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新型ウイルス肺炎で中国株が大暴落 日本へのインバウンド観光や東京五輪にも大打撃 一衣帯水のアジア

木村正人在英国際ジャーナリスト
新型肺炎が世界に拡大 感染が深刻な中国(上海の金融街)(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]新型コロナウイルスによる肺炎が世界中に拡大している問題で、IHSマークイットのアジア太平洋首席エコノミスト、ラジーブ・ビズワズ氏が3日、その経済的影響を事前に予想できず起きた時の衝撃が大きい「ブラック・スワン」になぞらえました。

中国とアジア太平洋の経済はもはや切っても切れないことが浮き彫りになりました。ビズワズ氏の分析は次の通りです。

深セン総合指数は8.4%暴落

・中国の株式市場が旧正月の休日の終わりに再開した後、アジアの株式市場は真っ赤に染まった。上海総合指数は2月3日午前中までに8.2%下落。深セン総合指数は8.4%の下落。

・中国の国家衛生健康委員会によると、中国本土での新型コロナウイルスの感染者数は2日に1万7205人に急増。中国株式市場の不振は、新型コロナウイルスが中国の経済成長にもたらす影響に対する金融市場の懸念の高まりを反映している。

・中国人民元も米ドルに対して下落。新型コロナウイルスの大流行による中国の短期経済見通しの悪化で「7.0の壁(1ドル=7人民元)」を破り、1ドル=7.02人民元まで人民元安が進んだ。

・経済的ショックを緩和するため、中国人民銀行(PBOC)は3日に公開市場操作(オペ)により1兆2000億人民元(約18兆7000億円)を金融市場に供給。

アップルが中国の全店閉鎖

・中国のほとんどの省は当初1月30日に再開する予定だった工場と事務所の再開を2月10日まで延期。今年第1四半期の中国の鉱工業生産に重大な悪影響を及ぼす。

・2月に中国の半製品と原材料の新規受注が落ち込むため、アジアの製造業のサプライチェーンに大きなマイナスのショックが生じる。

・特に新型コロナウイルスの大流行の影響を受けている湖北省で工場の生産が大幅に混乱、多くの小売店が閉店したため、中国企業への悪影響は拡大している。

・中国本土での事業の一時的な閉鎖を発表する国際企業が増加。アップルは少なくとも9日まで中国本土の全ての小売店を閉じた。スターバックスは中国本土の約2000の小売店を一時的に閉鎖。スウェーデンの家具量販店IKEA(イケア)も全小売店を一時閉鎖した。

アジア太平洋の観光業も大打撃

・過去数日間の中国からの訪問者に対して多くのアジア太平洋諸国は入国制限をエスカレート。多くの国際航空会社による中国便のキャンセルが相次いでいる。

・新型コロナウイルスの大流行が制御されない場合、中国からのアウトバウンド観光は完全に崩壊、アジア太平洋の観光産業は大打撃を受ける。

・中国の家計収入の急速な増加は、海外への中国人観光客のブームに火を付けた。2003年の2000万人から2018年には1億5000万人に増加。

・中国人観光客の激減に対する多くのアジア太平洋諸国経済の脆弱性は過去20年間で大幅に増加。タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、香港、日本、韓国、カンボジアは中国観光業の崩壊による負の経済的ショックに対して脆弱だ。

・中国の観光業は日本の観光産業にとってますます重要になっている。日本への中国人観光客は2019年960万人に達し、外国人観光客の30%を占める。

・日本にとって重要な懸念は2020年初夏までに新型コロナウイルスが封じ込められなかった場合、東京五輪・パラリンピックに関連する観光客への潜在的なリスクとなる。

・中国人観光客はベトナムの観光産業にとっても重要だ。2018年には中国からの観光客が500万人に達し、外国人観光客の3分の1を占める。

・タイは中国の観光ブームで最も恩恵を受けた国の一つ。タイへの中国人観光客は2012年の270万人から2019年の1100万人に増加。

・タイで中国人観光客は180億ドルも支出、全体の25%を占める。観光支出はタイのGDP(国内総生産)の推定12%を占めるだけに中国人観光客の影響は大きい。

・シンガポールでは2018年の中国本土からの観光客は340万人で全体の約18%を占める。観光セクターはシンガポール経済の重要な部分であり、シンガポールのGDPの推定4%を占める。

・すでに山火事の危機で動揺しているオーストラリアの観光産業はオーストラリア政府による中国本土からの訪問者に対する入国禁止で深刻な打撃を受ける。

・オーストラリアへの観光客で最も多いのは中国人で年間140万人、全体の約15%を占める。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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