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安倍首相と米国防長官が会談 ホルムズ海峡の有志連合「見張り兵作戦」に首相交代の英国は参加 さて日本は

木村正人在英国際ジャーナリスト
来日したエスパー米国防長官と会談した安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

安倍首相「総合的に判断する」

[ロンドン発]安倍晋三首相は7日午前、首相官邸でマーク・エスパー米国防長官と初めて会談し、「今後、日米同盟をさらに強固にして抑止力、対処能力を強化していく」と述べました。

論点は次の4つです。

(1)原油輸送の大動脈である中東・ホルムズ海峡の安全確保のため米国が呼びかける有志連合「センチネル(見張り兵)作戦」に参加するか。イランとの関係が良好な日本は慎重

(2)この2週間で4度、短距離弾道ミサイル発射を繰り返した北朝鮮への対処。北朝鮮は「新型戦術誘導兵器」と発表。米本土への直接の脅威ではない米国と脅威が高まる日本との間に温度差

(3)軍事力を強化する中国への対応

(4)「自由で開かれたインド太平洋」の実現。双方が前向き

ホルムズ海峡での有志連合への参加について、安倍首相は6日、広島市での記者会見で慎重な考えを示しました。

「日本関係船舶の航行の安全を確保するため、どのような対応が効果的なのか。米国やイランとの関係などの諸点を踏まえ、さまざまな角度から検討を行い、総合的に判断する」「中東の緊張緩和に向けてできる限りの役割を果たす」

先月22日には自民党本部での記者会見で「米国はじめ国際社会が、対話ができる関係の重要性を認識している。ホルムズ海峡が波静かになるよう日本の役割がある。その中で努力をしていきたい」と友好なイランとの関係をテコに外交努力を優先させる考えを強調しました。

「特別な関係」の英国は参加

エスパー長官は6日、東京に向かう途上、有志連合について記者団に次のように答えています。

――英国は有志連合への参加に同意したか

エスパー長官「英国の参加が最初で歓迎する。英国は非常に能力のある同盟国でパートナー。われわれは常に特別な関係を享受してきた。数日内にさらに2~3カ国が参加する可能性がある」

「それぞれの国によって議会の承認が必要であるなど決定に至るプロセスは異なる。フロリダ州タンパでの説明会には30カ国以上が参加した。決定に時間を要する国もある」

――米国はもっと参加国が集まるよう要求を変更することはできるか

「変更は可能だ。われわれがしようとしているのは、まず海洋の監視と海峡のモニタリングを維持することだ。次に航行の自由、通商の自由の重要性に対するわれわれの立場を明確にすること」

「第3に紛争につながりかねないイランによる挑発行動の抑止。米国はイランとの紛争を望んでいない」

――日本の参加を望んでいるか。もし参加しなければ有志連合にどんな影響が出るか

「いかなる国にも航行の自由と通商の自由に関する利益があり、海峡の監視に参加することを真剣に考える必要がある。私たちがしようとしているのは航行の自由、通商の自由、主権など4つの自由を保障することだ」

「日本には熟慮する利益が存在する。この問題について日本や相手国と協議する」

――もし日本が参加しないのであれば米国とイランの間で果たせる穏当な役割はあるか

「仮定の質問には答えたくない」

EUに背を向けたジョンソン英首相

英国のテリーザ・メイ首相(当時)はドイツやフランス、欧州連合(EU)に米国主導の有志連合とは別に欧州でホルムズ海峡の安全航行を確保する枠組みを構築しようと呼びかけていました。

EU離脱交渉が袋小路に入る中、市民生活と企業活動を大混乱に陥れる「合意なき離脱」を宣言するボリス・ジョンソン新首相は5日、EUに背を向け、米国主導の有志連合に参加する方針を表明しました。

ドミニク・ラーブ英外相は「英国はイランと協議を続け、国際社会のパートナーとともに緊張緩和に努め、イラン核合意を維持する」と述べました。「合意なき離脱」後、米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶのが英国にとっては死活問題です。

