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アサンジ被告 大使館籠城中に婚約者と逢瀬重ねる 監視カメラ避けテントを張って2児もうける

木村正人在英国際ジャーナリスト
アサンジ被告の婚約者モリスさんとガブリエル君(右)とマックス君(FBより)

「アイ・ラブ・ユー」も筆談で

[ロンドン発]内部告発サイト「ウィキリークス」創設者ジュリアン・アサンジ被告(49)が在英エクアドル大使館に籠城中、監視カメラを避けるため室内にキャンピングテントを張って南アフリカ出身の女性弁護士ステラ・モリスさん(37)と親密な時間と空間をつくり、密かに男児2人を授かっていたことが分かりました。

愛らしいガブリエル君(3歳)もマックス君(1歳)も父親のアサンジ被告そっくり。モリスさんが英BBC放送の女性プレゼンター、ビクトリア・ダービーシャー氏の単独インタビューに応じ、2人の息子も公開しました。

モリスさんとアサンジ被告が知り合ったのは10年前。アサンジ被告がロンドンにあるジャーナリストのたまり場「フロントラインクラブ」で、イラク駐留米軍ヘリがロイター通信のジャーナリスト2人を含む18人を誤射して死なせる様子を記録した動画を暴露した時でした。2人はいろいろなことを2~3時間にわたって話したそうです。

2015年から2人はアサンジ被告が籠城する在英エクアドル大使館で毎日デートを重ねるようになりました。大使館でアサンジ被告に与えられた部屋には隠しマイクや解像度の高い監視カメラが設置されていたため、筆談をしたり、テントを張って中で明かりを灯したり、エキゾチックな食事を持ち込んだりして親密な時間と空間をつくりました。

「アイ・ラブ・ユー」の言葉も筆談。2人は2年後に婚約。モリスさんは妊娠と出産がバレないよう重ね着をしてメディアや当局の目をごまかしてきました。2人の関係が明るみに出たのは今年3月。アサンジ被告のアメリカへの身柄引き渡しを審理している英刑事裁判所にモリスさん自身が2人の関係を証拠として提出したからです。

プロポーズも「アサンジ流」 VRの海岸で

17年5月にエクアドルの大統領が親米派のレニン・モレノ氏に代わってからアサンジ被告と同国との関係は悪化。電話もインターネットも完全に遮断されました。「アサンジ被告が自分の糞を大使館の壁に塗り付けたというのは全くのデタラメ」とモリスさんは将来の夫をかばいました。

プロポーズは「アサンジ流」で、VR(バーチャル・リアリティ)のゲームを使って創造した砂浜沿いの空に大きく「私と嫌婚してくれますか」と書かれていました。モリスさんは「イエス」という返事の代わりにキスを返しました。

アサンジ被告をアメリカに引き渡すかどうかの審理が刑事裁判所で大詰めを迎えています。しかし最終的な判断は11月の米大統領選の結果を見てからになりそうです。裁判に勝って無罪放免され、今年のクリスマス前には結婚したいとモリスさんは希望を語りました。

アサンジ被告は米司法省によりアメリカからスパイ活動法違反など18の罪で起訴されており、10年に及ぶアメリカ当局の追及と籠城生活、拘束でひどい抑うつ症状に苛まれています。

米外交公電や駐イラク・アフガニスタン米軍の機密文書を持ち出した元米陸軍上等兵チェルシー(旧ブラッドリー)・マニング氏(32)にパスワードの破り方を教え、入手した機密文書の暴露で関係者の生命を危険にさらした罪です。

アサンジ被告はジャーナリストか、ハッカーか

しかしアサンジ被告を罪に問うと米憲法修正1条の「表現の自由(知る権利)」に違反する恐れが出てきます。アメリカでスパイ活動法が制定されてから103年になりますが、国家安全保障に関する報道が罪に問われたことは過去に一度もありません。

