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武漢では重篤患者の致死率60%超 新型肺炎、2週目に呼吸不全から多臓器不全に

木村正人在英国際ジャーナリスト
安倍首相は新型コロナウイルスの感染拡大を抑えられるか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「水際作戦」から「深層防御」にシフト

[ロンドン発]新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため安倍政権は25日、基本方針を決定しました。感染経路を追える疫学的リンクが途切れたため、ウイルスの国内侵入をシャットアウトする「水際作戦」から感染拡大を遅らせて時間を稼ぐ「深層防御」にシフトしています。

24日の専門家会議は「1人1人の感染を完全に防止するのは不可能だが、感染拡大のスピードを抑制するのは可能。これから1~2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際。目標は可能な限り重症者の発生と死亡数を減らすこと」と強調しました。

この日発表された基本方針では「瀬戸際」という専門家会議の指摘は「まさに今が、今後の国内での健康被害を最小限に抑える上で極めて重要な時期」と薄められていました。日本は海外から見ると韓国と同じ「感染国」の一つです。

基本方針のポイントは「重症度としては致死率が極めて高い感染症ほどではないものの、季節性インフルエンザと比べて高いリスクがある。特に高齢者・基礎疾患を有する者では重症化するリスクが高い」ため、早期発見と重症化を防ぐ集中治療に尽きると思います。

新型コロナウイルスの致死率が高いお年寄りや持病のある人以外の健康な人は十分な睡眠や栄養、適度な運動で抵抗力を高め、感染しても自分の免疫力で自然治癒させるしかありません。患者1人から感染する人の数を1人未満に抑えないと感染は終息には向かいません。

パンデミックの山をできるだけ先延ばしする

ワクチンや治療法が見つかるまで咳エチケット・手洗いのほか検疫・隔離・学校閉鎖・集会自粛・テレワークなど公衆衛生的介入で感染を減らして時間を稼ぐ必要があります。風邪を引いたと思ったら病院や診療所には行かずに自宅で療養してしばらく様子を観察することが原則です。

高齢者が多い介護施設などは新型コロナウイルスに対して脆弱なため、さらに徹底した対策が求められます。基本方針に加えて自宅療養する場合、家族に対してどんな配慮が必要かさらに詳しいアドバイスを求める声も上がっています。

人口約840万人の米ニューヨーク市がインフルエンザウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)に襲われた場合の緩和策の効用を分かりやすく説明したのが下のグラフです。

米ニューヨーク市の危機管理のHPより
米ニューヨーク市の危機管理のHPより

介入を行わなかった場合のパンデミックの山が紫色(横軸は第1例が発見されてからの日数。縦軸が1日当たりに発症する患者数)。ピークが非常に高くなり、患者が殺到した病院や診療所がパンクするのは避けられません。

効果的な介入を実施すれば山のピークを先延ばしして低く抑え、医療システムの機能停止を回避できます。軽挙妄動は禁物です。厚労省のホームページをしっかり読んで国民1人ひとりが落ち着いて行動する必要があります。

「疫学的大災害」と非難されたクルーズ船の検疫

横浜港で検疫した英国船籍のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(乗員乗客3711人)で691人が集団感染(うち4人死亡)し、厚生労働省職員や検疫官ら7人も感染。厚労省は発熱などの症状がある下船者28人をフォローしているそうです。

各国の報道によると下船した乗客のうち感染が確認されたのはアメリカ36人、オーストラリア6人、香港5人、イギリス4人、イスラエル2人。検疫は問題なく行われたとする安倍政権に対し、底なし沼のように広がった集団感染は海外から「疫学的大災害」と批判されています。

心配なのは医療従事者への感染です。中国ではエピセンター(発生源)の湖北省武漢市を中心に医療関係者3000人以上が感染しました。「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染を見ると、日本が武漢市と同じ轍を踏まないという保証は何一つありません。

医学雑誌ランセットには、武漢市金銀潭医院に入院していた重度の肺炎患者52人のうち32人(61.5%)が死亡したという論文が発表されています。SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)の重症患者の死亡率よりも高くなっていたそうです。

発症の初期段階では多くの場合、発熱や衰弱などの軽度の症状しかありませんが、2週目までに患者の約15〜20%が呼吸不全などを発症し、急速に重症化していきます。

その中で35人の患者(67%)が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を起こし、急性腎障害15例(29%)、心不全12例(23%)、肝機能不全15例(29%)など多臓器不全と呼ばれる状態に陥っていました。重症化する前に発見して治療することが最大のカギであることが分かります。

アメリカの医師会が発行する米医学雑誌ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(JAMA)には、中国疾病管理予防センター(CDC)が感染者4万4672人を分析した論文が掲載されました。

それによると軽症81%、重症14%、重篤5%。致死率は全体では2.3%でしたが、年齢別の致死率は下の通りです。

80歳以上、14.8%

70~79歳、8%

重篤患者の致死率、49%

お年寄りや基礎疾患を持っている人は要注意です。こうした人たちが重症化する前に見つけ出し、医療従事者への感染を予防できる指定病院で、優先して治療を受けられる態勢を構築することが急務です。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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