるぐらいですか。

須佐:いいえ、優勝したら出られます。

ーーー優勝しないと出られないのですか。

須佐:その予選です。

ーーー予選がなかったのをつくって優勝者しか出られないのですか。

須佐:その時に尚弥の階級の枠がないので、1つどこかからの階級を持ってきて、尚弥は決勝まで行って負けたのです。

ーーー決勝で負けたのですか。その試合はどうだったのですか。

須佐:勝っていました。

ーーーでは本当に運がなかったということですか。その選手はどこまで行ったのですか。

須佐:メダルは取っていないとは思うのですが、ぼちぼち強い選手です。

全日本チーム 井上は前列右から2番目 本人提供
全日本チーム 井上は前列右から2番目 本人提供

メダル獲得も狙えた

ーーー井上選手がそこでロンドン五輪に出ていたら、結構いいところまで行っていましたか。

須佐:行っていると思います。

ーーーメダルを取れていた可能性もありますか。

須佐:ロンドンでもそうですし、リオだったらもう絶対メダルを取っています。

リオでもっと強くなっていると思いますし、メダルを取っていると思います。

ーーー例えば今はプロが入れるようになりましたが、なかなかプロは順応できないから勝てないと言われています。

井上選手は別格かなと思いますが。

須佐:出たらアマチュア荒らしになってしまいます。

ーーー今のアマチュアの選手でも……

須佐:勝てないです。

ーーーそうですか。56キロ級(バンタム級)でもですか?

須佐:56ですか。56でも勝てないと思います。

ーーー52キロ級(フライ級)はどうですか。

須佐:52でも勝てないと思います。別格です。

ーーー近くで見ていましたし、実際に手合わせをしているから分かるのでしょうね。入った時からもともと強かった感じですか。

須佐:強かったです。最初のファーストコンタクトが、距離と見えないのが出てくることでびっくりしました。

それだけでもう警戒レベルが100でしたよ...

井上尚弥の次戦は、11月7日にワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)で、5階級制覇王者のノニト・ドネアと対戦する。

注目の試合は、フジテレビで生中継される。過去最強の相手に、井上がどのような戦いをするかに注目だ。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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