日韓「歴史・経済戦争」の原因を幸福度から考察してみた

韓国で日本製品不買運動 半導体材料の輸出規制強化に反発(写真:ロイター/アフロ)

下落する日韓の幸福度

[ロンドン発]元徴用工問題を新たな火種に「歴史戦争」が「経済戦争」に拡大、国交正常化以来、最悪の状態となった日韓関係について、国連の関連団体が公表している幸せランキング「世界幸福度報告」から考えてみました。

経済的な豊かさである国内総生産(GDP)に代わる心の指標として考案された「世界幸福度報告」は2012年に始まり14年を除き毎年公表されています。7回目の今年、日本は世界156カ国・地域中で過去最低の58位。韓国は54位。13年のランキングは日本43位、韓国41位でした。

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幸福度の総合指数(16~18年)を見ても日韓両国とも随分下がっています。もとになった8項目(下)のランキングを日本と韓国、欧州の主要国であるドイツ、英国の4カ国で比べてみました。

(1)購買力で見た国民1人当たりのGDP

(2)出生時の平均余命

(3)社会的支援(困った時にあなたが必要とするか否かを問わず頼りにできる親類や友人はいるか)

(4)人生選択の自由度(あなたの人生で何をするか選ぶ自由度について満足しているか)

(5)寛大さ(過去1カ月にチャリティーに寄付したことがあるか)

(6)腐敗(政府やビジネスに腐敗が広がっているか)

(7)感情の好影響(前日に幸せや笑い、楽しさを味わったか)

(8)感情の悪影響(前日に心配や悲しみ、怒りの感情を抱いたか)

笑うことが少ない日韓

筆者作成
筆者作成

 

日本や韓国は購買力で見た国民1人当たりのGDPではドイツや英国とそれほど大きな差はありません。出生時の平均余命では日本や韓国はドイツや英国を引き離しています。

しかし日本や韓国では困った時に助けてくれる親類や友人の互助をあまり当てにできないことが分かります。幸せや笑い、楽しさが少なく、チャリティーに寄付する心の余裕がありません。

筆者は英国で暮らしていますが、日本は経済的に豊かなのに寄付文化が英国ほど根付いていないことを痛感します。

日本や韓国は公助が必要な時にセーフティーネットに期待できない「自己責任社会」「競争社会」だと筆者は感じます。

今年の「世界幸福度報告」によると、05~08年と16~18年を比べると改善度では韓国は42位(プラス0.404)。一方、日本は95位(マイナス0.215)と後退していました。

気になるのは、韓国は人生選択の自由が少ない上、政治や財界の腐敗に不満を抱いている人が多いことです。

不幸な人ほどポピュリストに投票する

こうした幸福度は有権者の投票行動に影響を与えます。パリ政治学院の経済学者ヤン・アルガン教授らは17年仏大統領選の決選投票における有権者1万7000人の投票行動を調査しました。

すべての所得階層で人生に満足を感じている有権者ほど右派ナショナリスト政党・国民連合(旧国民戦線)党首のマリーヌ・ルペン候補には投票していませんでした。全候補者の支持者を見渡した場合、ルペン氏に投票していた有権者は最も満足していませんでした。

社会的、経済的な状況より、現在置かれている主観的な幸福度の低さ、未来に対する全般的な悲観が投票行動に影響を与えたとみられるそうです。

英ウォーリック大学のエレオノーレ・アラブレイス氏らが16年の欧州連合(EU)残留・離脱の国民投票における有権者1万3000人の投票行動を調査したところ、人生の満足度が低い人ほど約2.5%多く離脱に投票していたそうです。

米ギャラップ社の調査でもドナルド・トランプ米大統領が予想外の勝利を収めた16年の米大統領選で民主党から共和党に投票行動を変えた有権者が多い地域ほど人生の満足度をほとんど感じない有権者が多かったことが分かっています。

