新型コロナの免疫とワクチンの話をしよう 免疫学の第一人者・宮坂先生にお尋ねしました(上)

新型コロナウイルスのイメージ(C)米CDC

イタリアでは手遅れになっている患者が多いようですが

[ロンドン発]中国に続いて欧州、そしてアメリカを襲う新型コロナウイルス。免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授にさらに質問をぶつけてみました。

木村:英BBC放送のドキュメンタリー番組で中国の患者さんの家族がCTスキャンの画像を見せる場面がありました。素人が見ても両肺の9割5分ぐらいがハチの巣のようになっていて間質性肺炎を疑いました。新型コロナウイルス肺炎の末期というのは間質性肺炎がひどくなって死んでいくのですか。

宮坂氏:いいえ、私の理解は、そうではありません。レントゲンでは白く見えますけれども、あれは肺胞自身がつぶれる、破壊されるために白く見えているのです。

普通、間質性肺炎というのは、肺胞ではなくて、肺胞と肺胞の間の間質のところに炎症が起こることを指します。

ところが、新型コロナウイルス感染の場合には、肺胞の上皮細胞が感染して壊れるので、肺胞が壊れる。それとともに周囲の間質にも炎症が起こっているということで、肺胞の破壊なしに間質性肺炎が起きているわけではありません。また、間質性肺炎が起きたから肺胞が破壊されているのではなくて、やはり一次的には、何らかの原因で肺胞の上皮細胞がやられてしまって、従って空気交換ができなくなる、ということだと思います。

肺炎の最初の自覚的症状は呼吸困難ですね。あれは酸素が十分に体内に吸収できなくなるからです。その時点では、レントゲン写真ではそんなに白く見えないことが多いのですが、そこからなぜか急に重症化する人がいるのです。

木村:今後、日本でも流行が広がると、病院のベッドが足りなくなってくるから、若くて症状の軽い人は、みんな自宅で療養することになると思います。イタリアでは手遅れになっている人も多いようです。重症化して病院の集中治療室(ICU)に入れられた人で助かる例は少ないという報道もあります。

宮坂氏:何歳で、そしてどういう状態で、ICUに入ったかということが大事です。中国や欧米のデータを見ると、年齢によって50歳より前であれば、ICUに入っても多くの人は元気になって退院しますが、60、70、80歳となると、ICUに入ったら半分は亡くなります。きちんとした医療施設があっても、高齢者には持病があることもあり、助けられる例は多くないようです。

ただ、イタリアのように人工呼吸器が足りなかったり、重症者を入院させられなかったりというような状況にまでいってしまうと、ICUに担ぎ込まれても十分な治療ができず、結局は駄目という状況があるようです。

木村:医療資源のひっ迫度合いによって、助けられる命の率も大きく変わってくるわけですか。

宮坂氏:そうだと思います。この他に、重症化をするかどうかは2つの重要なファクターがあります。一つは、ウイルスの曝露(ばくろ)量です。医療関係者は患者に近接距離で接するのでウイルス曝露量が多く、どうしても重症化する率が非常に高くなります。

木村:本当にかなり重症化率、死亡率が高いですね。

宮坂氏:それは彼らが、ウイルス曝露量が多いだけでなく、非常にストレスのある状況で仕事をしていることも原因になっています。ストレスによって免疫力が落ちていて、非常に感染しやすい状況になっています。体の抵抗力が落ちているためにウイルスが入ってきやすくなっていて、いざウイルスが入ってくると、体内で一気に増えてしまうということです。

もう一つの大事なファクターは持病です。糖尿病、心疾患、高血圧などの持病があり、しかも治療が不十分だった場合、また、がんの化学療法を受けていると、免疫力が低下していますから、当然、重症化しやすく、いったん重症化すると非常に高い確率で亡くなるということになります。

と言っても、実際の統計を見ると、糖尿病や高血圧を持っている人は、重症化率は確かに高いですが、中国の統計では20~25%で、一方、普通の人が重症化するのは数%です。ですから、持病を持っていたら半分以上が重症化するというわけではありません。

免疫系の暴走サイトカインストームについて教えて下さい

木村:ウイルス性の炎症から免疫系の暴走によるサイトカインストームと呼ばれるものに移行する瞬間というのは、どういう感じで起きるのですか。同時に起きていくわけですか。

