「Go To」は血税で感染を拡大させる欠陥政策なのか 正念場を迎える日本のコロナ対策

日本政府の「Go To トラベル」キャンペーン(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

日本の経済見通しは今年マイナス5.4%

[ロンドン発]日本で1日の新型コロナウイルス新規感染者数が過去最高の2398人に達した21日、菅義偉首相は「Go To トラベルについては感染が拡大している一部地域において一時停止をする措置を導入したい」と、観光・飲食・サービス業の支援策「Go Toキャンペーン」の見直しを表明しました。

菅首相は「飲食の時間短縮の対応策として政府は交付金でしっかり支援したい。Go Toイートについては新規発行の一時停止などを自治体に要請する」「会食する際も含めてマスク着用を心からお願い申し上げたい。手洗い、3密(密閉・密集・密接)の回避という感染防止策の基本をもう一度心掛けていただきたい」とも述べました。

人と人との接触が戻り始めると感染は拡大します。日本では安倍晋三前首相が辞任するまで「第2波」という言葉を使うのを極力避けていましたが、今回の山は「第3波」と表現しても差し支えないようです。PCR検査の件数が増えるとあぶり出されてくる感染者数も当然、増えてきます。

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しかし重症者の数も増えてきています。

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大阪や東京、愛知、北海道でコロナ対策病床が逼迫し始めているので「Go To」の見直しは賢明と言えるでしょう。ロックダウン(都市封鎖)や営業制限のため世界中で経済はひどく落ち込んでいます。英情報調査会社IHS マークイットによると、今年の経済見通しは下のグラフの通りです。

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地域・国別では欧州単一通貨ユーロ圏が最悪でマイナス7.4%、その次が日本でマイナス5.4%です。

冷房と暖房を同時にかける

ブレーキ(コロナ対策)とアクセル(経済対策)を同時に踏むことになるとは分かっていても、経済を立て直すため政府は事業総額1兆6794億円を「Go To」につぎ込みました。キャンペーンの主な内容は次の通りです。

・旅行商品を購入した消費者に代金の半額相当のクーポン(1人当たり1泊最大2万円)を支給

・飲食店のオンライン予約で1人最大1千円分のポイントを付与。登録飲食店で代金の2割相当が割り引かれる食事券を発行

・イベントやコンサートのチケットを購入した消費者に2割相当分の割引・クーポンを付与

政府は国民1人当たり10万円を配る特別定額給付金で12兆6600億円を給付しました。「Go To」には客の激減で経営難に陥っている観光業者や飲食店を救済するだけでなく、特別定額給付金が貯金ではなく消費に回るよう需要を喚起する狙いもありました。

筆者が暮らすイギリスでも「Go To」と良く似た外食産業支援策「Eat Out to Help Out」キャンペーンを実施しました。約13万社180万人の従業員を支援するため8月いっぱい外食をした人に代金の50%、1人当たり最大で10ポンド(約1380円)を割引する仕組みです。

英国家統計局(ONS)によると「Eat Out to Help Out」キャンペーンと付加価値税(VAT、日本の消費税に相当)の20%から5%への一時引き下げ(来年1月12日まで)で住宅費を含めた消費者物価指数は今年8月、0.9%から0.5%に下がったとみられています。

期間中、乳飲み子を連れてきて10ポンド割引しろと要求する客もいたそうです。筆者も毎日のように利用し、高級レストランに行ったり、1日2回も外食したりしました。ほとんどの店は政府のガイドラインをきちんと守っていましたが、若者が密集して騒ぐ店や感染防止距離が十分でない店もありました。

「血税で感染症を広げた」英国の外食産業支援策

英ウォーリック大学の調査では「Eat Out to Help Out」が適用されたのは1億食近く、支出された税金は5億ポンド(約690億円)。実際の飲食代は約10億ポンド(約1380億円)です。この期間、確認された感染の8~17%がキャンペーンに由来すると推測し、さらに確認されていない多くの無症状感染を広げ、深刻な第2波の要因の一つになったと指摘しました。

英ケンブリッジ大学経済学部のフラビオ・トックスバード講師(感染症の経済学)はウォーリック大学の調査について次のように解説します。

「Eat Out to Help Outは血税で感染症を広めてしまうというよく練られていない政策でした。このスキームは春のロックダウンで大打撃を受けたホスピタリティ産業を支援するために導入されました。この産業は多くの雇用を生み出しています」

「このセクターを支援することにメリットがあったかもしれませんが、これは政府からの財政移転によって達成された可能性があります。病気の蔓延を食い止める一方でセクターを支えるはずでした。逆火を引き起こしたこの政策は感染抑制と経済政策をよく調整する緊急の必要性を示しています」

「ワクチンや効果的な治療法が利用できるようになるまで、健康、経済的・社会的幸福を守るため社会的距離や同様の手段に依存する必要があります。これは、経済政策が健康政策であり、両方を一緒に策定する必要があることを意味しています」

第2波の感染爆発を防げず、2度目の都市封鎖に追い込まれたイギリスの誤算は大量検査と接触追跡アプリを組み合わせた「テスト・アンド・トレース」が機能しなかったことです。成功させるためには感染者との接触を80%特定する必要があるのに地域によってばらつきがあり、60%を下回っているところもあります。

いくらスキームやシステムを構築しても市民が協力せず、ルールを守らなければ十分な効果は期待できません。

あのスウェーデンより緩い日本政府の感染防止策

コロナ・パンデミックをさまざまな角度から検証している統計サイト「データで見た私たちの世界(Our World in Data)」が休校、職場閉鎖、旅行禁止など各国政府の感染防止策の厳しさを指標化しています。それによると中国は厳格で、日本はゆるゆるのコロナ対策で世界中から注目されたスウェーデンより緩いのです。

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これは日本のコロナ対策が2メートルの感染防止距離、マスク着用、3密対策、手洗い、換気という個人個人の感染予防策によるところが大きいことを物語っています。

死者が欧州最悪の5万5千人に達したイギリスに比べると、死者が1974人の日本はコロナ対策の“優等生”であることは間違いありません。

日本の旅行・観光業が国内総生産(GDP)に占める割合は7.5%。菅首相は官房長官時代にインバウンドに傾注してきたこともあり「Go To」に力を入れてきたのでしょう。

先進国における政府のコロナ緊急経済対策をみると日本(対GDP比42%)はイタリアの49%に次いで大きくなっています。

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国際通貨基金(IMF)によると日本の政府債務残高は今年、対GDP比で266%まで膨らむ見通しです。

筆者はコロナ危機の際、イギリスの地方を旅行してみて、政府のガイドラインを忠実に守って営業を再開させているホテルやレストランの従業員の姿に心を打たれました。それぞれの地方で収穫された農産品や畜産品、海産物を使った料理にこだわり、PRしているのは日本の地方と同じです。

悲しいことにイギリスは2度目の都市封鎖に追い込まれ、ホテルやレストランは閉鎖されました。都市封鎖が長引けば廃業に追い込まれるところも出てくるはずです。

レストランはお持ち帰りや宅配サービス、屋外営業を拡大すれば何とか生き延びることができるかもしれません。しかしホテルやパブ、バーはどうなるのでしょう。

私たちはワクチンや治療薬が利用できるようになるまで、状況を見ながらブレーキとアクセルを踏み変える「だまし運転」を続けなければならないようです。しかし来年夏に東京五輪・パラリンピックを控える日本の政府債務残高が一体どこまで膨れ上がるのか筆者には想像もつきません。

(おわり)