組織的モラハラを認定 グローバル企業の「恐怖経営」 リストラで35人自殺の仏電話最大手の大罪

「組織的モラハラ」が認定された仏電話大手の旧フランス・テレコム(現オランジュ)(写真:ロイター/アフロ)

同僚の目の前で窓から飛び降りた女性従業員も

[ロンドン発]仏最大手の電気通信会社、旧フランス・テレコム(現オランジュ)で2008~11年、従業員の自殺が相次ぎました。独誌シュピーゲルは当時、焼身自殺を含め、その数は60人を超えたと報じました。同僚の目の前で窓から飛び降りた女性従業員もいるそうです。

うち自殺19件、自殺未遂12件、うつ病や病気休職の8件を調べたパリの刑事裁判所は20日、当時の最高経営責任者(CEO)ディディエ・ロンバール被告ら幹部3人に禁錮1年(執行猶予8カ月)と罰金1万5000ユーロ(約182万円)を言い渡しました。

オランジュにも罰金7万5000ユーロ(約910万円)の支払いが命じられました。他に幹部4人も共犯として執行猶予4カ月と罰金5000ユーロ(約60万円)が言い渡されました。フランスの裁判所が「組織的なモラルハラスメント(言葉や態度による嫌がらせ。精神的虐待)」を認めたのは初めてです。ロンバール被告は上訴する方針です。

国営の独占企業だったフランス・テレコムは2004年民営化され、熾烈な国際競争にのみ込まれました。従業員の約5分の1に当たる2万2000人の解雇と1万人超の再訓練を強行。ロンバール被告は2007年「窓からでもドアからでも彼らを追い出す」と上級管理職に命じたそうです。

裁判所で認定された自殺者は35人でした。仏在住ジャーナリストで日仏プレス協会副会長、西川彩奈さんの協力で、この問題に詳しい仏ビジネススクールESCPヨーロッパのジャン=ミシェル・ソスワ名誉教授に尋ねてみました。

ジャン=ミシェル・ソスワ名誉教授(本人提供)
ジャン=ミシェル・ソスワ名誉教授(本人提供)

――フランス・テレコムが抱えていたマネジメント上の問題は何ですか

「この会社は国営の独占企業から民営化されたため、ビジネスに移行する必要がありました。当時、短期間に新しい技術に投資しなければならず、積極的な新規参入組との競争に直面しましたが、対応が後手に回りました」

「時代遅れになった分野を改革するため、数千人の従業員が新しいビジネスに適応しなければならなくなったのです。強制的な配置転換が行われ、2万2000人を解雇することが、中間管理職の目標になりました」

――フランス・テレコムの企業文化はどのようなものだったのでしょう

「採算を度外視して公共サービスを提供しているという独占体質と古い価値観とパフォーマンス重視の新しい価値観のハイブリッドです。この二つの価値観の協働であり、緊張も生み出しました」

――CEOや企業が「組織的なハラスメント」で犯罪に問われるのは初めてのケースですか

「判決で興味深いのは“組織的なハラスメント”の判断の定義です。意図された戦略の結果として認定されたことです。新しい仕事のやり方についていけなかった従業員を解雇するために作り出した不安の空気が問題になったのです」

「上訴されているので裁判はこれで終わりではありません。しかし、CAC40(ユーロネクスト・パリにおける株価指数)に名を連ねる企業が組織的な、システム化されたハラスメントで犯罪に問われたのはフランスでは初めてです」

――こうした企業の「組織的なハラスメント」を解決する効果的な方法はありますか

「最善の答えは、数学的に考え、会社のトップを輩出するエンジニア学校で人間的教育をすることです。目標を設定するだけでは十分ではなく、それを従業員にきっちり説明し、理解させ、協力させなければならないことをマネージャーに気づかせることが大切です」

希望退職を募るため従業員を不安定化させる

中立系夕刊紙ルモンドは「全員が死んだわけではないが、全員が影響を受けた」という見出しで事件を報じました。裁判官は「ハラスメントは会社組織とマネジメントの形態に深く根ざしていた」と指弾しました。

