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金は最高値 新型肺炎「疾病Xを初適用か」専門家 それでもWHO事務局長はパンデミック宣言見送り

木村正人在英国際ジャーナリスト
WHOのテドロス事務局長(写真:ロイター/アフロ)

WHO「今はパンデミックの可能性に備える時」

[ロンドン発]中国から広がった新型コロナウイルス肺炎の流行について世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は24日「パンデミック(世界的大流行)を引き起こす恐れがあるのは間違いないが、まだそこには至っていない」とパンデミック宣言を改めて見送りました。

テドロス事務局長は「今、パンデミックという言葉を使うのは事実に即していない」と述べ、WHOのマイケル・ライアン緊急事態担当部長も「今はパンデミックの可能性に備える時だ。パンデミックを宣言するのは時期尚早だ」と強調しました。

米ジョンズ・ホプキンス大学(24日)によると感染者は韓国833人(死者8人)、横浜港で検疫されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」691人(同3人)、イタリア230人(同6人)、日本159人(同1人)、シンガポール89人、香港79人(同2人)、イラン61人(同12人)。

イタリアは感染拡大を防止するため世界的に有名なヴェネツィア・カーニバルを中止したほかミラノやヴェネツィアのあるロンバルディア州やヴェネト州の町を封鎖。イランでは50人死亡説がまことしやかに流れています。新型コロナウイルス肺炎の脅威は確実に世界中に広がっています。

中国では感染はピークアウトか、金は過去最高値

中国疾病予防管理センター(CDC)によると、2月23日に中国国内で新たに確認された感染者は416人にとどまり、カウントする基準を広げた2月12日の1万5153人を最高にピークアウトした格好です。しかし1日当たりの死者数は増え続けています。

中国CDCのHPより抜粋
中国CDCのHPより抜粋

中国の習近平国家主席は人口の半分以上に相当する7億6000万人を対象に外出禁止や建物の入口でのスクリーニングを実施する一方で、感染地域の病院に医療従事者や医療資源を大量投入する人海戦術で新型コロナウイルス肺炎の流行をねじ伏せた格好です。

しかしWHOが「緊急事態宣言」を1月30日ではなく初の緊急委員会を開いた1月22日に前倒しして出していれば「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染は防げていた可能性は十分にあります。

金市場は中国経済だけでなく世界経済への影響を懸念して英通貨ポンドでは1キログラム当たり4万1550ポンド(約594万円)と世界金融危機や欧州債務危機時の価格を上回り、過去最高値を更新しました。

金の価格は恐怖指数と言っても良いでしょう。

「疾病Xカテゴリーが初適用されるパンデミックに」

英エクセター大学医学部のバーラット・パンカニア上級講師(臨床)は英紙ガーディアンに「私たちは今、これを実質的にパンデミックと考えている。WHOがパンデミックという用語を使用し始めるのは時間の問題」と指摘しています。

ロッテルダムのエラスムス大学医療センターのウイルス科学部長、マリオン・クープマンズ教授は米学術雑誌セルでこう指摘しています。

「新型コロナウイルス肺炎の流行が封じ込められるか否かにかかわらず、この流行は“疾病X”のカテゴリーが初適用される本当の意味でのパンデミックと闘う試練になりつつある」

WHOは2018年、グローバル化された社会の中でわれわれが備えなければならない、ワクチンも治療法もない「疾病X」というカテゴリーを設けて、未知の国際的な流行に備えていることを明らかにしました。

SARS流行の2003年から空の旅は10倍以上に

クープマンズ教授は続けます。「起源、疾患、感染力の点でSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行との最初の類似点は明らか。しかし2003年以降、世界の空の旅は10倍以上に増加しており、流行を封じ込めようとする努力は困難を伴う」

「2003年以降、WHOと資金提供者の協調的な取り組みは優先的な脅威に焦点を合わせて大きな発展を遂げてきた」

「しかし残念なことに、過去の流行のように重要な知識のギャップと医学的対策を急いで評価する必要があり、科学者と公衆衛生の専門家は同様に助成金申請書を書くことに貴重な時間を浪費している」

「流行への対策は世界の一部地域では近代的な洪水防御壁を築き、他の地域では土嚢に頼っている。最も弱いリンクが存在する。 中国当局、国際的な公衆衛生・研究コミュニティーの統合された努力が成功するかどうかは、時が経てば分かる」

今回の新型コロナウイルスに限らず、中国の協力なくして世界は「疾病X」と闘うことができない時代が到来したのかもしれません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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