Yahoo!ニュース

「子供も大人と同じように感染する」英で猛威ふるうコロナ変異株 専門家が指摘

木村正人在英国際ジャーナリスト
すでに50万人が1回目の接種を済ませたイギリスのワクチンセンター(筆者撮影)

[ロンドン発]イギリスで猛威をふるう新型コロナウイルスの変異株について、英政府の新興呼吸器系ウイルス脅威諮問グループ(NERVTAG)メンバーで、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのウェンディ・バークリー教授(感染症部長)が英メディアに対して「これまで感染しにくかった子供も大人と同じように感染する」と警鐘を鳴らしました。

ボリス・ジョンソン英首相が「可能であれば新年1月には学校を再開したい」と述べていることから、英最大の全国教育組合(NEU)は教職員へのワクチン接種が行き渡るまで来学期の最初の2週間は休校にする必要があると要請しました。

つい最近、ロンドン南東部グリニッジでは自治体が学校を閉鎖し、オンライン学習に切り替える方針を打ち出しましたが、ギャビン・ウィリアムソン教育相は通常通り学校で授業を行うよう法的権限を行使する事態に発展しています。

バークリー教授によると「子供はおそらく大人と同じようにこの変異株に感染しやすいので、人と人との接触パターンを考えると、より多くの子供が感染することが予想される」そうです。

新型コロナウイルスのスパイク(突起部)タンパク質はヒトの上気道や肺、腸などの上皮細胞表面にある酵素ACE2にひっつきます。

「既存株はACE2を見つけて細胞内に侵入するのに時間がかかったため、鼻や喉にACE2がたくさんある大人が標的になりやすく、(ACE2の発現量が少ないと考えられる)子供は感染しにくかった」とバークリー教授は説明します。

「新しい変異株はそのすべてを容易に実行するので、子供はおそらく大人と同じようにこのウイルスに感染しやすくなる。変異株が特に子供を標的にしているからではなく、感染しにくくなくなっただけだ」と言います。

変異株は既存株より最大71%も感染しやすくなったため、ACE2の発現量が少ないと考えられる子供にも感染するようになった可能性が高いということです。

「世界の8割おじさん」こと世界的な感染症数理モデルのスペシャリストでNERVTAGに属する同大学のニール・ファーガソン教授も「因果関係は確立されていないが、予備データは変異株がより効果的に子供に感染する可能性があることを示唆している」と述べました。

英国家統計局(ONS)の最新データでは、コロナ陽性率が最も高かったのは学齢期の子供たちでした。もちろん学齢期の子供たちの方が集団検査を実施しやすかったという面もあります。ファーガソン教授によると、この5~6週間で、15歳未満の感染者では変異株の割合が既存株に比べて有意に高かったそうです。

「学校がまだ閉鎖されている次の2週間に見られるのはおそらくウイルスのすべての亜種の広がりは減少するだろうということだ。その減少率に違いが見られるかどうかを非常に注意深く追跡していく。今後、変異株がどのような動きを見せるのかについて結論を出すためには、さらに多くのデータ収集が必要だ」

ただ感染力が最大71%も強いとされている点については「変異株は既存株より50%感染力が強いという強力な証拠があった」との見解を示しました。

同じくNERVTAGのメンバーのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのアンドリュー・ヘイワード教授は英衛星放送スカイニューズに「ワクチンが最高のニュースなら、この変異株は私たちが今回のパンデミックで経験した中で最悪のニュースだ。できるだけ多くの人々にワクチン接種しながら変異株の広がりを止めるためハッチを閉める必要がある」と語りました。

これは大変な事態です。というのも、これまで新型コロナウイルスは子供の間では広がりにくいと考えられてきたため、学校の休校措置はできるだけ見送られてきました。イギリスには共働きの家庭が多く、学校が休校になると父親か母親のどちらかが家に残って子供の世話をしなければならないからです。

子供にも大人と同じように感染する変異株の出現で学校が休校に追い込まれると、国民医療サービス(NHS)や警察、救急・消防の労働力が確保できなくなる恐れがあります。

英イングランドでは最初のロックダウン(都市封鎖)に入る3日前の3月20日から学校は閉鎖され、一般中等教育修了試験(GCSE)や大学入学資格試験(Aレベル)が中止されました。6月1日に一部の学年の授業が再開されましたが、正常化したのは9月になってからでした。

一部の学校はクリスマスを控え、早めに学校を閉じたところもありますが、多くの中等学校では新年再開する時期をずらして大量検査を実施する予定です。

ジョンソン首相は21日の記者会見でこう話しました。

「私たちは新しい治療法やワクチンを開発しているので、世界中の仲間や友人と協力したいと思っている。今日、わが国では50万人が1回目のワクチン接種を受けた。このパンデミックで見たように、このウイルスは残念ながら、ある国から別の国へと非常に迅速に移動する可能性がある」

「しかしそれは国際的な対応によって着実に打ち負かすことができる。全世界にワクチンの希望をもたらしている国際的な対応で、わが国は私たちの完全な役割を果たし続ける」

(おわり)

参考:新しい変異株が猛威ふるう英で3度目の都市封鎖「もうワクチンしかない」世界はウイルス制圧戦争に突入した

70%感染力が強い新種は一気に17の変異を起こしていた 空便も物流も止まり「孤島」と化した英国の悲劇

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事