希望退職者の目標を達成するため「従業員を不安定化させ、労働条件を悪化させる目的と効果を持った不安の空気」を作り出した成果が「組織的なハラスメント」につながったと判断しました。

大量リストラを達成するため、従業員は意に沿わぬ配置転換、遠距離勤務、屈辱的な仕事を組織的に強いられました。

ルモンド紙によると、ロンバール被告が2万2000人の解雇が目標だと発言したことに対し、裁判官は、日本でも『私は証言する―ナチ時代の日記(1933~1945年)』で知られる言語学者ヴィクトール・クレンペラーの言葉を引用しました。

「言葉はごく少量のヒ素のようにもなり得る。注意せず飲むと、一見影響がないように見えて、時が経つと毒が回ってくる」

求められる新しい社会秩序

経済紙レゼコーは前日「フランス・テレコム裁判は新しい社会秩序が求められていることの象徴だ。法律家、労働組合、裁判官は労働法を超えて議論する」と報じていました。

レゼコー紙の記事によると、検察官はこの日の判決に先立ち、「この裁判は被告人を裁くというより、会社の方針や働かせ方が管理されたハラスメントとして心理的なハラスメントという犯罪を構成するということを示すことに意味がある」と指摘しました。

また、労使双方の弁護士は「今日、われわれは矛盾に直面している。かつてはこんなに多く労使間の合意は結ばれなかった。にもかかわらず労使紛争はかつてないほど過激化している」と言います。「労働法はもはや社会的な紛争を解決する唯一の手段ではなくなった。新しい規制の手段が必要だ」と指摘しています。

フランスのように従業員が終身雇用を期待し、民間・公的部門の両方の従業員が強力な労働法の保護を享受している国では、グローバル化に対応しないといけない経営者は従業員に達成不可能な業績目標を与え、退職や不本意な異動に追い込む巧みな抜け道を見つけようとします。

2015年に公開されたフランスの調査では、心理社会的な障害を受けた従業員数は48万人と推定されていますが、健康保険で補償されたのはわずか1万人だったそうです。

オランジュはその後、人事課に「職場における健康・安全・クオリティライフ」部門を設置するなど社内改革に取り組み、労働環境改善のため「週2回は出社する」というルールに基づきテレワークを推進しています。

テレワークとは情報通信技術(ICT)を活用して時間や場所に縛られずに柔軟に働くことを言います。

日本での早期退職、2014年以降で最高に

東京商工リサーチによると、今年1~11月に早期・希望退職者を募集した上場企業は延べ36社、対象人数は1万1351人に達したそうです。11月までですでに2014年以降の年間実績を上回り、最多を更新。

業種別では業績不振が目立つ電気機器が12社でトップ。早期希望退職者の募集人数のトップは富士通2850人。次いでルネサスエレクトロニクスの約1500人、東芝が1410人。薬価改定や国外メーカーのライセンス販売終了を控える製薬も4社ありました。

日本企業も、早期・希望退職を募るための「恐怖」経営が組織的な犯罪であると認定したフランス・テレコム裁判の判決を他山の石として胸に刻むべきでしょう。

日本でも2014年過労死防止法が施行され、労働基準監督署はブルーカラーからホワイトカラーに焦点を移しました。2015年に過重労働撲滅特別対策班(かとく)を新設。

新入社員の高橋まつりさんを違法残業で自殺に追い込んだ電通過労自殺事件、月100時間超の残業で男性社員が精神障害を発症した三菱電機事件など悪質事例は刑事責任を追及するため書類送検しています。

(おわり)

取材協力:西川彩奈(にしかわ・あやな)

仏在住ジャーナリストで日仏プレス協会副会長。1988年、大阪生まれ。2014年よりパリを拠点に、欧州社会やインタビュー記事の執筆活動に携わる。ドバイ、ローマに在住したことがあり、中東、欧州の各都市を旅して現地社会への知見を深めている。現在は、パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、欧州の難民問題に関する取材プロジェクトも行っている。