宮坂氏:それはよく分かっていません。肺炎が悪くなるにつれて、免疫細胞の異常な活性化状態が起っています。しかし、何がその異常活性化状態を引き起こしてしまうのかが、現在のところわからないのです。免疫細胞が活性化されると、炎症性サイトカインというものが作られます。これは、自動車ではアクセルに相当するもので、免疫反応を強く前に進ませる役割があります。

新型コロナウイルス感染の末期に起こるサイトカインストームでは、ちょうど自動車でいえば、ブレーキをかけずにアクセルを踏み込み続けた状態で、全くブレーキが利かないようになっています。でも、われわれにも分からないのは、なぜアクセルだけ踏み込まれてブレーキが利かないようになってしまうのか。通常は、免疫反応の場合、アクセルを踏んだらブレーキが踏み込まれて、加速しすぎないような調節機構があるのですが、サイトカインストームの場合、そこがうまく働いていないようです。

免疫反応というのは一種の炎症反応であり、通常の場合、炎症は一定程度起こっても、必ず戻ってきて回復します。でも、このサイトカインストームの場合には、ある一定のスレッシュホールド(敷居)を超えると、だーっとサイトカインがつくられ続けすぎて、さらに免疫細胞が異常に活性化されて、それが急激な肺胞の破壊あるいは間質の破壊につながっているように見えます。

でも、なぜそうなるかは、われわれにも分かっていませんし、どういう人がそういうことを起こしやすいのかも、先ほど言ったような持病や加齢などのリスクファクターは分かっていても、例えば若い人でもなる人は何%かいるわけです。そういう人が血液検査や何かで分かれば、その人を入院させて重点的に診ればいいのですが、これが分からないのです。

ワクチン開発の見通しはどうでしょうか

木村:英インペリアル・カレッジ・ロンドンのロビン・シャトック教授はワクチンの開発に取り組んでいますが、遺伝暗号を新型コロナウイルスの塩基配列が公表されてから2週間で作りました。その遺伝暗号を筋肉に注射するとタンパク質をつくって免疫反応を起こすと言われています。大学のホームページを見ても1行か2行の説明しかないので何のことか分かりません。

宮坂氏:それが今、DNA(デオキシリボ核酸)ワクチンとかRNA(リボ核酸)ワクチンと言われるもので、アメリカではモデルナという会社がRNAワクチンを開発していて、今、第一相の治験が始まるところです。

ウイルスの遺伝子は一本鎖のRNAですが、その中から特定のウイルスタンパク質を作る部分を見つけてきて、それをわれわれの体に注入し、細胞の中で発現させてやれば、特定のウイルスのタンパク質がわれわれの体で作られるようになります。

そうすると、そのウイルスタンパク質はわれわれの体にとって異物ですから、われわれの免疫系が認識して、それに対する抗体をつくる、あるいは、それに対するキラーT細胞をつくるようになる、ということが期待できます。

つまり、これまで行われてきたような、ウイルスタンパク質を用いて免疫するのではなく、体内でウイルス遺伝子を発現させてウイルス由来タンパク質をつくらせることができれば、外からタンパク質を入れるのと同じ免疫効果があるはずだろう、というのがRNAワクチンの考え方です。

木村:それをすると、かなり開発のスピードが上がるのでしょうか。

宮坂氏:そういうことです。特定の遺伝子、タンパク質を試験管の中で大量につくらせること自体が技術的に大変で、これまではこのプロセスで時間を無駄にしていたのです。ですから、ウイルスのDNAやRNAの一部を注射することによってウイルスタンパク質をわれわれの体の中で作らせることができたら、ワクチンの開発としてはものすごく手間が省けるわけです。

ところが大事なことは、私たちの体はどの遺伝子でも導入すればタンパク質をつくるわけではないということです。よくタンパク質をつくってくれる遺伝子と、そうではない遺伝子があります。だからウイルスRNAをちょん切って、何種類かのRNAをわれわれの体の中に入れて、どのRNAが人体で一番ウイルスタンパク質を効率よくつくらせるかを決めないといけないのです。

ウイルスのRNAは、何十種類ものタンパク質をつくり、その中で一番大事なタンパク質を作ってくるRNAはどの部分か、そしてもっとも免疫を刺激できるタンパク質はどれか、ということを順番に探さなければいけません。それはそれで手間ですが、試験管の中でウイルスのタンパク質を最初に大量につくって免疫をするという作業は省けるので、何カ月も仕事が早くできます。

