早ければ1カ月以内に政権は崩壊する

[ロンドン発]アメリカをアフガニスタン、イラクの“泥沼戦争”に引きずり込んだ2001年9月11日の米中枢同時テロから間もなく20年。ジョー・バイデン米大統領が8月31日に向けアフガン駐留米軍の完全撤退を進める中、反政府勢力タリバンが各州の州都を次々と陥落、国内第2の都市カンダハルの制圧を宣言し、首都カブールに迫る勢いを見せています。

バイデン大統領はホワイトハウスの記者団に「私たちは20年間で1兆ドル(約110兆円)以上を費やした。私たちは30万人以上のアフガン軍を訓練し、最新の装備を整えた。今度はアフガンの指導者たちが団結する時だ」と完全撤退の日程を遅らせる考えはないことを強調しました。

米紙ワシントン・ポスト電子版は10日、アフガン政府の崩壊は早ければ1カ月から90日以内に起きる恐れがあるという米軍の分析を報じました。米軍などに訓練された30万人超のアフガン国軍や警察はいったい何をしているのでしょう。それにしても、どうしてこれだけ急速にタリバンがアフガン政府の支配地域を攻め落とすことができたのでしょう。

01年、米中枢同時テロの首謀者で国際テロ組織アルカイダ指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の引き渡しを拒んだ当時のタリバン政権は米軍などの攻撃を受けて崩壊します。しかしアメリカはアフガンとイラクで夥しい血を流し、膨大なコストを支払いました。

アフガンだけでも米兵2300人が犠牲になり、2万人以上が負傷。米ブラウン大学の調査ではアフガン国軍と警察の損失は6万4千人を上回りました。

アフガンに米兵10万人以上が展開していた10~11年、アメリカの戦費は年1千億ドル(約11兆円)近くに達し、01年~19年のアフガン戦費は総額で7780億ドル(約85兆8千億円)。米国務省は復興プロジェクトに440億ドル(約4兆8500億円)を支出しました。

アフガン治安部隊の「幽霊兵士」

20年に及んだアフガン駐留に対する有権者の反発は強く、アフガン政府の後ろ盾であるアメリカのトランプ政権(当時)は20年2月、カタールの首都ドーハでタリバンと和平合意に署名しました。アフガンを支援するお金があるなら、生活に困っている私たちに回せというのが米有権者の本音です。

アメリカと北大西洋条約機構(NATO)加盟国は過去20年間の大部分をアフガン国軍と警察の訓練と装備に費やしてきました。英BBC放送によると、国軍には近代兵器が提供されましたが、空軍は戦闘機の維持とパイロットの確保に苦労してきました。タリバンはアフガン国軍の記章がまだ残っている車両を含め、アフガン政府から奪った一連の武器や装備を使用しています。

アフガン国軍と警察では脱走や汚職、腐敗が絶えず、悪徳司令官が存在しない兵士の給与を請求する「幽霊兵士」が横行しています。公称30万人のアフガン治安部隊も実際には何人いるか非常に疑わしいというわけです。

一方、タリバンは推定6万人。他の民兵組織や支持者を加えると20万人を超える可能性があります(BBC)。

「失敗の本質は中央集権化を定めた04年憲法」専門家

国際関係アナリストのアキ・ピララマリ氏はインド太平洋専門のオンラインニュース「ザ・ディプロマット」への寄稿で「アフガンの破綻した憲法」と題して「04年に制定された憲法が、いまアフガンが直面する多くの問題の原因になっている」「憲法最大の欠陥は民族的に多様な山岳国に中央集権化された単一国家を作り上げたことだ」と指摘しています。

アフガンの人口構成はパシュトゥン人38.5%、ハザラ人24.5%、タジク人21.3%、ウズベク人6%、アイマーク人3.2%など。ピララマリ氏は、アフガンは山岳国家スイスのように複数の自治州による連邦制を目指すべきだったのに、民族的に均質な日本のように中央集権化されてしまったと分析しています。

国家崩壊の危機に瀕し、イランやパキスタンの干渉を恐れてつくられた憲法は「34人の州知事、警察官、学校教師でさえカブールを拠点とする大統領によって任命される構造を作り上げた」そうです。アフガンがタリバン支配から逃れるためには首都カブールと州の間を分散させる仕組みが必要だとピララマリ氏は提言しています。

今年に入ってアフガンの国内避難民は40万人近くに達しています。タリバンが再びアフガンを支配すると、米軍やNATO軍に協力した人々はタリバンに処刑される恐れがあります。西洋化した女性たちのライフスタイルもイスラム原理主義に反するとして狙われるかもしれません。難民の受け入れが急務です。

そんな中、アメリカが作った「空白」を中国が埋めようとタリバンに接近しています。

【年表】米軍のアフガン完全撤退

・20年2月29日、アメリカとタリバンがドーハで和平合意に署名。米軍は135日以内に駐留米軍を1万2千人規模から8600人規模に削減。タリバンが和平合意を履行すれば21年4月末までに完全撤退。タリバンはアフガンをテロの温床にしないと約束

・9月12日、アフガン政府とタリバンの恒久停戦に向けた初協議がカタールで始まる

・11月21日、マイク・ポンペオ米国務長官がカタールでタリバンの交渉団と会談、アフガン和平に向けて動く

・21年3月18日、モスクワでアフガン和平に関する会議が開かれ、アフガン政府とタリバン、米露、中国、パキスタンの代表が出席

・4月13日、米政府高官がアフガン駐留米軍の完全撤退を01年米中枢同時テロから20年の9月11日まで先送りすることを明らかにする

・4月14日、米軍を含む36カ国約9600人の部隊が5月1日までに協調してアフガン撤退を始めるとNATOが表明

・4月29日、アフガン駐留米軍が撤退開始

・7月8日、バイデン大統領がアフガン駐留米軍の撤退は8月31日に終了すると表明

・7月18日、アフガン政府とタリバンが恒久停戦に向けた協議を加速することで合意

・7月26日、国連アフガニスタン支援団(UNAMA)が、アフガン駐留米軍が4月下旬に撤退を始めた後の2カ月間で民間人2392人が戦闘などに巻き込まれて死傷したと報告

・7月28日、中国の王毅国務委員兼外相が天津でタリバン幹部と会談

・8月6日、タリバンが南西部ニムルズ州の州都ザランジを制圧。7日には北部ジョズジャン州の州都シェベルガンを制圧。UNAMAは南部ラシュカルガーやカンダハル、西部ヘラートの3都市だけで「7月に千人以上が死傷した」と公表

・8月8日、タリバンが北部の要衝クンドゥズとサリプル、タロカーンの北部3州都を制圧

・8月9日、タリバンが北部サマンガン州の州都アイバクを制圧

・8月10日、タリバンが西部ファラー州の州都ファラーと北部バグラン州の州都プリフムリを制圧

・8月12日、タリバンが東部ガズニ州の州都ガズニを制圧。全34州都のうち10州都を押さえる

・8月13日、英BBC放送はタリバンが国内第2の都市、南部カンダハルの制圧を表明したと報じる。タリバンは首都カブールに迫る勢い

(おわり)