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ワクチン接種準備遅れる日本 正常化は2022年4月 五輪開催は夢のまた夢

木村正人在英国際ジャーナリスト
世界で初めてファイザーワクチンの予防接種を受けるマーガレット・キーナンさん(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]英医療調査会社エアフィニティーの上級アナリスト、マット・リンリー氏は10日、筆者の取材に応じ、新型コロナウイルス感染症ワクチン接種への取り組みが遅れる日本について次のような見方を示しました。

「医療従事者やハイリスクグループが予防接種によって免疫ができるのが来年10月15日、感染がそれ以上広がらない集団免疫が形成されるのは2022年4月8日と推定しています。日本は他の多くの先進国に遅れをとっています。日本が私たちの予測で大きな遅れをとっている理由は他の先進国よりも確保している1人当たりのワクチン接種回数がはるかに少ないためです」

ワクチン接種で集団免疫が形成されるのはいつ?(エアフィニティー提供)
ワクチン接種で集団免疫が形成されるのはいつ?(エアフィニティー提供)

上のグラフで黄色の四角が予防接種によって人口の20%が免疫された時期、緑色の三角が医療従事者、高齢者や基礎疾患のあるハイリスクグループが免疫された時期、赤い丸印が集団免疫の形成される時期を示しています。

「ちなみに日本は現在、1人当たり2.3回分を調達しているのに対し、アメリカは7.3回分、カナダは10.6回分、イギリスは6回分、欧州連合(EU)は4.4回分です。日本がより多くのワクチンを調達することができれば、私たちの推定に基づいてそれらのタイムラインは前倒しされるでしょう」

「集団免疫が獲得されるまでの時間を推定するために私たちが作成した予測は、主にワクチンの生産能力と製薬会社と各国への供給契約に基づいています。ワクチンの有効性やコールドチェーンの要件など他の要因も含まれます」

「私たちが収集したワクチン供給契約はすべて公的に入手可能な情報源に基づいています。予測は、新しいデータ(供給契約や有効性の結果など)が出るたびにローリングベースで更新されるため、常に変化し、固定されていません。これらは、現在利用可能なデータに基づく最善の見積もりです」

イギリスでは8日から米ファイザーと独ビオンテックのワクチン接種が高齢者介護施設の入居者や職員を対象に始まったばかり。カナダの医薬品規制当局も9日、同じワクチンの緊急使用を承認しました。米食品医薬品局(FDA)も10日、承認の可否を検討する予定です。EUは今月29日にも承認する見通しです。

日本では2日、コロナワクチンの接種費用を無料にする改正予防接種法が成立。厚生労働省は、接種場所は市区町村が用意し、原則として住民票のある市区町村で予約して接種してもらう方針を決めたそうです。早ければ来年3月に接種が始まる可能性があります。

ファイザーのワクチンは摂氏マイナス70度での保管が必要で、イギリスでは全国50カ所のNHS(国民医療サービス)拠点病院で接種を開始しました。日本でも予防接種の呼びかけとともにコールドチェーンなどの体制整備が大きな課題になりそうです。

来年末までのワクチン生産量(同)
来年末までのワクチン生産量(同)

2021年末までのワクチン生産量でも日本は他の先進国や中国に大きく引き離されています。日本では感染や被害が欧米諸国ほど深刻ではないとはいえ、コロナ緊急経済対策で膨れ上がる政府債務、医療逼迫の現状をみると、アクセルを踏む前からブレーキをかけるのだけはよした方が賢明だと思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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