しかもこのウイルスの遺伝子はRNAですから、RNAのどの部分がタンパク質になるかは、ほぼ全部分かっています。だからウイルスRNAの中にタンパク質を作りそうな領域が20カ所あるとすると、それをちょん切ってそれぞれ注射して、20カ所のうちどれが一番いい免疫力を上げるRNAかを見つけることができるわけです。そういうことをすると、RNAワクチンの候補が早く見つけられるであろう、ということです。

このためには、まず動物で前臨床試験をすることが必要で、そこで一番免疫力を上げられるRNAワクチンの候補が見つかれば、次に人で試すことになります。そうすると、第1相試験、第2相試験、第3相試験という臨床治験をやることになります。

ワクチンというのは、最悪の場合、病原体にも抗体をつくるけれども、われわれの体に対しても抗体をつくってしまうことがあるのです。もし、ワクチンによって神経細胞に対する抗体ができたら、われわれはアルツハイマーになってしまう、あるいは脳炎を起こしてしまうわけです。

実はそういうワクチンの悲しい歴史もありました。これはいいと思ってつくったワクチンでも、例えば、日本脳炎のワクチンでも脳炎が起きたことがありました。

マウスの脳で人のウイルスを増殖させたがゆえに、マウスの神経細胞に存在する抗原がワクチンに混ざってしまい、そのためにそのワクチンをうつと人の神経細胞に対する抗体ができて脳炎を起こす、つまり、ワクチンを打ったために脳炎を起こしてしまったという例が今までもあったのです。

この他にも、RSVという子どもの肺炎ウイルスに対するワクチンを作ったところ、接種した子どもにかえって肺炎が起こる頻度が増え、死者が増えたという悲しい事例が過去にありました。また、デング熱を起こすウイルスに対するワクチンでも同様のことがありました。これは「ワクチンによる病原性の増強」と言って、ワクチン接種により、かえってウイルスの病原性が増して病気が悪化したという例です。

このようなことから、ワクチンの場合には、第1相試験で約100人、第2相試験で数百人、第3相試験で少なくとも2000人や3000人で安全性と有効性を調べます。しかし、そのような安全性、有効性試験を通り過ぎたワクチンであっても、過去には大きな事故が起こったことがありました。ワクチンというのは何百万人に投与するので、千人単位の安全性試験ではなかなかわからないことがあるのです。

ワクチンの安全性試験にはどれぐらいの時間がかかりますか

木村:人数を大きくすると、きわめて稀だけれども大きな副反応が見えてくるということですか?

宮坂氏:そうです。何百万人という単位でワクチン接種をすると、稀だけれども大きな副反応が見えてくることがあるのです。そうなると、必ず大きな非難を受けることになります。ワクチンは健康な人が受けるものですから、1例でも副作用があったら、「このワクチンは駄目だ」と。当然、自分の子どもがワクチンを打って脳炎になったら、「何だ」と絶対に言いますね。

ですから、ワクチンというのは安全性試験と有効性試験がやはりすごく大変で、それをやるにはどうしても2年かかります。

だから米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長という感染症のトップの人も、少なくとも1.5年から2年かかると言葉を濁していましたけれども、それは大人数に対する安全性試験と有効性試験まで入れたら、どうしてもそうなるのです。

ただ、例外は、例えばエボラ出血熱のように、抗体が効くらしいということから試験的に抗体を投与したという例があります。エボラになった感染症の患者さんに、治った人から抗体をとってきて次の人に入れたら、それなりに効いたと。それを人工的に大量につくれる抗体の形につくり替えて、それを何種類か混ぜて投与したら確かに効いたのです。

それは安全性試験とともに有効性試験を同時にやっているのです。これは、かなりのリスクがあり、事故が起こる可能性があります。「それでもいいですか」と言ってインフォームドコンセントをとるのですが、死にそうな人だったらOKするしかない、そういう試験です。

また、第1相、第2相、第3相試験は、ランダム化の試験ですから、あなたに何を投与しますということは、一切言わずに行います。だからその試験に参加しても、自分は正しいお薬をもらっているのかそうでないのかが分からない状態でやるのです。

