日本最短で3階級を制覇したWBO世界フライ級チャンピオンの田中恒成（23歳）が、元WBA＆IBF世界ライトフライ級統一チャンピオンで、現WBOフライ級4位の田口良一（32歳）と3月16日に岐阜メモリアルセンターで対戦する。

名古屋を拠点とする田中に単独インタビューを行なった。

田口選手との試合について

ーーーどうですか、今の調子は？

田中：いい感じです。

ーーー試合まで、あと1カ月ちょっとだね。スパーリングとかも、結構やってる？

田中：ちょくちょく。

ーーーあまりスパーリングは重視しない？

田中：試合前は重視します。けど、たくさんやると疲れちゃうんで、あまり好きじゃないです。でも、できるだけやるようにしています。

ーーー今回、スパーリングパートナーは、どういう人を相手に？

田中：フィリピンからパートナーに来てもらっているので、今回も来てくれます。特別、いつもと違った練習はしません。

ーーーじゃあ、普段どおり。スパーリングのラウンドは何ラウンドやるとか、もうルーティンも決まってる？

田中：たくさんできればなと思いながら、いつも100ラウンドぐらいです。

ーーー練習メニューは、トレーナーとか会長が決めるの？

田中：全部自分で決めてます。トレーナーにも意見を出してもらってますが、戦い方も自分の中でイメージします。

ーーー今回の試合だけど、田口選手とやる事について、何か思い入れとかある？

田中：前に対戦する話があった時とは、立場も変わったので、あの時とは別物です。けど、やりたいという発言をしてきたので、そういった意味で責任感もあるかもしれません。

ただ、強い選手とやりたいという気持ちに変わりはないです。

ーーー田口戦の話が来て、よし、じゃあやろうかという感じ？

田中：自分の怪我のせいでできなくしたので、今回は、俺から「やりましょう！」と言いました。受けて立つ、という感覚ではなく、田口選手が試合をしたい気持ちを持ってくれているなら、お願いしたいという感じでした。

バンタム級まで戦える

ーーーもっとも軽いミニマム級から来て、ライトフライ、フライ級と、3階級上げてきたけど、減量は結構きつい？

田中：いや、しっかり体調を整えているので大丈夫です。

ーーー普段、体重はどのくらい。

田中：60キロぐらいです。

ーーーじゃあ結構、フライ級でもきついね。（フライ級　48.9〜50.8kg）

田中：そうですね。かなりオーバーしている時もあるので。

ーーー将来的にどこまで階級を上げたいとかある？

田中：普通にやっていけば、バンタム級まで行くと思っています。そこでチャンピオンになれるかどうかは別として、バンタム級でやっていくのは間違いないです。それ以上も全然あり得る話です（バンタム級　52.1〜53.5kg）

ーーー今、23歳だよね。まだまだ体も成長している中、よくミニマム級で戦っていたね。(ミニマム級47.627kg)

田中：木村さんとスパーリングをさせてもらった時は、ミニマム級の時でしたね。

デビューから1年半ぐらいで世界戦をしていますが、最初は52～53キロで、会長には、ライトフライ級でスタートしろと言われたのですが...ミニマム級も全然余裕だと思っていて、ミニマムでやりますよと言っちゃったんです。

そこで、引くに引けなくなりました。もう挑戦する時には、体重がかなり増えていましたね。それこそ60キロ近くになってました。

ーーー減量する幅が広がれば、落とすのも大変になるよね。フライ級でも、きついけど楽にはなってきてる？

田中：それはあります。

ーーー練習とか試合のパフォーマンスも変わってきてる？

田中：変わってきてますね。練習できる期間が長くなってきて、試合でも力が出せるようになりました。

ーーーこの間、木村翔選手の試合をビデオで見たんだけど、よくあの強いチャンピオンに競り勝ったよね。試合してみて、どうだった？

田中：木村選手が、上り調子だったので一番怖い時でした。試合前から思っていたのは、自分の心が折られる、簡単に言うと持っていかれるのが怖かったです。

パンチを効かせた場面もたくさんあったんですけど、いつ飲み込まれてもおかしくないような状況でした。世界戦の舞台で気持ちが強いのは当たり前ですけど、気迫に飲み込まれそうな感じでした。

ーーーやっぱり試合中は、恐怖とか殺気みたいなものを感じる？

田中：そうですね。いつも試合では、どこか不安だったり、弱気になったり、マイナスな気持ちもあるんですが、気持ちの面に関しては一番重点を置きました。だからあの試合では、今までで一番強い気持ちを持って臨みました。

ーーー試合前に、相手をどのように想定してリングに立つ？

田中：相手の長所を見て立ちます。対戦相手が、自分にチャレンジしてきた時は、不安要素をどう消していくかという作業をしています。

シャドーボクシングが仮想のスパーリング

ーーーなるほど。油断して臨むと一番危ないもんね。練習や調整で、意識する事とかある？

田中：スパーリングは意識します。

あと、シャドーボクシングに関しては、フォームをチェックしたり、対戦相手を意識したり、色々な事を意識してやります。デビュー戦の時もそうでしたが、怪我が多かったりスパーリングができなかった事が何回かありました。