政治は内向きになり、歴史ポピュリズムに走る

最近の日韓関係を見る時、政治的には1980年代以降の韓国の民主化と冷戦終結が、経済的には91年の日本の金融バブル崩壊と97年の韓国の国際通貨基金(IMF)危機が大きいと思います。日本は経済の優位性を失い、「失われた30年」に突入します。

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日本経済を当てにできなくなった韓国は日本以外との自由貿易協定(FTA)に舵を切り、日本依存度を大きく下げました。貿易黒字ではすでに韓国は日本を上回っています。外交では「共同宣言」は「共同声明」になり、08年の「共同プレス発表」を最後に日韓関係は冬の時代を迎え、氷河期に突入しました。

円高と韓国通貨ウォン安、韓国の低賃金、FTA戦略にやられた日本も日銀の超金融緩和策による円安とFTAで巻き返しを図ります。中国を含めた日中韓3カ国間の激しい輸出競争は日韓の国民を決して幸せにしたわけではありません。

小泉首相の靖国参拝と李明博大統領の竹島上陸を見ても明らかなように、日韓の政治は相手国や相互利益よりも国内の幸せではない有権者を意識して動くようになりました。

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日本には旧植民地の韓国に対する深層心理の見下しが、韓国にはもうすぐ追い越せる存在(国民1人当りのGDPで韓国は日本を追い越す勢いを見せる)になった日本への執念とも言える対抗意識が燃え盛っています。自由貿易を強化すればするほど、大企業や大企業に勤める正規社員は潤うのに対し、社会全体ではだんだん貧しくなる層が膨らんできます。

そして政治はますます内向きになり、歴史ポピュリズムに走るようになります。この流れを逆転させるには日韓両国が手を携えて互いに近隣窮乏策(自国経済を改善するため他国経済を悪化させるような政策)を止めてウィンウィンの関係を再構築し、それぞれが国内の格差解消に努める必要があります。

しかし今、日韓の政治にそれを期待するのは非常に難しいというのが悲しい現実でしょう。

日韓間の主な出来事

日韓間の主な出来事を見ておきましょう。

1910年、日韓併合

1945年、日本敗戦、日本の統治終了

1948年、大韓民国が成立

1950~53年、朝鮮戦争(休戦)

1951年、日本がサンフランシスコ講和条約締結。翌年、主権回復

1965年、日韓国交正常化、日韓基本条約を調印

1987年、韓国の民主化宣言

1988年、ソウル五輪

1989年、ベルリンの壁崩壊

1991年、日本の金融バブル崩壊

1993年、韓国で金泳三政権誕生。軍事クーデターを起こした朴正熙大統領以来32年に及んだ軍事政権に終止符

・従軍慰安婦問題で河野談話

・日本で細川護熙政権が誕生。38年間、1党支配を続けていた自民党が初めて野党に転落

1995年、日本の植民地支配の象徴だった旧朝鮮総督府を解体

・戦後50年談話(村山談話)

1997年、韓国で通貨危機、IMFから資金支援受ける

・韓国政治史上初の与野党政権交代

1998年、日韓共同宣言

1999年、日韓経済アジェンダ21

2001~06年、小泉純一郎首相が靖国参拝

2002年、日韓国民交流年

・サッカーの日韓ワールドカップ

2003年、日韓首脳共同声明

・韓国がFTAを主要通商政策に掲げる

2005年、日韓友情年2005

2008年、日韓共同プレス発表

2012年、韓国の李明博大統領が大統領として初めて領有権争いのある島根県・竹島(韓国名・独島)上陸を強行

2013年、安倍晋三首相が靖国参拝

2014年、安倍政権が河野談話の検証結果を公表

2015年、戦後70年談話(安倍談話)

・従軍慰安婦問題で日韓合意。「最終的かつ不可逆的な解決」を確認

2018年、元徴用工問題で韓国大法院(最高裁)が個人の請求権を認めた控訴審判決を支持

・韓国政府が日韓合意に基づく「和解・癒やし財団」を一方的に解散すると発表

2019年、日本が韓国への輸出管理を強化

(おわり)