小泉環境相「イクボス宣言」の波紋 滝川クリステルさんはメーガン妃の二の舞を避けられるか

「変わり羽子板」になった小泉進次郎環境相と滝川クリステルさん(写真:つのだよしお/アフロ)

年間出生数が90万人を下回る

[ロンドン発]武田良太行政改革相は21日の記者会見で、約2週間の“育休”を取る考えを表明した小泉進次郎環境相に対し、期間を1カ月間に延ばすよう求めたそうです。閣僚が“育休”を取るのは初めてで大きな話題を呼んでいるだけに、ここは思い切って1カ月取得してほしいところです。

安倍政権は、男性の国家公務員に1カ月以上の育児休業・休暇を取るよう呼びかけています。日経新聞の大林尚編集委員の解説では小泉氏の“育休”は正確には雇用保険から育児休業給付金が支給される「育児休業」ではなく、任意に取る「育児休暇」だそうです。

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厚生労働省の人口動態統計の年間推計で出生数は86万4000人と、1899年の統計開始以来初めて90万人を下回りました。2008年以降、死亡数は出生数を上回り続けており、人口の「自然減」も51万2000人と初めて50万人を突破しました。

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「夫に休んでほしくても休めばその分、お給料も減る」

日本の人口減少は後戻りできないほど深刻な状況になっているのに、女性セブン2月6日号は「小泉純一郎氏『進次郎は育休をとって何するのか?』と激怒」と報じています。

「夫に休んでほしくても休めばその分、お給料も減るし到底無理」(赤ちゃんを出産したばかりの34歳女性)

「セレブ生活を送っている滝川(クリステル)さんにどこまで夫の手助けがいるのか」(3才と1才の息子を抱える41歳女性)

「“進次郎は休んで何をするのか?”と純一郎さんは本当に怒っています」(小泉家の関係者)という怒りの声を伝えています。

小泉氏が3カ月で2週間分、職員の勤務に換算すると約110時間の“育休”を取ることがそんなにいけないことなのでしょうか。

合理性を棚上げし、「竹槍でも米爆撃機B29を突き落とせる」と言わんばかりの精神論が戦中も戦後も幅を利かしてしまうのが日本最大の欠点でしょう。

金融バブルの崩壊、非正規雇用の増加、中国や韓国の台頭で日本の貿易赤字は1兆6438億円となりました。日本の失業率は2.2%と低くなっているのは賃金が低いことの裏返しで、国民の生活や中小零細企業の経営は決して楽ではありません。

結婚どころか恋人も作れない、子供なんて夢のまた夢という「失われた世代」や低所得の若者にとって、小泉氏と妻のフリーアナウンサー、クリステルさんの結婚と出産はまばゆいばかりのスーパーエリートとセレブの超サクセスストーリーです。

メーガン妃の二の舞は避けた方が賢明

イギリスでは王位継承順位6位のヘンリー王子とメーガン妃が同7位のアーチーちゃんを連れて英王室を離脱し、カナダに逃れましたが、英メディアのバッシングは止まりません。2人が庶民感覚からかけ離れた超セレブ感を撒き散らしたのが原因と筆者は見ています。

アメリカやイギリス、日本のような貿易赤字国では国内の製造業が廃れ、工場労働者が仕事を失い、失業や賃金カットの不満が充満している恐れがあります。

政治家は人気商売です。超セレブ感は極力抑えて、親しみやすい庶民感覚を出していった方が無難だと思います。

また“育休”はセレブでも庶民でも関係なく取れる万人の権利であることを積極的に啓蒙・普及させていくのも良いかもしれません。

小泉氏とクリステルさんの第1子は17日に誕生しました。小泉氏は出産立ち会いのため時間短縮勤務の“育休”を取得し、「立ち会えてよかった。母子ともに元気です」と報告しました。

小泉氏は15日のブログで「『公務に支障をきたさないこと』『危機管理を万全にすること』を条件に、“育休”を取ることを決めました」と2週間分取得を宣言しました。メールでの資料確認やテレビ会議、時短勤務、テレワークを活用するそうです。

【小泉氏のブログのポイント】

・妊娠、出産によってホルモンバランスが崩れ、産後の孤独な育児によって「産後うつ」になる方が約10%もいる。妻の様子を隣で見ていて、率直に“育休”を取りたいと思うようになった。

・新入社員男性の約8割が「育休を取得したい」と希望しながらも、現在の男性育休取得率は6.16%にとどまっている。「育休を取りたくても取りにくい思いを抱えながら働いてるんだな」と痛感。

