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【ラグビーW杯】「日本で奇跡が起きた」開幕2連勝したイングランドのサポーターが感激したワケとは

木村正人在英国際ジャーナリスト
米国を圧倒したイングランド(赤のジャージ、筆者撮影)

[神戸発]ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会は26日、大会7日目を迎え、前日本代表ヘッドコーチ(HC)のエディー・ジョーンズHCが率いるイングランドが7トライを挙げて45-7で米国に快勝し、開幕2連勝を飾りました。

押して良し、蹴って良し、回して良しの圧倒的な強さを見せたイングランド。これに対して米国は残り10分となったところで、FL(フランカー)ジョン・クイル選手が危険なタックルで今大会レッドカード第1号となり、一時もみ合いになりました。

米国の危険なタックルで一時もみ合いに(筆者撮影)
米国の危険なタックルで一時もみ合いに(筆者撮影)

日本戦は全く手に入らなかったので、筆者にとって第二の故郷である英国勢のチケットを購入して観戦。サッカーW杯のイングランド戦に比べてサポーターが大声で英連邦の賛歌(アンセム)「女王陛下万歳」を斉唱するので驚きました。

W杯やフランス大統領選を取材した筆者はフランス国歌である革命歌「ラ・マルセイエーズ」が耳にこびりついて、突然「マルション、マルション(進もう、進もう)」のメロディーが頭の中を駆け巡ることがありますが、この日の「女王陛下万歳」は愛国的でした。

ラグビーの試合ではちょうど80分になるとブザーが鳴り、そのあとプレーが止まった時点で試合終了です。その時点でイングランドがボールを蹴り出していれば45-0で終わっていたはず。しかし、イングランドは試合を切らなかったため、81分、米国にトライを許してしまいました。

イングランドからだけではなく、日本やアジア、オーストラリアなどに住んでいるイングランド人サポーターが世界中から集まってきていたので、いろいろ質問してみました。

筆者の取材に応じるイングランド・サポーター(近くにいた人に撮影してもらう)
筆者の取材に応じるイングランド・サポーター(近くにいた人に撮影してもらう)

「サッカーの試合ならあの時点で大きく蹴って時間稼ぎをしたりするのに、どうしてイングランドは外にボールを蹴り出して試合を終わらせなかったの」と質問すると、イングランド人青年の1人は「最後まで正々堂々と戦う。それがラグビーだからさ」と教えてくれました。

バラの花の飾りを顔の回りにつけたこの青年に日本大会の印象を尋ねてみました。「電車の切符やビール、食べ物を買うのも全部現金だし、不便じゃない? ホテルでも困ったことはない?」と水を向けても「もう最高だよ。100点満点だ」とうっとりした表情で話してくれました。

まず、列車がプラットフォームに記された場所に停車するのにビックリしたそうです。ドイツの鉄道は日本より快適かもしれませんが、英国では列車が定時に到着することは滅多にありません。これはおそらく日本の鉄道は乗り入れが少ないからだと思います。

上下分離方式で民営化した英国の鉄道は相互乗り入れが激しく、ダイヤを優先すると事故につながるからでしょう。信じられないことに英国の電車はどこのプラットフォームに到着するのか、直前にならないと分かりません。

次に感動したのは落とした財布が戻ってきたことだそうです。

この青年は財布に1辺2~3センチメートルの発信機を入れてスマートフォンのアプリを起動すると場所が分かるようにしていました。甲子園周辺で財布を落としてしまい、途方に暮れていたところ、アプリを起動させると交番に届けられていたことが分かりました。

交番に行って受け取ると、何も盗られていなかったそうです。「いやぁ、感激しました。落とした財布が何も盗られずに戻って来るなんて、奇跡です」

衛兵の格好をしたイングランド・サポーター(近くにいた人に撮影してもらう)
衛兵の格好をしたイングランド・サポーター(近くにいた人に撮影してもらう)

英国名物、衛兵の格好をした若者は「試合中にビールを3杯。その前に缶チューハイを10杯は飲んだかな」と上機嫌でした。ジョーンズHCについて尋ねると、開口一番「彼は前大会で日本代表を率いて南アフリカに劇的な逆転勝ちを収めたからね。素晴らしいHCだよ」との返事。

地元開催となった前回イングランド大会でまさかの一次リーグ敗退を喫したイングランドはジョーンズHCを招いてチームの立て直しを図ってきました。開幕2試合を見る限り、順調に仕上がっているようです。

イングランドのエディー・ジョーンズHC(筆者撮影)
イングランドのエディー・ジョーンズHC(筆者撮影)

ジョーンズ節も絶好調です。米国戦前に「米国チームはやって来て、すべての銃をぶっ放すだろう。15人のドナルド・トランプ米大統領が試合に出てくるようなものだ。トンガがそうだったように、相手はあらゆる手段を尽くしてくる。我々も最善を尽くさねば」と発言。

米国内では人気が二分するトランプ大統領に例えられた米国HCを困惑させました。ボサボサの金髪カツラをかぶったイングランド・サポーターがいたので「ボサボサ金髪がトレードマークのボリス・ジョンソン英首相の真似」と聞いてみると「トランプ大統領だよ」と笑いました。

ボサボサの金髪カツラをかぶったイングランド・サポーター(筆者撮影)
ボサボサの金髪カツラをかぶったイングランド・サポーター(筆者撮影)

どう見てもジョンソン首相にしか見えなかったのですが。

イングランドの魂と言えば、「ブルドッグ魂」です。第二次大戦の緒戦でヒトラーのドイツ軍にコテンパンにやられながら、不屈の闘志で逆転勝ちを収めた当時のウィンストン・チャーチル英首相は顔つきも根性も「ブルドッグ魂」を体現しています。

試合後にスクラムを組んで喜ぶイングランドと米国のサポーター(筆者撮影)
試合後にスクラムを組んで喜ぶイングランドと米国のサポーター(筆者撮影)

前回大会でイングランドが振るわなかったのは、この「ブルドッグ魂」が欠けていたからです。迷走する英国の欧州連合(EU)離脱交渉をさらに混乱の淵に追いやるジョンソン首相は今や世界中の笑いものですが、イングランドはジョーンズHCの手腕で見事に復活したようです。

メリケン波止場のファンゾーンには平尾誠二さん追悼のコーナーも(筆者撮影)
メリケン波止場のファンゾーンには平尾誠二さん追悼のコーナーも(筆者撮影)

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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