安倍首相の「休日」大炎上 コロナが広げる命の格差 在宅勤務できる正社員と出勤せざるを得ない派遣社員

外出自粛を呼びかける安倍首相のツイート(首相のアカウントより)

「コロナは私たちを平等には扱わない」

[ロンドン発]英BBC放送のニュース番組ニューズナイトの女性司会者エミリー・メイトリスさん(49)は4月8日夜、こう訴えました。「新型コロナウイルスを巡る言葉は時に誤解を招きます。閣僚が何と言おうとも、あなたがどんなに強くて丈夫でも病気には負けてしまいます」

「この病気は私たちを平等には扱いません。新型コロナウイルスにかかれば、お金持ちであろうが貧乏人であろうが同じ苦しみを味わうという人がいます。しかし、これは打ち壊さなければならない神話に過ぎません」

「バスの運転手やスーパーマーケットの棚に商品を並べるスタッフ、看護師、高齢者施設で働く介護士…。いま現在、最前線で働く人々は仕事のリスクに不相応な低賃金で働いています。こうした労働者はウイルスにさらされるため、感染リスクが高いのです」

「彼らは狭い高層住宅や小さなフラットに住んでおり、困難な都市封鎖(ロックダウン)生活を強いられています。マニュアルジョブは在宅勤務に切り替えることができません」

「フランスが不況に陥り、世界貿易機関(WTO)はパンデミックが私たちの人生で最も深刻な不況をもたらす恐れがあると警告します。格差がさらに悪化するのを止めるにはどんな社会的解決が必要か私たちは問いかけました」

「私たちは仕事をしている間に亡くなった人たちのことを覚えておきたいと思います。困難な時期にNHS(国民医療サービス)の最前線で働く全てのスタッフ、介護従事者、そして外で日々の業務を続けるキーワーカーの人たちに感謝したいと思います」

「家にいることができるのは贅沢な証拠」

左派の英紙ガーディアンのコラムニスト、オーウェン・ジョーンズ氏も翌9日、こうコラムに書きました。

「新型コロナウイルスは壮大な平等主義者ではありません。それは既存の格差と不正、不安を増幅させます。第二次大戦と同じような響きが絶え間なく聞こえてきます」

「しかし戦時下の貧しい英国民の健康はナチスによる爆弾の恐怖にもかかわらず、配給と完全雇用の恩恵を受けました。新型コロナウイルスの時代、経済崩壊の瓦礫は世界金融危機で最も苦しめられた若くて不安定な低賃金労働者にふりかかるでしょう」

「裕福な人ほど在宅勤務もできる可能性が高くなります。米国ではモバイルデータを調査した結果、裕福な人々が最も裕福でない人々より動き回っていないことが分かりました。パンデミックの間、家にいることができるのは贅沢な証拠です」

炎上した安倍首相の「うちで踊ろう」

緊急事態宣言を発令し、外出自粛で「最低7割、極力8割程度の接触機会の低減」を求めた安倍晋三首相が4月12日、ミュージシャンの星野源さんの楽曲「うちで踊ろう」に合わせ、自宅でくつろぐ様子を撮影した動画をインスタグラムやツイッターに投稿しました。

東京・富ケ谷の自宅で愛犬を抱いたり、コーヒーか紅茶を飲んだり、読書をしたりする様子を撮影し、こんなメッセージを添えました。

「友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして今この瞬間も過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に心より感謝申し上げます」

インスタグラムでは38万8000回、ツイッターでは1700万回再生されました。反響の大きさでは大成功ですが、批判も少なくありませんでした。ネット上では親安倍派と反安倍派が常に激しいバトルを繰り広げていますが、どんな批判があったのでしょう。

「ネット受けに媚びる暇があるならその時間を少しはまともな政策議論に向けてはいかがでしょうか?膨大な事務作業が必要な30万給付でなく、今すぐ日本で困っている全員に行き渡る補償を進めてください」(ngkysk)

「あまりにも空気読めない投稿じゃないでしょうか?くつろいでる場合じゃない人が日本にはたくさんいますよ。国民に求めるだけでは…」(satomym47)

「他人事みたいな宣伝文句のようなこと言ってないで、国民1人1人に生活の補償できるお金を支給してください」(rirkka)

為末さんの「出勤しちゃうんだ」も炎上

ネット上で炎上しているのは安倍首相だけではありません。400メートルハードル日本記録保持者、為末大さんが日経新聞の「朝の山手線、乗客35%減どまり 接触8割減に現状遠く」というニュースについて「出勤しちゃうんだ」とツイートしただけで炎上してしまいました。

基本的にエリートはこのご時勢、外出を自粛できることが贅沢であることを理解していません。ノンエリートは新型コロナウイルスに感染するリスクがあることを分かっていても働きに出ざるを得ないのが実情です。住宅費、食費、光熱・水道費、保健医療費の支払いは待ってはくれません。

西村康稔経済再生相は13日の参院決算委員会で、自粛要請に応じた店舗に対し「国として事業者の休業補償を取る考えはない」という考えを改めて強調する一方で、売り上げが半減した個人事業主に100万円、中小企業に200万円を上限に現金給付などの支援策を講じることを強調しました。

労働組合・東京ユニオンの担当者は13日、筆者の電話取材に「今日は朝から30件ぐらい電話相談がありました。コロナでお客さんが来ないからお店を閉めるところも出てきています。飲食店が休業したもののお金がもらえなくて困っているという相談が増えています」と話しました。

飲食店で働く若いアルバイト女性はコロナの影響でお客さんが来なくなりお店が廃業することになったが、会社は何もしてくれないと電話をかけてきました。休業補償を出してと店長に申し入れても「わかんないから、できない」と言われ、親会社とも連絡が取れないそうです。

派遣先の観光会社の正社員は「感染すると危ないから会社に来なくて良いよ」と言われて在宅勤務なのに、派遣社員は職場に出勤してキャンセルの電話の対応をさせられているそうです。派遣社員は「どうして感染リスクを冒してまで出勤しなければならないの」と不安を漏らしています。

英国では休業従業員給与の8割を政府が肩代わり

日本では労働基準法で会社都合により休業する場合は、平均賃金の最低6割を労働者に補償しなければなりません。それをもとにきちんと休業補償を申請するよう東京ユニオンではアドバイスしているそうです。

国も事業主が申請すれば雇用調整助成金が出やすいようにしていますが、「6割というのは額的に全然足りない」(東京ユニオン)。英国では休業を余儀なくされる従業員の給与の8割(上限は1人当たり月2500ポンド=約33万8000円)を政府が肩代わりします。

パンデミックを封じ込めるには経済的な犠牲を伴います。自粛要請と補償は必ずセットでなければなりません。そうでないと低所得者や貧困者ら社会的弱者に懲罰的な苦役を強いることになってしまいます。安倍首相の「休日」が炎上した理由はこの一点に尽きるのは言うまでもありません。

(おわり)