・男性公務員の育休を「原則1カ月以上」とする目標の実現に向かい、政府方針も決定。空気も変えていかなければ育休取得は広がっていかない。

・想像以上に多くの方々から「育休を取れない社会の空気を変えてほしい。小泉大臣に“育休”を取ってほしい」との声。環境省内からも「職員が育休を取りやすいように、イクボス宣言してほしい」。

・育休先進国ノルウェーの研究によると、同僚の取得によって職場の取得率は11~15%上がり、上司が取った場合は2.5倍も効果がある。男性の育児休業が取れる社会にすることは日本の少子化解決に重要。

経済構造は変わっても文化は変わらない

1990年代の金融バブル崩壊で 企業は終身雇用と年功序列を維持できなくなり、非正規雇用が増えました。女性の就業率(25~44歳)も1980年代後半の57.1%から76.5%に急上昇しています。しかし「男は仕事、女は家庭」という文化はなかなか変わりません。

筆者作成
筆者作成

日本の経済構造はすでに大きく変わりましたが、文化が変わらないから「常在戦場が当たり前の政治家が“育休”なんてもってのほか」という政治風土も変わりません。そのしわ寄せをくうのは女性という悪循環が続いています。

小泉氏の“イクボス宣言”は政治的には大きな意味はありませんが、旧態依然とした日本の文化を変えていくきっかけとして期待したいです。

ヘンリー王子は“育休”なし。ウィリアム王子は

王室離脱で世界中を驚かせたメーガン妃とヘンリー王子。ヘンリー王子は長男アーチーちゃんの誕生から3日後には負傷兵や退役軍人のスポーツ大会インヴィクタス・ゲームのためオランダに公務に出掛けました。

ヘンリー王子との対立が浮き彫りになった兄のウィリアム王子は長男ジョージ王子、長女シャーロット王女の誕生時には2~6週間の”育休”を取りましたが、次男ルイ王子の時は2日後には公務をこなしました。

2000年には労働党のトニー・ブレア首相(当時)も4子誕生の際に公務を減らし、”育休”を取りました。社会の旧習を打ち破るためには、世間の注目を集める人や社会的地位の高い人が率先して制度を利用する必要があります。

北欧ではパパ・クォーター制

北欧のノルウェーでは1970年代から父親も育児休業を取得できるようになりましたが、実際に取る人は皆無に近い状態でした。

そこで1993年に、父親への割当分である4週間の育児休業を取らないと権利が消滅してしまう「パパ・クォーター制」を導入したところ、取得率が急上昇しました。

北欧諸国も一昔前までは日本と同じように「育児休業を取るのは男らしくない」という風潮があったそうです。それでは出生率が下がって自分たちの社会を持続できないことに気づいて、制度を改めたのです。

スウェーデンでも1995年に30日間の「パパ・クォーター制」が導入され、2002年に60日間となり、今年1月から90日間に延長されました。今では育児休業を取得している父親が交流するフェイスブックのアカウントもあるそうです。

法制度としては先進国3位の日本

日本はどうでしょう。国際連合児童基金(ユニセフ)の調査では育児休業を巡る法制度では日本は母親(36週)と父親(30週)合わせて66週と先進国の中で3位と決して遅れているわけではありません。

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日本では育児休業を開始した日から半年までは賃金の67%、7カ月目から職場復帰までは賃金の50%が雇用保険から支給されます。社会保険料や税金の負担も軽減されます。

しかし妻と、主要な稼ぎ手の夫の賃金格差が大き過ぎるため、夫が育児休業を取得するのは妻の82.2%に比べて6.16%と極めて低いレベルにとどまっています。

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下のグラフは男女格差の解消に取り組むブラジルの国際NGOプロムンドの報告書「世界の父親の状況」から引用した無給の家事・育児・介護・奉仕活動の男女格差を示したグラフです。日本の女性は男性の4.76倍も長く無給の家事・育児・介護・奉仕活動に従事しています。

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無給の家事・育児・介護・奉仕活動について男性が女性から1日50分肩代わりすれば、男女公平になるそうです。

総務省の社会生活基本調査では家事、介護、育児、買い物といった家事関連に充てる時間は男性が0.44時間、女性が3.28時間です(2016年)。日本男性の場合は毎日1時間半弱、女性の家事関連の仕事を肩代わりする必要があるようです。

日本は「男は仕事、女は家庭」という旧態依然とした文化を政治のトップダウンで変えていくことが急務です。小泉氏がクリステルさんの協力を得て、どんな形でメッセージを発信していくか注目したいです。

(おわり)