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世間を巻き込んだ大一番 メイウェザー、天心戦が与えたインパクト

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
那須川天心とメイウェザー(写真:Shutterstock/アフロ)

 平成最後の大晦日に、ボクシング無敗の5階級王者のフロイド・メイウェザーとキックボクサーの那須川天心がエキシビジョンマッチで対戦した。試合ではメイウェザーが天心から3度のダウンを奪ったところで、那須川陣営からタオルが投入され試合ストップとなった。

 この試合はボクシング界、格闘技界で大きな話題となった。また、大晦日のトリを務めた事もあり世間的な注目度も非常に高かった。業界内では賛否両論に分かれたこの試合は、果たして今後どのような影響があるのだろうか。

スーパー高校生那須川天心との出会い

 私が天心と初めて会ったのは、彼がまだ高校生の時だった。私が所属していた帝拳ジムに、キックボクシングのためにボクシングを習いに来ていた。当時から抜群の才能を持っていたため、ジム内でもスーパー高校生がいると話題になったのを覚えている。

 私自身も彼と実戦練習のスパーリングをした経験がある。パンチを当てさせない技術と、キックの間合いを活かしたパンチを持っていてスキルが高かった。高校生でトップレベルのボクサーとも対等に戦えるセンスを持っていた。

 当時はキックボクシングや格闘技ブームもひと段落していたので、地上波で格闘技の試合を見る機会も減っていた。なのでこんなに才能があるのなら、テレビ中継もあるボクシングを本気でやればと思ったものだ。しかし、あれから時が経ち格闘技ブームが再度到来した。

 天心がボクシング界のレジェンドのメイウェザーと大晦日で対戦する事になろうとは、誰が予想できただろうか。彼自身も想像していなかっただろう。

格闘技とボクシングの違い

 格闘技とボクシングはルールが大きく違う。キックありのルールになるだけで、ボクサーは途端に勝てなくなる。これまで様々なボクサーがキックボクシングに転向してきた。しかし、その度に越えられない壁にぶつかってきた。

 それほどルールによる違いは大きい。なので今回の試合でも、キック1発で罰金5億円と破格の罰則がついた。それほど、メイウェザーもルールに慎重になっていた。ボクシング界のレジェンドと言われるメイウェザーでさえも、キックルールには過敏に反応していた。

 ボクサーはルールが違うだけで勝てなくなるが、それはキックボクサーも同じだ。キックボクサーからボクシングに転向してきて、成功した例も少ない。パンチが得意なキックボクサーでも、パンチのみのルールになると思うように戦えなくなる。

 リングの上で戦うことは同じだが、似ているようで大きく異なる。天心の場合は、ボクシングの断続的なトレーニングのお陰でスキルは高いが、ボクシング専門ではない。ましてやボクシング界最強の男が相手とあって、その壁までは超えられなかった。

メイウェザー天心戦の影響は大きい

 今回の試合は業界内では賛否両論ある。ボクシングを舐めるなとか、キックありだったら格闘技の方が強いなど議論されている。ボクサーにはボクサーの言い分があり、格闘家には格闘家の言い分がある。しかし、一般の人からしたらボクシングも格闘技も似たようなくくりになるだろう。

 特に若い世代は、スマホの普及でネットテレビやSNSでの影響が高いジャンルに関心がいく。今は昔と違って選択肢も大きく増えた。サッカーや野球、バスケなどの試合もスマホで観戦できる。他のスポーツ以外にも、演劇や音楽のコンサートなど人々の娯楽も幅広くなった。

 ひと昔前のように視聴率も取れて、ボクシング全盛期の時代とは大きく変わった。そう考えたら、小さな世界で縄張り争いしてる場合ではない。双方が協力して業界を盛り上げていかないといけない。もっと大きな視野を持ち、手を取り合って協力していく必要がある。

 今回のメイウェザー天心戦の影響は、非常に大きいだろう。是非ともこのチャンスを活かしていくべきだ。業界の派閥なんて古いし、時流に合わせて変わっていかないと、生き残れない時代だ。ボクシングや格闘技などの、小さい枠の中で争っている場合ではない。

スターが誕生すれば人も集まる

 今回の試合で天心を知った人は多いだろう。あれだけ大きな舞台で注目を集めれば、天心個人に大きな注目が集まる。天心の知名度は抜群に上がった。SNSのフォロワーを見ても、他の選手と比べて飛び抜けている。

 ファンは格闘技やボクシングの競技性を見にいくのではなない。選手のストーリーに胸を躍らせて会場に足を運ぶ。天心の今後に興味を持ち、彼を見にくるファンも増えるだろう。現に今回の試合のように大きい舞台を用意して、たくさんの人に知ってもらう機会を作る事で業界が盛り上がる。スターが誕生すれば人も集まるのだ。

 メイウェザー天心戦は、世間的にも大きな注目を集め、かなりインパクトがあった。連日報道されニュースにもなっていた。これを機に格闘技に興味を持つ人も多いだろう。私自身も学生時代には、K1やPRIDEも観ていた。選手のキャラにスポットが当たりカッコよかった。単純に強い男に憧れ、自分も華やかな舞台に立ちたいと思った。そういう所に格闘技やボクシングの魅力や醍醐味がある。

 競技の奥深さを伝えることも大事だが、華やかな演出や興味を引くストーリー性も大切だ。今後は、業界の垣根を超えたマッチメークにも期待したい。大きな枠で考えて業界全体が盛り上がっていくことを願う。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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