最初はスパーリングをやっていない不安な気持ちのまま試合に臨む状況でした。でも、俺はシャドーで相手を意識して、仮想のスパーリングをこれだけやってきた！という、過信のような自信を持って臨んでました。なのでシャドーは、相手をイメージした良い練習ができると思ってます。

ーーーなるほど。どれだけ自分が納得できる練習をするかが、大事だよね！憧れのボクサーとかっている？

田中：かっこいいなと思うボクサーは、たくさんいます。その中でも、辰吉選手はカッコいいなと思ってます。見ていて、ワクワクしますし、期待感もありますが、浮き沈みがあって面白いです。

ーーー田中君のキャリアを見ると、高校で4冠を達成して、高校の時にプロデビュー。

それで、デビューから8戦目で2階級制覇。その後は日本最速で3階級制覇という輝かしい成績を収めてるけど、アマチュアでもプロでも、挫折とかはあった？

田中：別にないです。田口選手の前の試合で、眼窩底（がんかてい）骨折をしたり、高校生の時、最後のインターハイで岩田翔吉選手に負けてしまいましたが、挫折というほどでもないです。

高校の時のライバルは井上拓真

ーーー過去でもいいけど。ライバルとかはいる？

田中：高校の時は、もっぱら井上拓真でした。

ーーーこの間、タイトルマッチで世界を獲ったけど。試合は見た？

田中：やっぱり、拓真の試合は見ますね。高校生の時は、一切しゃべらなかったですけれど、今は会えば話したりしますね。拓真は、一番認めている選手でしたね。

試合もいつも接戦で、彼と試合する時は、勝とうというよりも、やり切りたい！みたいな思いで臨んでいました。

ーーーなるほど。数多くの試合を経験してるけど、印象に残る試合とかある？

田中：デビュー戦が一番心に残っています。デビュー戦の時は、アマチュアからプロになったら誰もが思う事なんですけど、上半身、裸になるのが（笑）

ーーーかわいい事を言うね。

田中：あと、観客がたくさんいたり、相手は世界ランカーだったりと、そういう不安がたくさんありました。しかも、体調も悪くて。練習も十分にできず、試合に臨ました。

でも、最終的には自信を持ってリングに上がりました。プロになったなという実感もできた試合でした。

ーーーなるほど。ボクシングの練習は好き？色々なチャンピオンに取材すると、練習嫌いという選手が多くてね。木村翔選手とかも取材したら、練習は本当に嫌いですと言ってた。

田中：みんな、そうじゃないですか。俺も走るのは本当に嫌いです。練習自体も好きではない。やらなきゃいけないし、これしかやる事ないんでやりますけど。

お金とか知名度はめちゃくちゃ欲しいけど

ーーー元々は空手をやっていたんだよね。何故ボクシングを始めたの？

田中：親に勧められて、空手に活かそうと思って。その頃から、何かやるなら一番を目指してやる、というのがあったので。漠然と、世界チャンピオンになりたいと思ってました。

ーーー今までで一番うれしかったのは？

田中：世界チャンピオンに最初なった時とかですかね？う〜ん…ぱっと出てこないです。チャンピオンになっても、いつもどこかで、何かが引っ掛かっている所がありますね。本質的な所じゃないですが、世界チャンピオンになっても、2階級、3階級制覇しても、認められている感じがしないのも、要因かもしれないです。

ーーーだって僕から見てやっぱり素晴らしい経歴で、もっと多くの人に知られて注目されるべきだと思う。ボクシング人気の影響もあるし、歯がゆい思いもあるよね。

田中：そういうのは、めちゃくちゃありますね。ただ、それを言葉にするのもかっこ悪い話で。あと、それを求めるのも、これは違う話ですね。本当はそういう気持ちはすごくあるんです。でも今までどおりに、ただ頑張ってやるというのに変わりないですからね。

ーーーなるほど。もっとたくさん稼ぎたいとか、有名になりたいとかはある？

田中：めちゃくちゃあります。けど、結果として、そうなればいいという感じです。本当は、めちゃくちゃ欲しいですけど（笑）けど、本質を忘れちゃいけないと思ってます。

お金とか知名度は2番、3番には求めています。ただ、1番はボクシングを通してかっこいい男になりたいなと思っています。

　田中は大一番を控えていたが、落ち着いた様子だった。常にチャレンジしている背景には、チャンピオンになっても満たされないハングリー精神を感じた。後編では、プライベートの事から、将来的なチャレンジ、近い階級で意識する選手について話を聞いた。

【後編は、3/1(金)の朝に公開予定】

　田中恒成VS田口良一の平成最後の名勝負は3月16日に行なわれます。これに合わせてバスツアーを企画しました。

車中では両者の特徴、知られざる素顔、試合の見所などをわたしが解説します。ボクシングの見方が、より深まります。

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