これに対してドイツの国際放送ドイチェ・ヴェレは「EUはむっとさせられたが、英国の変心について罪がないわけではない」との論評を掲載しました。ドイツやEUは欧州の枠組みをつくろうとした英国の呼びかけに反応しなかったからです。

ホルムズ海峡依存度がずば抜けて高い日本と韓国

今回の緊張はドナルド・トランプ米大統領がバラク・オバマ前大統領との違いを際立たせるため、イラン核合意から一方的に離脱したのが原因です。しかしホルムズ海峡の緊張が高まって一番困るのは日本です。

世界最大のエネルギー生産国になった米国のホルムズ海峡依存度は原油・コンデンセートで輸入全体の18%、液体の石油消費量では7%まで下がっています。

米エネルギー情報局(EIA)のHPより
米エネルギー情報局(EIA)のHPより

これに対して、ホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセートの76%がアジア市場に流入したとみられています。中国、インド、日本、韓国、シンガポールが主な輸入国です。

ホルムズ海峡依存度(日量・万バレル、河野太郎外相のブログをもとに作成)
ホルムズ海峡依存度(日量・万バレル、河野太郎外相のブログをもとに作成)

上の表は河野太郎外相のブログから拾った数字です。日本と韓国のホルムズ海峡依存度が非常に高いことが分かります。米国の同盟国である日本と韓国は米国から「見張り兵作戦」への参加を強く求められるはずで、断るのは難しいでしょう。

日韓両国は、北朝鮮の核・ミサイル問題も抱えているからです。日韓は歴史問題でいつまでも喧嘩しているわけにはいきません。元徴用工問題、日本の対韓国輸出規制をきっかけに日韓間の緊張が高まっていることについて質問されたエスパー長官はこう答えています。

エスパー長官「率直に言って北朝鮮の核・ミサイル情報を日本と共有する日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を継続することを促す。それはわれわれにとって対北朝鮮の共通防衛のカギとなる。短期的には北朝鮮、長期的にはより大きな中国の脅威に対峙するため、日韓双方がこの問題を解決するよう求めたい」

米軍が主導するホルムズ海峡の有志連合への自衛隊派遣は可能なのでしょうか。現行法上の法的根拠をおさらいしておきましょう。

事態対処法に基づく集団的自衛権の行使は

事態対処法に基づく集団的自衛権の行使は、密接な関係にある他国が武力攻撃を受け「存立危機事態」になった場合、武力行使が可能になります。

【問題点】現時点では「我が国の存立が脅かされ、国民の生命・身体・幸福追求権が根底から覆される明白な危険がある」との「存立危機事態」の要件を満たさない恐れがある。

重要影響事態法に基づく後方支援活動は

重要影響事態法に基づく後方支援活動は、我が国の平和及び安全に重要な影響を与える「重要影響事態」になった場合、物品・役務の提供などの後方支援活動(自己保存型の武器使用を含む)が可能になります。

【問題点】そもそも船舶の護衛を行うことはできず、現時点では「重要影響事態」にあるとは認められない恐れがある。

国際平和支援法に基づく協力支援活動は

国際平和支援法に基づく協力支援活動は、国際社会の平和及び安全を脅かす「国際平和共同対処事態」になった場合、関連する国連決議があれば物品・役務の提供などの協力支援活動(自己保存型の武器使用を含む)が可能になります。

【問題点】そもそも船舶の護衛を行うことはできず、現時点では、関連する国連決議がない。

自衛隊法に基づく海上警備行動は

自衛隊法に基づく海上警備行動(警察権の行使)は、海上における人命・財産の保護などのため特別の必要があった場合、停船などの強制措置や防護目的などの武器使用が可能になります。

【問題点】海上警備行動の地理的範囲は領海だけでなく公海にも及ぶものの、我が国の警察権の行使である以上、日本の人命・財産と全く関係のない船舶は護衛できない恐れがある。

