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「ロシア兵は私を繰り返しレイプした」集団処刑、証拠隠滅のため遺体焼却 プーチンの戦争犯罪を追及

木村正人在英国際ジャーナリスト
戦争犯罪者として追及されるプーチン露大統領(写真:ロイター/アフロ)

■バイデン氏「戦争裁判にかけられるよう情報収集する」

[ロンドン発]ウクライナに侵攻したロシアの戦争犯罪が明るみになってきた。ウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、ロシア軍が撤退したあとの首都キーウ近郊には410もの民間人の遺体が残されていた。手足を縛られ、後頭部を撃ち抜いて処刑した戦争犯罪の証拠を隠滅するため遺体は焼かれていた。西側はウラジーミル・プーチン露大統領による戦争犯罪の立証に照準を定めている。

ジョー・バイデン米大統領は4月4日、記者団とのやり取りで「私はプーチン氏を戦争犯罪人と呼んだことで批判された。キーウ近郊のブチャで何が起きたか見ただろう。彼は戦争犯罪者だ。われわれはウクライナに武器を提供し続ける一方で、戦争裁判にかけられるよう情報を把握しなければならない。この男は残忍だ。 ブチャでの出来事は言語道断だ」と語気を強めた。

ボリス・ジョンソン英首相も4月3日「ブチャやイルピンでの無辜の市民へのロシアの卑劣な攻撃はプーチン氏と彼の軍隊による戦争犯罪のさらなる証拠だ。クレムリンは否定や偽情報で真実を隠せない。ウクライナでの残虐行為について国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)の捜査を率先して支援する」と専門捜査官の派遣とICCへの財政支援を決めた。

ウクライナの大統領報道官セルゲイ・ニキフォロフ氏は英BBC放送に「奪還したキーウ近郊のブチャやイルピン、ホストメリの現場を言葉にするのは難しい。手足を縛られ、頭を後ろから撃ち抜かれた民間人の遺体や集団墓地が発見された。戦争犯罪の証拠を隠すため遺体を焼こうとしたが、隠滅する十分な時間がなく、半焼けの状態だった」と生々しく証言した。

■ブチャの虐殺

ウクライナのイリーナ・ベネディクトワ検事総長もフェイスブックで「これは地獄絵図だ。非人道的行為を罰するため証拠を集めなければならない。キーウ近郊で殺害された民間人410人の遺体を運び、4月1日から3日にかけ140体の検視を済ませた。恐怖を生き抜いた目撃者の証言や証拠写真、ビデオを収集している」ことを明かした。

ウクライナ国防省のツイッターに投稿された動画には、ブチャにある地下室で後ろ手に縛られ跪かされ、膝を撃ち抜かれて拷問にかけられた民間人男性の無惨な遺体が映し出されている。隣の部屋は5人が手足を縛られ、壁に向かって座らされたあと、後頭部を撃ち抜かれた処刑現場だった。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月4日、ブチャの虐殺現場を訪れたあと「地下室で見つかった遺体は縛られ、ロシア軍の拷問にかけられたことが明らかだ」と悲痛な表情を浮かべた。ロシアは全部、ウクライナ軍の仕業だと反論しているため、ウクライナと西側はプーチン氏とロシア軍の戦争犯罪を立証するための証拠収集に全力をあげる。

ユニセフ(国連児童基金)は「ロシア軍のウクライナ侵攻で200万人の子供が難民として国外に脱出し、さらに250万人の子供が国内で避難生活を強いられている」と言う。国連人権高等弁務官事務所によると、この戦争で100人以上の子供が死亡し、さらに134人の子供が負傷したことが報告されているが、実際の犠牲者はもっと多い。

■女性を繰り返しレイプしたロシア兵

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、3月13日、ロシア軍が当時支配していた北東部ハリコフの村ではロシア兵が31歳の女性オルハさん(仮名)を殴り、繰り返しレイプした。アサルトライフルとピストルを所持するロシア兵は女性や少女ら約40人が避難する地元の学校の地下室に押し入ってきた。

兵士はオルハさんを2階の教室に連行し、銃を向けて服を脱ぐよう命じ、オーラルセックスを強要した。兵士は女性のこめかみや顔に銃を当て、天井に向け2回銃を発射した。兵士は「子供にもう一度会いたければ言う通りにしろ」と言って再びオルハさんをレイプし、首や頬をナイフで傷つけ、髪を切り落としたという。

戦争犯罪にはジュネーブ諸条約やハーグ陸戦協定など戦時国際法の重大な違反と第二次大戦後に創設され、日本やドイツが裁かれた「平和に対する罪」「人道に対する罪」がある。戦時国際法では捕虜の虐待や毒ガスなど国際法で禁止された非人道的兵器の使用、民間人や生存に不可欠な生活インフラへの意図的な攻撃は禁止されている。

アントニー・ブリンケン米国務長官は3月23日、「ロシア軍はアパート、学校、病院、重要インフラ、民間車両、ショッピングセンター、救急車などを破壊し、何千人もの罪のない民間人を死傷させた。 ロシア軍が攻撃した場所の多くは民間人が使用していることが明確に確認できるものであった」とロシア軍による戦争犯罪を糾弾した。

■マリウポリでは病院、学校、幼稚園など建物の9割が損傷

南部の港湾都市マリウポリでは、産科病院や、空から見えるほど大きなロシア語で「子供たち」と書かれた劇場が攻撃された。露チェチェン共和国のグロズヌイやシリアのアレッポと同じように市民を絶望に追い込むため都市を包囲して無差別攻撃が行われた。 病院、学校、幼稚園、工場など建物の9割が損傷。「子供約210人を含む約5千人が死亡した」(市長の報道官)。

ロシア軍は無差別に被害を広げるクラスター爆弾や液体燃料を気化させ周囲の酸素を巻き込んで高温爆発を起こす燃料気化爆弾も使用している。ICCは特定グループを狙った集団虐殺や集団レイプなど「ジェノサイド罪」や拷問など「人道に対する罪」、一般市民の殺害、学校や病院など軍事目的ではない建物への攻撃など「戦争犯罪」で個人を裁くことができる。

ICCのカリム・カーン主任検察官はイギリスなどICCに加盟する39カ国から捜査の付託を受け、3月2日、ウクライナでの戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで捜査を開始すると発表した。しかしアメリカや中国、ロシアなど主要国が参加していないため、ICCによる訴追ができず、加害者が処罰されない恐れがある。

ウクライナは「ロシアは東部でジェノサイド行為が発生していると虚偽の主張を行い、ウクライナに対する軍事行動を行っている」として、国家間の紛争を裁く国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。ICJは暫定措置命令を出したが、国連安全保障理事会の常任理事国で拒否権を発動できるロシアは命令を完全に無視している。

ウクライナ外相顧問のミコラ・ハナトフスキ氏は「第二次大戦以来前例のない欧州の主権国家による欧州の主権国家に対する大規模な侵略が行われている。ウクライナの独立国家としての生存権そのものを否定する声明や戦争犯罪や人道に対する罪も伴っている。侵略行為に対する戦争犯罪者の責任を問う仕組みを作る必要性がある」と指摘している。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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