このためバラク・オバマ前米大統領がマニング氏に恩赦を与え、釈放しました。ドナルド・トランプ米大統領は4年前の米大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン元国務長官の電子メールを暴露したウィキリークスを「愛している」と称賛していました。

しかしタカ派のトランプ政権はマニング氏を再拘束し、「ウィキリークスはアメリカと敵対する情報機関のように行動している。ロシアに協力する非国家主体の敵性情報機関ウィキリークスがいったい何者なのか問う時がやってきた」(マイク・ポンペオ米国務長官)とアサンジ被告を罪に問う姿勢を強めています。

アサンジ被告の場合、すべて有罪になれば最高175年の刑が言い渡される恐れがあります。最大の争点はアサンジ被告を「公共の利益」のために機密文書を暴露したジャーナリストと見るか、アメリカと敵対するハッカーとみなすかです。

アサンジ被告がマニング氏にパスワードの破り方を教え、機密文書をそのままの形で暴露したのは明らかにジャーナリストとしての一線を超えていました。しかし駐留米軍や外交公電がウィキリークスで公開されていなかったら、私たちはイラクやアフガニスタンの戦争の真実をうかがい知ることはできませんでした。

アサンジ被告の行為は一部誤っていたとしても大筋では「公共の利益」にかなっていたと筆者は思います。イラク戦争自体がアメリカの国益を大きく損なった間違った戦争だったからです。アサンジ被告がモリスさんと結婚式を挙げ、ガブリエルちゃん、マックスちゃんと家族水入らずで今年のクリスマスを過ごせることを祈らずにはいられません。

【ウィキリークスの経過】

2010年5月、アメリカの機密文書を持ち出した米陸軍のマニング上等兵を逮捕

2010年6~10月、ウィキリークスが、マニング氏の持ち出した米外交公電25万件以上と駐アフガニスタン・イラク米軍など機密文書約47万件を暴露

2010年11月、スウェーデン検察当局がスウェーデン女性2人に性的暴行を加えたとしてアサンジ被告に対する欧州逮捕状を発付。アサンジ被告は容疑を否認

2011年2月、スウェーデンへの引き渡しは可能と英裁判所が判断

2012年6月、アサンジ被告がアメリカに引き渡されれば死刑になると在英エクアドル大使館に逃げ込む。後に政治亡命が認められる

2013年8月、マニング氏に禁錮35年の判決

2016年2月、国連人権委員会・恣意的拘禁に関する作業部会が「世界人権宣言など国際規約に違反しており、英国、スウェーデン両政府による不当拘束に当たる」と非難

2017年5月、同年1月にオバマ大統領が与えた恩赦でマニング氏は釈放。スウェーデン検察当局がアサンジ被告に対するレイプ事件の捜査を取り下げ

2018年3月、アサンジ被告が他国の内政に干渉したとしてエクアドル当局がインターネットアクセスを遮断

2018年11月、米司法当局がアサンジ被告を極秘裏に起訴していたことが発覚

2019年3月、ウィキリークス捜査への協力を拒んだとしてマニング氏を再拘束。ウィキリークス捜査への証言を拒否したとして再び投獄される

2019年4月2日、アサンジ被告は繰り返し政治亡命の条件を破っているとエクアドルのレニン・モレノ大統領が警告

2019年4月11日、ロンドン警視庁がアメリカの要請に応じてアサンジ被告を2487日ぶりに逮捕

2019年5月1日、ロンドンの刑事法院がアサンジ被告に保釈中に出頭しなかった罪で禁錮50週を言い渡す

2019年5月20日、スウェーデン当局がレイプ事件の捜査再開

2019年11月19日、スウェーデン当局がレイプ事件の捜査を取り下げ

2020年3月12日、米バージニア州東部地区連邦地裁判事がマニング氏の釈放を命じる。マニング氏は前日に自殺を図る

2020年6月25日、アサンジ被告が欧州やアジアのイベントでハッカーをリクルートしたり、ハッカー組織と共謀したりしていたとして米司法省が新たに起訴

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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