海賊対処法に基づく海賊対処行動は

海賊対処法に基づく海賊対処行動は、海賊行為に対処するため特別の必要があった場合、停船などの強制措置や防護目的等の武器使用が可能になります。

【問題点】国家などによる攻撃は「海賊行為」には該当せず、対応できない恐れがある。

なし崩し的に活動が拡大する恐れも

海上自衛隊の護衛艦がホルムズ海峡に派遣され、米軍主導の有志連合に参加することになった場合、自衛隊の武力の行使または武器の使用が相手方のさらなる反撃を招き、事態が悪化してしまう可能性が十分にあります。

近くを航行中の外国船舶が攻撃され、救援を要請された場合、海自の護衛艦は、日本の国内法で護衛できる船舶かどうかにかかわらず、救援を断ることは人道的、政治的に困難です。なし崩し的に法的な根拠が不明確な活動にまで拡大してしまい、紛争事態の悪化を招いてしまう恐れがあります。

そうした場合、後付けで法的根拠をこじつけて既成事実化してしまうという法治国家にふさわしくない事態に陥る危険性さえあります。

このため安倍政権は国際的な枠組みの下で公海や他国の領海で、日本と関係のない船舶でも護衛できるように新しく法整備する必要性に迫られるのは避けられそうにありません。

また戦闘(武力行使)に発展するリスクを回避するためイランやイエメン領海近くでの活動を避ける、支援活動や情報収集・警戒監視・偵察活動に徹するという選択肢もあると思います。

最近の経過

2015年7月、国連安全保障理事会常任理事国5カ国とドイツ(P5+1)、欧州連合(EU)とイランによる核開発合意。核開発活動を10~15年制限して監視下に置く代わりに欧米側は経済制裁を解除

昨年5月、トランプ大統領が核合意から離脱。新しい核合意のための12項目を要求。イランにとっては「全面降伏」と言える内容

今年5月2日、トランプ政権がイラン産原油を全面禁輸

5月12日、サウジアラビアの石油タンカー2隻を含む4隻がアラブ首長国連邦(UAE)沖で攻撃される

5月16日、サウジが、イランが石油パイプラインを攻撃したと非難

6月12、13日、安倍晋三首相が現職首相として41年ぶりにイランを訪問。イラン最高指導者アリ・ハメネイ師は原油禁輸制裁の停止を要求

6月13日、ホルムズ海峡近くで東京の海運会社「国華産業」などが運航するタンカー2隻に機雷攻撃

6月20日、イラン革命防衛隊が領空侵犯した米国の無人偵察機RQ-4グローバルホークを撃墜

6月24日、トランプ大統領がハメネイ師を含む新たな対イラン制裁を発動。報復攻撃見送る

・トランプ大統領がホルムズ海峡を運航するタンカーについて「自国で守れ」とツイート

7月1日、イランの低濃縮ウラン貯蔵量が核合意の上限を超過

7月4日、英海兵隊がイランの30万トン級石油タンカーを英領ジブラルタル沖で拿捕

7月7日、イランがウラン濃縮上限の3.67%を突破。60日ごとに核合意違反をエスカレートさせると警告

7月9日、ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長がホルムズ海峡の安全航行を確保する有志連合を宣言

7月10日、イラン革命防衛隊が英国の石油タンカーを拿捕未遂

7月14日、イラン革命防衛隊が原油100万リットルを密輸していたとして12人乗り組みのパナマ船籍の石油タンカー「MTリア」を拿捕

7月18日、米軍艦がイランのドローンを撃墜

7月19日、イラン革命防衛隊が英国のタンカー2隻を拿捕、1隻はすぐに解放

・米国がワシントンで有志連合の説明会。25日に2回目(フロリダ)、31日に3回目(バーレーン)を開催

8月4日、イラン革命防衛隊がペルシャ湾で燃料を密輸していたとしてイラクのタンカーを拿捕(7月31日)したと発表。イラクは関係を否定

8月5日、英国が最初に米国の有志連合への参加を表明

8月7日、エスパー米国防長官が来日、安倍首相と会談

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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