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最新鋭ステルス機F35はホントに大丈夫? 稼働率目標は80%なのに最低4.7% 米試験飛行資料で判明

木村正人在英国際ジャーナリスト
ユーロファイターとともに展示飛行するF35(右、昨年7月に筆者撮影)

[ロンドン発]米カリフォルニア州のエドワーズ米空軍基地でテスト飛行隊の最新鋭ステルス戦闘機F35(23機)の完全稼働(FMC)率が、昨年12月から今年7月中旬にかけ平均11%にとどまっていたことが米国の独立系団体・政府監視プロジェクト(POGO)の入手した内部資料で分かりました。

F35に詳しいPOGOのダン・グレイザー氏に提供してもらいました。対空から対地、偵察まで、あらゆる作戦行動に参加できる整備状態の完全稼働(FMC)率は今年5月、最低の4.7%を記録しています。

昨年12月 11.5%(テスト飛行始まる)

今年1月 16.6%

2月   10.2%

3月   11.5%

4月   11.6%

5月   4.7%

6月   8.7%

POGOのグレイザー氏提供
POGOのグレイザー氏提供

艦載型F35Cの稼働率はほぼゼロ

テスト飛行隊には優先的に部品が供給され、整備員も多く、十二分の支援体制が整えられています。F35は統合打撃戦闘機(Joint Strike Fighter)なのでマルチミッションに対応するため、米国防総省はテスト飛行の完全稼働率目標を80%に掲げています。

グラフの上から3つが米軍のF35A (通常離着陸型)、F35B (STOVLタイプ=短距離離陸・垂直着陸型)、F35C(艦載型)で、F35Aが最も完全稼働率(緑色)が高く、F35Cはほとんどゼロであることが分かります。英国はF35B、オランダはF35Aとみられます。

すべての作戦行動はできないものの任務のうち少なくとも1つは遂行できる整備状態の部分稼働(PMC)率は黄色、非稼働(NMC)率は赤色で表されています。

グレイザー氏によると、日本の自衛隊のF35Aの稼働率に関するデータは入手しておらず、「なぜ日本がエドワーズ空軍基地でのテスト飛行のプロセスに参加していないのか分からない」そうです。

日本では4月9日、三沢基地を離陸したF35Aがレーダーから消失して墜落、その後、東方約135キロの海底から機体の一部が見つかりました。防衛省は、パイロットが平衡感覚を失う「空間識失調」に陥った可能性が高いと推定しています。

重力による意識喪失(G-LOC)やエンジン制御、操縦、電気系統といった機体の不具合の可能性は極めて低いが、完全には否定できないと結論付けました。

F35の稼働率が下がる理由は数多くある

筆者は、グレイザー氏にどうしてF35の完全稼働率がこんなに低いのか尋ねてみました。グレイザー氏いわく――。

「F35の稼働率が下がる理由は数多くあります。さまざまなソースすべてから1つのリストに集めるのに長い時間がかかります。最近ニュースになった問題の1つは、キャノピー(透明な天蓋)のステルス薄板がアクリルから剥がれる傾向があることです」

「部品の破損のような機械的な故障、またはコンピューターのクラッシュのようなシステムの故障は稼働率に影響します。 F35の問題はパーツが非常に多く、入り組んだミッションシステムが膨大なことです。このため、すべてを同時に機能させることがほとんど克服不可能な課題になっています」

機体に6基の赤外線映像センサーを備え、真下も含めてパイロットの死角をなくす「分散開口システム(Distributed Aperture System)」の部品の不具合が頻繁に起きているそうです。

グレイザー氏は日本の墜落事故について「新しい情報を持っていません」と話しました。

航空自衛隊航空幕僚監部が6月10日に発表した報道資料は「機体のエンジン制御、操縦および電気系統等の不具合については、左旋回終了後に正常な交話(「はい、ノック・イット・オフ」)が確認されていること、異常に応じた機動、交信、脱出が確認されていないことなどから、可能性は極めて低いものと推定」と記しています。

グレイザー氏の指摘と違って、墜落事故の要因があまりに簡単に記述されているので驚きます。

米政府監査院(GAO)によると、昨年5月から11月にかけ、世界中のF35の完全稼働率は27%。部分稼働率は52%でした。

米空軍タイムズによると、昨年の機種ごとの完全稼働率は次の通りです。機種が新しくなれば完全稼働率が下がる傾向が浮かび上がってきます。

近接航空支援専用機A10C 72.51%

万能機ストライクイーグルF15E 71.16%

ファイティング・ファルコン F16D 66.24%

世界最強のステルス戦闘機F22 51.74%

F35A 49.55%

米国防総省はこの10月にもF35計画をフル生産の段階に移行する準備が整っているかどうか判断する予定です。

日本の空は守れるか

2018年度、空自の緊急発進回数は999回。前年度と比べ95回増えました。1958年に対領空侵犯措置を始めてから史上2番目の多さです。緊急発進回数の対象国別の割合は中国機64%、ロシア機34%です。

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英紙インディペンデントによると、欧州にある北大西洋条約機構(NATO)の基地からロシア機に対して緊急発進した回数は2015年が410回、16年は780回でした。この数字と比べてみると、日本の空がいかに中国やロシアによって脅かされているかが分かります。

日本は昨年12月、F35の調達計画を42機から147機(F35Aが105機、F35Bが42機)に増やしました。

2019年度の概算要求では、F35Aは6機で916億円、1機で152億6000万円もします。F35は史上最も高価な戦闘機と言われています。空中戦と対地攻撃能力を備えた多用途性のF35の構造は複雑で、多くの矛盾を抱えています。このため、これまでトラブルが絶えませんでした。

米国や英国のように独立したシンクタンクが日本には少ないので外交や安全保障上の情報が不足して、F35調達の是非についてはっきりしたことが分かりません。それにしてもF35のテスト飛行隊の完全稼働率がこれだけ低いとかなり不安になってきます。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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