Yahoo!ニュース

アメリカ修行で一皮向けた那須川天心 メイウェザー戦は1ラウンド目の1分が勝負

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:ロイター/アフロ)

 年末に行われる総合格闘技RIZINで、ボクシングの元世界5階級制覇王者フロイド・メイウェザー・ジュニアとキックボクシングのチャンピオンで神童と呼ばれる那須川天心が3分3回ボクシングルールのエキシビションマッチで対戦する。天心はアメリカで2週間にわたりボクシングの本格的なトレーニングを積み、帰国後に千葉県松戸市内の所属ジムで公開練習を行った。初めてとなるボクシングルールでどのような動きを見せるのか。

伝説的なチャンピオンのトレーナーからの指導

 ボクシングとキックボクシングは違う。キックがあるキックボクシングと違い、ボクシングはパンチしか使えない。そのため、よりシンプルな競技となる。なのでボクサー相手にパンチを当てるのはなかなか難しい。天心はKO率も高くパンチでのノックアウトも多いが、それはキックがあるからこそ、パンチが活きている面は大いにある。そのためパンチだけのルールになると、それ相応の練習が必要になる。今回、天心は渡米してボクシング3階級制覇王者のホルヘ・リナレスの元で、2週間のボクシングのトレーニングを積んできた。アメリカではリナレスのトレーナーからも指導を受け、本場のボクシングを吸収してきた。現在のリナレスのトレーナーには、私も現役の時に指導を受けた経験がある。そのトレーナーは、全勝全KOで2階級制覇王者になった、ベネズエラの伝説的ボクサー、エドウィン・バレロのトレーナーもしていた。帝拳の契約選手だったバレロと一緒に来日して、私が所属していた帝拳ジムでトレーナーを務めていた時期がある。そのため、バレロの練習の合間に私やジムメイトの指導も行っていた。中南米出身のそのトレーナーの指導は、日本人の指導と違い個性的で、新しい発見が数多くあった。

日本と海外の練習方法の違い

 日本と海外の指導方法は違う。基本をしっかり教え、形にこだわる日本式に対し、海外の教え方は実践的で型に捉われない。そのため海外の選手の練習を見ると、バランスが悪かったり、変な打ち方をするケースもある。一見弱そうな選手もいる。しかし実際の試合となると、独特のタイミングでパンチが飛んできたり、変な角度から見えづらいパンチを打ってきたりする。日本人にないセオリーで攻撃してきて非常にやりにくさがある。日本人のように基本に忠実な動きはある意味読みやすい。そのため、変則的な間やタイミングだったり、リズムが変わるともの凄くやりづらい。練習方法も独特でテニスボールを使ったトレーニングや、高速コンビネーションを打たせるミット打ち、ディフェンス練習では、特注のプラスチックの棒を使ったトレーニングをするなど個性的だ。また、海外の選手はリズムを大事にしていて、ダンスをするようにボクシングをする。そのためリズム感を鍛えるトレーニングなども実施していた。

世界3階級制覇王者のリナレスとの合同トレーニング

 また今回リナレスとの練習は大きな刺激になっただろう。世界のトップクラスの選手と実践のスパーリングをしたり、直接指導を受けられる環境はなかなかない。しかも、日本でプロデビューをしたリナレスは日本語も堪能だ。日本語でアドバイスしてもらえる点は非常に大きい。スピード、バランス、テクニックと三拍子そろったリナレスは仮想メイウェザーにはもってこいの選手だ。私も一緒にトレーニングをしていたが、高い身体能力を活かしたハイレベルなボクシングは、見ているだけでも参考になる。超一流のボクサーと、一緒に過ごす日々は選手を大いに成長させるだろう。私も天心と練習をした経験があるが、天心は危ない匂いを察知する能力が非常に高い。リングに対峙するとその選手がどのくらいのレベルか分かるものだが、高校生の時点でトップクラスの実力を持ち合わせていた。それに加えて様々な修羅場をくぐり抜け、経験を重ねファイターとしても大きな成長を遂げている。

日本と海外で調整するリナレス
日本と海外で調整するリナレス

メイウェザー戦は1ラウンド目の1分が勝負

 メイウェザーとの試合まで2週間を切った。相手にパンチを当てさせない鉄壁なディフェンスをほこるメイウェザーだが、その牙城を天心は崩せるのか。メイウェザーは初めての海外での試合となるのと、前回の試合からブランクがあるため、調整が気になるところだ。また、メイウェザーもキックボクシングとボクシングをミックスした天心のようなスタイルとは戦い慣れてないだろう。ボクサーとは違ったタイミングでパンチを打てばメイウェザーにパンチがあたる可能性は多いにある。特にお互い情報が無い1ラウンド目は大きなチャンスとなるだろう。試合勘が鈍っているメイウェザーに対して、最初の1分の間にどれだけ自分のペースに持ち込めるかが、カギになる。ファーストラウンドにいいパンチが当たればメイウェザーのリズムを狂わせることができるだろう。逆にお互い見合ったペースで進んでしまうと百戦錬磨のメイウェザーには敵わない。なので、初めから臆せずにどんどん仕掛けていってほしい。天心はまだまだ若い。短期間の練習できっかけを掴めれば、見違えるほど動きが変わる可能性がある。また選手は1試合で大きく成長する。試合での経験や自信が、その後の選手生活に大きな影響を与える。今回もたくさんの人に注目され、世界トップクラスと試合をすることで、何ものにも変えられない大きな経験となる。メイウェザーとの試合経験は大きな実績にもなるだろう。そう考えると誰よりも楽しみなのは、本人なのかもしれない。格闘家は最後は自分との戦いだ。困難を乗り越えることで、それが自分を高めてくれ、強くなっていく。天心のパンチでメイウェザーが本気になるところをぜひ見てみたい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

木村悠の最近の記事