だから感染症のワクチンの治験は大変です。1群はプラセボ(偽薬)、1群は効くはずのワクチンを投与します。投与を受ける人はどちらのものを投与されているのかは知りません。プラセボを受けた人は、その感染症に免疫はできず、感染のリスクが残ることになります。

ということから、ワクチンの安全性試験と有効性試験を第3相試験までやるというのは大変です。第3相では、数千人の集団を見つけて試験をする必要があり、それを感染が起こりうる地域でやる必要があるのです。

イギリスは、これが2年ぐらいでできるかもしれない、それまでに集団免疫ができればあとはワクチンでいいだろうなどと言っていますが、私は2年では絶対にできないと思います。

木村:臨床試験とは相手のインフォームドコンセントを取って人体で実験をするということですか。

宮坂氏:そういうことです。だから死にそうな人に対しての実験としては成立するのですが、健康な人にそれを言ったら簡単にはやらせてもらえません。

だから、もしも新型コロナウイルスで重症化した患者さんで、死にそうだったら分かりません。今のエイズ薬やアビガンやいくつかのお薬は、そういうところで使っているわけです。

エイズ薬などは、すでに第3相まで過ぎたお薬なので、敢えて新たな臨床試験なしに目的外使用という形で特別にやっているわけです。でもこのワクチンの場合にはそういうわけにはいきません。何百万の人にやろうと思ったら、必ず第3相までの試験は通していないと、国は認可を出しません。それには私は少なくとも2年はかかるだろうと思います。

木村:SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスとMERS(中東呼吸器症候群)ウイルスで共通に存在する抗原(=タンパク質)でマウスを免疫すると、両方のウイルスに反応するTリンパ球が体内にできて、ウイルス感染細胞を殺すことができるというお話を前回うかがいしました。

SARSやMERSは致死率がそれぞれ10%や34%ぐらいあって非常に危険なウイルスだと思いますが、そういうのを動物や、極端な話をすると、人間の体にわざと入れることはできるのですか。

宮坂氏:いいえ、そうではなくて、こういう実験は全てウイルスの遺伝子の一部分を切り出してきて、特定のタンパク質だけ、あるいはそれを作る遺伝子だけを切り出してきて、それを使ってマウスを免疫したりするわけです。

私が前にお話したのは、SARSウイルスとMERSウイルスという異なる2種類のコロナウイルスの間で共通に持っているアミノ酸配列――共通抗原と言いますが――これをマウスに投与するという実験です。

これはマウスを感染させるのではなくて、ウイルス由来のタンパク質で免疫するということです。そうすると、マウスのBリンパ球もTリンパ球もこのウイルス抗原によって刺激されて、Bリンパ球が抗体を作り、Tリンパ球のうちウイルス感染細胞を殺すことができるキラーT細胞が、実際にこの免疫によってできてくるのです。

中でもキラーT細胞は、MERSの感染細胞も殺せるし、SARSの感染細胞も殺す能力を持っていました。つまり、例えばAというコロナウイルスを使って、Bという別のコロナウイルスに対する免疫を起こすことができるかもしれないということです。ただしそれはAとBが共通の抗原を持っていればという話です。

木村:それは今回の新型コロナウイルスにも、ひょっとしたら応用は可能なのですか。

宮坂氏:はい。SARSとMERSと今回の新型コロナウイルスの間には共通に存在するアミノ酸配列が確かにあるのです。そういう配列があるからといって全て免疫を起こす力が強いかどうかというのは、やってみなければ分からないですが、SARSとMERSで共通のタンパク質でお互いに反応する免疫を起こすことができたということは、新型コロナウイルスに対してもこのような共通配列を用いて免疫を起こせる可能性があると思います。

つまり、ウイルスの一部のタンパク質あるいは遺伝子の一部だけを取ってきて、実際の感染力がないものでワクチンを作って、免疫を起こすことができる可能性があるのです。

(つづく)

本人提供
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宮坂昌之氏

1947年長野県生まれ、京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学博士課程修了、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所、1994年に大阪大学医学部バイオメディカル教育研究センター臓器制御学研究部教授。医学系研究科教授、生命機能研究科兼任教授、免疫学フロンティア研究センター兼任教授を歴任。2007~08年日本免疫学会長。現在は免疫学フロンティア研究センター招へい教授。新著『免疫力を強くする 最新科学が語るワクチンと免疫のしくみ』(講談社)。

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