森元首相の女性差別発言を二度と繰り返させないために 女性議員クオータ制の早期導入が不可欠だ

女性差別発言で謝罪した森元首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」

[ロンドン発]「東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長は性差別発言で謝罪するも辞任は拒否」(英スカイ・スポーツ)「“恥ずかしい。そろそろ辞任しろ”とあるユーザーはツイートし、別のユーザーは森氏が会長職を続けたら大会をボイコットするようアスリートに促した」(英BBC放送)

「失言しやすい元首相を巡る論争は、パンデミックの最中に一度は延期された大会を中止しようとしている主催者と国際オリンピック委員会(IOC)が直面するもう1つの問題だ」(米ESPN)「発言は五輪とパラリンピックの精神に反するものだったと森会長は謝罪した」(米紙ニューヨーク・タイムズ)

騒動の発端は、森氏が3日、日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会に出席、JOCが女性理事の割合を40%にする方針を掲げていることに関し「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言したこと。女性理事の割合は現在、約20%にとどまっている。森氏の発言要旨は共同通信によると次の通りだ。

「女性理事を選ぶっていうのは文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。(略)女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。それで、みんな発言される」

「女性の数を増やしていく場合は、この発言の時間もある程度は規制をしておかないとなかなか終わらないので困ると誰かが言っていた。私どもの組織委員会にも女性は7人くらいおられる。みんな競技団体のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりですから、お話も的を射たご発信をされて非常にわれわれも役立っている」

「あまり(数値目標に)こだわって無理なことをなさらん方が良いということを言いたかった」

性差別発言の総本山ドナルド・トランプ前米大統領が表舞台から姿を消したと思ったら、今度は森会長から根拠のない性差別発言が飛び出した。いったん延期された東京五輪がコロナ危機の長期化で開催が危ぶまれている折だけに、世界の注目を一段と集めた。

森氏は4日、都内で報道陣に「五輪・パラリンピックの精神に反する不適切な表現で深く反省している。撤回しお詫びしたい。あまり(数値目標に)こだわって無理なことをなさらん方が良いということを言いたかった」と謝罪し、理事には「どなたが選ばれてもいい」と性別で区別する考えはないことを強調した。

どうして、こんな時代錯誤も甚だしい、全く根拠のない発言が五輪組織委のトップから飛び出すのか。海外暮らしが15年近くになる筆者は女性なしで世の中は回らないことを日々痛感している。筆者が所属するロンドン外国人特派員協会(FPA)は会長はじめ委員会のメンバー12人のうち10人が女性。事務局長らスタッフ2人も女性だ。

世界中で予防接種が進むワクチンのm(メッセンジャー)RNAテクノロジーを開発したのはハンガリー系アメリカ人女性のカタリン・カリコ氏。アデノウイルスベクターワクチンを作った英名門オックスフォード大学ジェンナー研究所のセーラ・ギルバート教授は3つ子の母である。

天然痘ワクチンのエドワード・ジェンナーにちなむジェンナー研究所でコロナワクチンの開発に取り組むメンバーは、設計者のテリーザ・ラム准教授、ワクチンを実際に作った臨床バイオ製造施設の責任者キャサリン・グリーン准教授、ワクチンによるT細胞反応を調べたケイティ・エワー教授ら女性陣。

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という森会長の発言が本当なら、コロナワクチンの開発がこれだけ早く実現できただろうか。真面目で研究熱心、立身出世の私利私欲にとらわれることが男性に比べて少ない女性だからこそ、なし得た快挙だと筆者は考えている。

このままでは男尊女卑の政治文化は変わらない

世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数2020」で日本は153カ国中、過去最低の121位(前年110位)。経済、政治、教育、健康の4分野の中でも政治分野が144位と大きく足を引っ張った。日本は女性議員の数が少な過ぎることが大きな問題だ。

列国議会同盟(IPU)の調査では各国の下院(日本は衆院)や一院制の国で女性議員の割合を見ると日本は9.9%で、世界191カ国中165位。

全国の地方議会で総定数に占める女性議員の割合は2019年6月時点で14%に過ぎなかった(「市川房枝記念会女性と政治センター」の調査)。女性議員が1人もいない「女性ゼロ議会」は全国1788議会中、302議会(16.9%)もあった。

一方、国連によると、世界の女性閣僚の割合は21%で、内閣の半分を女性が占める国は14カ国もある。ちなみに日本の菅内閣は21人中、たった2人(9.5%)。選挙になると女性議員より男性議員を選ぶ日本の政治文化が森氏のような時代遅れの政治家にいつまでもこんな性差別発言を許しているのである。

過去14年分の「ジェンダー・ギャップ指数」報告書からそれぞれの分野ごとの指数を拾って、このままのペースで行くといつごろ男女格差が解消されるのか分析してみた。世界最年少の政治指導者でしかも女性のサンナ・マリーン首相の誕生で脚光を浴びたフィンランドと比較した。

過去14年分の「ジェンダー・ギャップ指数」報告書をもとに筆者作成
過去14年分の「ジェンダー・ギャップ指数」報告書をもとに筆者作成

あくまで目安に過ぎないが、このまま何もしないで放っておくと日本で男女の国会議員数が同じになるのは何と11942年になる。

クオータ制の早期導入が不可欠

女性議員という選択肢が少なければ各政党や議会がクオータ制を導入して女性候補者や議員の割合を増やし、女性が政治家になっても働きやすい法整備を進めることが不可欠だ。しかし次の総選挙に向け、女性候補者の擁立は思うようには進まない。

昨年12月に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画で、政治家や経営者ら「指導的地位」に就く女性の割合について「20年代の可能な限り早期に30%程度」と掲げ直し、「20年までに少なくとも30%」というこれまでの目標は呆気なく先送りされた。

日本社会の一番大きなタブーは皇位継承を男系男子にしか認めていないことだ。天皇は日本の「伝統と文化」と「国のかたち」を体現している。男系男子という思想が女性の社会進出を阻む文化の根っこにある。男系男子の維持は側室制度なしには成り立たない。側室制度が今の時代にそぐわないことは言うまでもない。

伝統的家族観を唱える日本の保守は敗戦とともに皇籍離脱した旧宮家を復活させて男系男子を維持せよと唱えているが、そんなことをしたら日本の未来は完全に閉ざされてしまう。英王室はスキャンダルだらけだが、エリザベス英女王の存在は女性君主の方が治世は安定するというイギリスの歴史を証明している。

旧宮家を復活させるのではなく、女性天皇を認めることが日本の可能性に再び火を灯すと森氏の発言を聞いて改めて痛感させられた。