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豪雨に猛暑、台風で日本の死者1282人 ”セクシー”小泉環境相は「石炭火力発電」を止められるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
温暖化対策にセクシーさを求める小泉進次郎環境相だが、現実は厳しい(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

集中豪雨、猛暑、台風による日本の死者1282人

[マドリード発]スペイン・マドリードで開かれている国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)。ドイツの有力 NGO ジャーマン・ウォッチが発表した「世界気候リスクインデックス2020」で、昨年最も気候変動の影響を受けた国は日本だったことが分かりました。

2018年、西日本豪雨や摂氏41.1度を記録した猛暑、台風など気候関連災害による日本の死者は 1282 人。人口10 万人当たりの死者は 1.01 人。購買力で見た経済的な損失は358億3934万ドル(約3兆8900億円)で国内総生産(GDP) の0.64%に相当するそうです。

2位のフィリピンは台風被害などの死者455人。人口10 万人当たりの死者0.43人。経済的損失は45億4727万ドル(約4900億円)でGDP比0.48%。3位のドイツは熱波や干ばつなどによる死者1246人。人口10 万人当たりの死者1.5人。経済的損失は50億3862万ドル(約5500億円)でGDP比0.12%でした。

5位のインドは死者2081人。人口10 万人当たりの死者0.16人。経済的損失は378億782万ドル(約4兆1100億円)でGDP比0.36%。

そんな中、日本政府代表として11日、COP25で演説する小泉進次郎環境相が石炭火力発電事業の輸出制限を表明しない方針だと毎日新聞が報じています。安倍政権は石炭火力発電を利用し続けているばかりか、アジア諸国にインフラとして輸出しているため国際的な批判が高まっています

日本は2030年の温室効果ガス削減目標も据え置く方向で検討しているそうです。昨年7月に閣議決定した第5次エネルギー基本計画を閣議決定の中で30年に温室効果ガス26%削減、50年に向け80%削減を目指すと明記したばかり。30年の電源構成比率は次の通りです。

【2030年の電源構成比率】

再生可能エネルギー 22~24%

原子力発電 20~22%

石油・石炭・天然ガスなど化石燃料 56%

(注)エネルギー自給率を24%に引き上げる。

温室効果ガスの排出量が大きい石炭について計画は「活用していくエネルギー源」と位置付けています。その理由は「地政学的リスクが化石燃料の中で最も低く、熱量当たりの単価も化石燃料の中で最も安い。安定供給性や経済性に優れた重要な燃料として評価されている」からだそうです。

温暖化対策として今後、石炭の高効率化・次世代化を推進するとともに、よりクリーンなガス利用へのシフトと非効率石炭のフェードアウトに取り組むとうたっています。

国際的な批判について、小泉環境相はこう話していました。

「説明を避けて通れないのが石炭の部分であり、目標の引き上げについても向き合わなければいけないと思っている。何とかして一歩でも前向きな発信ができないものか、最終調整を行っているが、難しい状況もやはりある」

安倍政権の主導権は経済産業省がしっかり握っており、小泉環境相は政権批判をかわす盾として使われているに過ぎません。福島原発事故で原発に頼れなくなった日本のエネルギー自給率は8%まで下がり、石炭は頼みの綱。経産省にとってエネルギー基本計画は金科玉条です。

経産省の資料では17年時点で日本の発電電力量における石炭依存度は32.7%。ちなみに中国は68.6%、ドイツは38.9%、米国も31.1%。しかし英国の7%、原発立国フランスの2.5%に比べるとずいぶん高くなっています。

経産省のHPより
経産省のHPより

原発と化石燃料を除いた日本の再エネ率は16%で、原発もダメ、石炭もダメとなると非常に苦しくなってしまいます。しかし世界全体の再エネ率は26%。国際エネルギー機関 (IEA)は今後5年で再生可能エネルギーは50%拡大し、24年には30%に達すると予測しています。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、昨年、再生可能エネルギーのコストは劇的に減りました。集光型太陽光発電システム(CSP)は年26%減、バイオエネルギーは14%減、太陽光発電(PV)と陸上風力は各13%減、水力12%減、地熱と洋上風力は各1%減となっています。

IRENAのHPより
IRENAのHPより

国連環境計画(UNEP)は「排出ギャップ報告書2019年」の中で20~30年にかけ毎年、温室効果ガスを7.6%ずつ削減しなければ世界の気温上昇を産業革命以前に比べて摂氏1.5度に抑えるパリ協定の努力目標を達成できないと指摘しています。

報告書は日本の課題として、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止するとともに高効率の石炭火力発電所の建設を中止し、100%脱炭素化する電力供給を目指す戦略的なエネルギー計画を策定することを求めています。

さらにエネルギー・建設部門を優先して現行の炭素価格の水準を引き上げることや、再エネ電力による電気自動車の利用者を増やすことで化石燃料利用を段階的になくす計画の策定、ネットゼロ建築やネットゼロ住宅に向けた努力の一環としてロードマップを実行することを求めています。

ドイツの環境NGOウルゲワルドとオランダの環境NGOバンクトラックの最新調査によると、2017年以降、世界の307の商業銀行が石炭火力発電に1590億ドル(約17兆2700億円)もの直接融資を行っていました。

トップ3は日本のみずほフィナンシャルグループの168億ドル(約1兆8200億円)、三菱UFJフィナンシャル・グループの146億ドル(約1兆5900億円)、三井住友フィナンシャルグループの79億ドル(約8600億円)です。邦銀による石炭火力発電への直接融資は全体の32%を占めるそうです。

日本は気候変動の「加害国」でもあり「被害国」でもあるのです。それでも小泉環境相はCOP25で石炭火力発電輸出に関して物申さないのでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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