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「19日にもロシア軍のウクライナ攻撃が始まる」米シンクタンクが警報 親露派地域から70万人避難

木村正人在英国際ジャーナリスト
米シンクタンクは19日にロシア軍がウクライナを攻撃すると分析した(提供:Moscow/EyePress News/REX/アフロ)

[ロンドン発]ウクライナ国境に展開するロシア軍が16万9千人~19万人に膨らむ中、米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は18日、ロシア軍は19日にウクライナへの攻撃を開始する可能性があるとの分析を発表した。ウクライナ政府を麻痺させ、国防能力と国民の士気を削ぐため同国の大部分を標的にロシア空軍とミサイルの攻撃が始まるという。

欧州安全保障協力機構(OSCE)のマイケル・カーペンター米大使は「ロシアは1月30日の約10万人と比較して、16万9千人から19万人の部隊をウクライナ国境に集結させていると評価している」と明らかにした。これまでバイデン米政権は15万人以上との分析を示していた。戦争研究所が19日にロシア軍の攻撃が始まる理由を4つ挙げている。

(1)ウクライナのゼレンスキー大統領の留守を狙う

ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領が19日、ドイツで開催されているミュンヘン安全保障会議に出席し、現地時間の午後3時半に演説する予定だ。

ゼレンスキー氏がウクライナを離れれば、ロシア軍の攻撃に対応するための調整能力が低下し、ロシアが支援するクーデターの試みに好都合な状況が生まれる。ロシア軍はゼレンスキー氏がウクライナの首都キエフに戻るのを阻止するためにウクライナ領空を閉鎖できる。

(2)19日に核ミサイル部隊を含むロシアの軍事演習

ウラジーミル・プーチン露大統領が19日に核ミサイル部隊を含む軍事演習を指揮するとロシア国防省から発表された。 同盟国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領もプーチン氏に同行する。これらの演習は通常のサイクルから外れており、ウクライナ攻撃に対する西側の反応を抑止することを明らかに意図している。

プーチン、ルカシェンコ両氏はおそらくロシア国防省の国家防衛管制センター(NDCC)で演習を指揮するとみられる。軍事行動を指揮するための最適の場所だ。演習中にウクライナへの攻撃を開始すれば、核抑止力を最大限に活用できる。

(3)親露派地域の70万人をロシアに避難させる

ウクライナ東部の親露派支配地域に対するウクライナからの攻撃を装ったロシアの挑発行為は16日以降、急増している。その中にはルガンスク人民共和国の保育所の壁に穴を開けた砲撃やその他複数の偽装攻撃が含まれる。

ロシアの偽装作戦は、ウクライナが東部ドンバスの親露派支配地域への侵攻を準備しているというデマに加え、ウクライナが同地域のロシア人を攻撃しているとの主張を強めている。ウクライナの攻撃を主張する前に同地域のロシア人住民約70万人をロシアに避難させ始めた。プーチン氏を含むロシア政府高官はこうした主張を拡大している。

(4)親露派地域のロシア人を守る“自衛権発動”の地ならし

偽装作戦はロシアが攻撃と主張するような行動にウクライナ軍を引き込み、偽旗作戦や明らかな偽情報を利用して親露派支配地域のロシア人を守るためのロシアの“自衛権発動”を正当化することを意図しているとみられる。こうした動きはロシアによる実際の攻撃の可能性を示している。

偽旗作戦とは自国民や軍が敵対する国やテロリストから攻撃を受けたかのように装って自衛権の発動を正当化すること。

戦争研究所は「これまでプーチン氏がロシア軍をあからさまに東部ドンバスに侵攻させ、場合によってはウクライナ東部の被支配地域に限定的に侵攻したり、空爆・ミサイル作戦を実施したりする条件を整えていると評価してきた。ロシアの活動は差し迫ったものであり、より大規模な侵攻もあり得る」と指摘している。

プーチン氏が爆発した2007年のミュンヘン安全保障会議

プーチン氏は約20年間で初めてミュンヘン安全保障会議を欠席する。2007年のミュンヘン安全保障会議で「アメリカがあらゆる面で国境を踏み越えている。他国に押し付ける経済・政治・文化・教育政策に現れている。誰が喜ぶのか。北大西洋条約機構(NATO)拡大は相互信頼のレベルを低下させる深刻な挑発行為だ」と不満を爆発させたことがある。

一方、同会議で演説するボリス・ジョンソン英首相は「不要な流血を避けるチャンスはまだあるが、それには最近の歴史では見られなかったような西側の圧倒的な連帯感が不可欠だ。同盟国は声をそろえ、ロシアがこれ以上ウクライナに侵攻すれば高い代償を払うことになるとプーチン氏に強調する必要がある。外交はまだ勝てる」と強調した。

ジョー・バイデン米大統領は18日「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断を下したと確信している。来週かあるいはそれよりも早くウクライナを攻撃するつもりであり、攻撃の対象は280万人の罪のない人々が住むキエフであると考えている」と述べた。

17日、英国防省も「ロシアは数日以内にウクライナに侵攻できる」と分析する動画をツイッターに投稿した。

米が明らかにしたプーチン氏の戦争計画

アントニー・ブリンケン米国務長官は17日の国連安全保障理事会で「ロシアは侵攻のための口実を作ることを計画している。ウクライナに責任をなすりつける暴力的な出来事やロシアがウクライナに対して行うとんでもない非難かもしれない」とプーチン氏の戦争計画を示した。それによると――。

「テロリストによるロシア国内での爆破事件や集団墓地の発見の捏造、ドローン(無人航空機)による攻撃のデッチ上げ、化学兵器を使った偽装または実際の攻撃など、どのような形を取るかは分からない。 ロシアはこのような出来事を民族浄化やジェノサイド(虐殺)と言うかもしれない」

「ロシアメディアはすでにこのようなデマやプロパガンダを広め始めており、ロシア国民の怒りを最大限に高め、開戦を正当化する根拠を築き上げようとしている。次にロシア政府はデッチ上げの危機に対処するため緊急会議を招集し、ロシア国民やウクライナ国内のロシア人を守るためロシアは対応しなければならないと宣言する可能性がある」

「そして攻撃が始まる。 ロシア軍のミサイルや爆弾がウクライナ全土を襲う。サイバー攻撃で通信は妨害され、ウクライナの主要機関は停止する。すでに周到な計画が立てられた重要なターゲットに向かって戦車や兵士が進撃する。 キエフも含まれている。特定のウクライナ人グループを標的にしているという情報もある」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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