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タリバンより怖い「イスラム国」ISIS-K カブール空港の自爆テロで最大200人殺傷

木村正人在英国際ジャーナリスト
カブール空港外側で起きた自爆テロで最大200人が殺傷された(提供:ロイターTV/アフロ)

「対テロ戦争」の最前線

[ロンドン発]欧米のアフガニスタン脱出作戦が展開される首都カブールの空港外側で26日夕、2度にわたる自爆テロが起き米兵13人を含む30~60人以上が死亡、120~140人が負傷しました(米紙ニューヨーク・タイムズ)。過激派組織「イスラム国」(IS)のホラーサン支部(ISIS-K)の犯行で、ジョー・バイデン米大統領は報復する方針を表明しました。

バイデン大統領は26日「この数週間、イスラム原理主義勢力タリバンの宿敵で、刑務所から解放された人を吸収したISIS-Kがアメリカ人への攻撃を計画していると情報機関が把握していた」「ISIS-Kの資産、指導者、施設を攻撃する作戦計画を策定するよう指揮官に命じた」と述べる一方で、タリバンとISIS-Kが共謀している可能性は全面否定しました。

アフガン駐留米軍が8月末までに撤退する方針に変更はありません。タリバンはISと対立する国際テロ組織アルカイダと深いつながりがあります。2020年2月の米タリバン合意で、タリバンは米軍撤退の見返りに特定のテロ対策を行うことを約束しました。合意に基づき米軍と協力し空港周辺を警戒、ISIS-Kのテロ情報を共有していました。

アフガンに米軍が20年も駐留したのは、01年米中枢同時テロの首謀者であるアルカイダ指導者ウサマ・ビンラディン容疑者を当時のタリバン政権が匿ったことに加え、地理的な条件や複雑な民族構成、紛争の歴史を持つアフガンが、多数の武装イスラム主義グループが跋扈するテロリストの温床で、まさしく「対テロ戦争」の最前線だからです。

タリバン・アルカイダvs「イスラム国」

アフガンのテロ組織は親タリバンのアルカイダ・コアとアルカイダ・インド亜大陸(AQIS)、タリバンとアルカイダの連絡役とされるハッカニネットワーク。今回、自爆テロを起こした反タリバンのISIS-K。小さなグループとしてはパキスタン・タリバン運動(TTP)、ウズベキスタン・イスラム運動、東トルキスタンイスラム運動があります。

中国が米軍撤退に合わせるようにタリバンとの友好関係を強調したのは、1兆~3兆ドル(110兆~330兆円)と言われる豊富な地下資源の利権のほか、中国新疆ウイグル自治区などのイスラム教徒ウイグル族のために独立したイスラム国家を樹立することを目指す東トルキスタンイスラム運動をタリバンと協力して抑える狙いがあります。

米議会調査局の報告書によると、「イスラム国」はイラクとシリアに勢力を伸ばしていた15年1月にアフガン支部ISIS-Kの結成を発表。ISIS-Kはかつてアフガン東部、特に部族地域として知られるパキスタンに接するナンガルハル州に集中していました。14年半ば以降、パキスタン軍の作戦から逃れてきた元TTPがメンバーの中心になりました。

19年後半、米軍とアフガン軍の攻勢、タリバンによってISIS-Kはアフガン東部の主要拠点からほぼ追い払われたものの、依然として東部と北部に2千~3千人の戦闘員を擁しているとみられています。政府機関への攻撃に加え、今年5月のカブールの女子校爆破事件などイスラム教シーア派を狙った爆破事件を数多く起こしていると言われています。

女子校爆破事件では自動車爆弾が発生し、続いて即席爆発装置(IED)が2回爆発、少なくとも60人が死亡、150人以上が負傷しました。 犠牲者の大半は11~15歳の少女でした。

タリバンは穏健になったのか

タリバンはかつてバーミヤン大仏の破壊や公開処刑、シャリア(イスラム法)解釈に基づく非人道的な処罰、女性の教育否定で世界中にイスラム原理主義の衝撃を走らせました。しかし、そのタリバンが十分に原理主義的ではないとみなす過激派がISIS-Kに参加し、ISIS-Kはアフガンのジハード系過激派グループの中でも最も過激で暴力的と言われています。

カブールを奪還したタリバンは海外からの援助がシャットアウトされるのを恐れて海外メディアの取材に応じ、アフガンのテレビ局では女性司会者がタリバンの報道官にインタビューする様子が放送されました。20年前のイメージに比べて随分マイルドになったように見えます。これがタリバンの交渉術なのかどうかはまだ分かりません。

タリバンはカタールのドーハで開かれた和平交渉を優先し、ジハードを放棄したとISIS-Kに非難されました。タリバン次期政権にとってISIS-Kが安全保障上の大きな脅威になっており、タリバンは投獄されていたISIS-Kの元指導者を処刑したと報じられています。対ISの一点でタリバンと欧米の利害は今のところ一致しています。

ISIS-Kは女子校や病院に留まらず、産科病棟を標的とし、妊婦や看護師を射殺したとされ、残虐行為の責任を問われています。タリバン統治下でアフガンが再び内戦に陥るのか、関係が強いアルカイダがテロの輸出を抑えるのか、ISIS-Kが過激な原理主義路線でヒトやカネを集め、欧米にテロを仕掛けてくるのか、予測するのは極めて難しいと言わざるを得ません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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