新型コロナの大津波に欧州はなぜ中国よりもろいのか 光る長寿国・日本の健闘

市民の声援に応えるスペインの医療従事者(写真:ロイター/アフロ)

英国にも津波が押し寄せてきた

[ロンドン発]新型コロナウイルスの死者が一気に1万1000人を突破しました。すでに中国を上回ったイタリアの死者は1日で630人も増え、スペインが後を追います。パンデミックの大津波にのみ込まれないようイタリア、スペイン、フランスは外出禁止令を出しました。

ロンドンのNHS(国民医療サービス)病院に務めるマネージャーの1人は筆者にこう話しました。「今月9日に私の病院で最初の死者が出たかと思うと1週間後には6人目になっていました。20日朝、2人だった陽性者は昼前には12人に増えました。津波はもう押し寄せています」

感染を防ぐゴーグルや防護具は重症化した患者を治療する医師や看護師の分しかありません。患者のほとんどが高齢者で、人工呼吸器により肺に酸素を送り込んでも死は不可逆的に進行します。今や病院で出る死者の3分の1は新型コロナウイルス肺炎の重症・重篤患者です。

病院には2番目に深刻な緊急事態に対応するシルバーコマンドルームが設けられ、収集された膨大な情報が政府に送られます。ボリス・ジョンソン首相率いる緊急事態対策委員会(COBRA)でイギリスも他の欧州諸国と同じように外出禁止令を出すかどうか判断するためです。

病院の外来や緊急なものを除いて入院・手術はキャンセルされ、空きベッドを確保。集中治療室(ICU)で働く訓練を受けた医師や看護師は足りず、感染が疑われるため自己隔離中のスタッフもいます。数カ月かかる人工呼吸器の使い方などの訓練は数日間で行われました。

休校になると子供のいる病院のスタッフは働けなくなる

「ICUやコマンドルームを除いて病院は不気味なほど静かです。政治の圧力で決められたのは一斉休校だけで、残りは全国のNHS病院や診療所から上がってくる情報に基づいて判断しています。私の職場で働く人の3分の2には子供がいるのでシフトのやりくりが大変です」

イタリアでは2月22日、北部ロンバルディア州とベネト州の11都市(5万人以上)を封鎖しましたが、市民が移動を続けたため感染拡大を制御できませんでした。この反省からイタリア、スペイン、フランスは外出禁止令を発動しました。

NHS病院のマネージャーは「イギリスでも市民が自主的な自宅待機を守らず、死者が指数関数的に増えるようなら外出禁止令に踏み切ると思います」と言います。

若者の半分は政府指示に従わず

世論調査会社ユーガブは英インペリアル・カレッジ・ロンドンの患者体験調査センターからの依頼で3月17、18の両日、2108人のアンケートを実施。結果は次の通りです。

・77%が新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクを心配

・陽性でない大人の48%が将来、感染する可能性が高いと考えている

・大人の93%が少なくとも1つの自衛策を個人的にとっている

・83%が普段より頻繁に手洗い

・52%は混雑したエリアを回避

・50%が社交イベントを回避

・36%が公共交通機関を避けた

・31%が外出を避けた

・11%が出勤しなかった

・28%が海外旅行を避けた

・医療専門家からの指示があれば7日間自己隔離する意欲があると88%が回答

・自宅で仕事ができると回答したのはわずか44%

・政府の指示に従って行動を変えた若年層(18~24歳)は53%

中国と欧米の力関係を逆転させる新型コロナ

2008年の世界金融危機を機に中国は一気に存在感を増しましたが、今回のパンデミックは中国と欧米の力関係を完全に逆転させてしまうかもしれません。

英紙フィナンシャル・タイムズを参考に死者が10人を超えてから20日目まで1日毎にどれだけ死者が増えていったのか自分でもworldmeterなどのデータをもとにグラフを作成してみました。

worldmeterなどのデータをもとに筆者作成
worldmeterなどのデータをもとに筆者作成

水色の折れ線(中国)よりも傾斜が急峻な国は非常に危ないということです。

【9日目】

(1)スペイン294人(2)中国213人(3)イギリス178人(4)イタリア107人(5)フランス91人(6)アメリカ41人(6)韓国35人

【14日目】

(1)スペイン1043人(2)中国491人(3)イタリア463人(4)フランス372人(5)アメリカ109人(6)韓国53人

【20日目】

(1)イタリア1809人(2)中国1017人(3)韓国75人

中国湖北省の人口は約5000万人、ドイツ約8400万人、イギリス約6800万人、フランス約6500万人、イタリア約6000万人、スペイン約4700万人、韓国5100万人。日本は1億2700万人、アメリカ3億2700万人。人口を考慮すると日本がいかに健闘しているかが分かります。

このグラフから分かるのは公衆衛生的介入による効果がなければスペインやイギリスはイタリアよりも悲惨な状況になり、フランスもイタリアとほぼ同じ運命をたどるだろうということです。

「集団免疫は問題を解決しない」中国はイギリスを一蹴

新型コロナウイルスの狡猾で厄介なところは半数近い無症状病原体保有者がいるかもしれない上、感染力が強いということです。検査を十分に行うキャパシティーはなく、ワクチンも治療法もまだ見つかっていません。人類の戦う手段は公衆衛生的介入しかないのです。

封じ込めでウイルスを死滅させるのが難しくなる中、われわれ人類はワクチンを開発するか、抗体を持つ人が感染者を取り囲むようにして流行を終息させる集団免疫を獲得するしかありません。

集団免疫を獲得するには人口の約6割が抗体を持つようになる必要があり、致死率を1%弱としてもそれまでに相当な犠牲者が出てしまいます。

中国で封じ込めを指揮したのは、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した当時、広州市呼吸器疾病研究所の所長を務めていた鐘南山氏。イギリスが集団免疫の獲得に言及したことについて「集団免疫は問題を解決しない。ウイルスの感染力は強く、致死性も高い」と一蹴しました。

中国はなぜ封じ込めに成功したのか

中国が封じ込めに成功した理由は4つあると思います。

(1)共産党独裁による国家統制が強い。即座に大規模な都市封鎖に踏み切り、国民が従った

(2)平均では欧州に劣る医療資源を湖北省武漢市に集中。短期間に2つの臨時病院を作り、医療資源の不足を解消

(3)中国はすでに研究力で欧米を圧倒。新型コロナウイルス関連の論文の4割超が中国。アメリカは2割弱

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(4)中国の人口構成は欧州に比べまだ若い

個人主義と自由主義が徹底している欧州ではなかなか政府方針が浸透しにくい面があります。さらに世界金融危機と欧州債務危機で各国とも国民1人当たりの医療費は大幅に削減されました。

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日本を巡っては十分なPCR検査を実施しないため、感染の広がりが正確に把握されていないだけという指摘があります。しかし高齢化が進んだ自由民主主義国家としてここまで新型コロナウイルスの制御に成功しているのは特筆に値するのではないでしょうか。

(おわり)