ホルムズ海峡「外国人船員が命懸けで日本の原油を運ぶなど、期待する方がおかしい」元タンカー乗りが激白

ドローンから撮影された写真を公開し、米軍に撃墜されたことを否定するイラン側(写真:ロイター/アフロ)

英タンカー2隻を拿捕、うち1隻は解放

[ロンドン発]石油輸送の大動脈である中東のホルムズ海峡周辺で19日、英国の石油タンカー2隻が相次いで拿捕される事件が起きました。4日後に退任が迫るテリーザ・メイ英首相は国家緊急治安特別会議「コブラ(COBRA)」を招集して対応を協議しています。

英海兵隊は4日、英領ジブラルタル沖でイランの石油スーパータンカーを拿捕しており、その報復とみられます。ジェレミー・ハント英外相は「こうした拿捕は受け入れられない。航行の自由を維持することは不可欠だ。すべての船舶は安全かつ自由に航行できる」と非難しています。

米国のドナルド・トランプ大統領は「英国と協力して対応している。イランはトラブル以外の何物でもないが、対立は最終的に円滑に解決されるだろう」と話しています。

英メディアによると、同日午後4時(英国時間)、英国船籍の石油タンカー「ステナ・イムペロ(the Stena Impero)」が重武装したイランの艦艇とヘリコプターに囲まれ、航路を北に変更してイラン領海に入るよう命じられました。

ステナ・イムペロ号には23人が乗り組んでいます。イラン国営放送は同号が国際海洋法を順守していなかったため、イラン革命防衛隊が押収したと報じました。

45分後、今度は英国の海運会社「ノーバルク・シッピング(Norbulk Shipping)」が運航するリベリア船籍の石油タンカー「メスダー(the Mesdar)」が同じように航路を北に変更するよう命じられました。武装したイラン革命防衛隊が乗り込んできました。

2隻ともドバイ・フジャイラを出港してホルムズ海峡を通過していました。メスダー号は再び自由に航行するのを許されているそうです。

「危機のペルシャ湾」くぐり抜けた日本人タンカー乗り

石油スーパータンカーの船長を務め、ホルムズ海峡を何十回と航行、1980年代のタンカー戦争、91年の湾岸戦争など「危機のペルシャ湾」をくぐり抜けてきた片寄洋一氏に緊急インタビューしました。

――ホルムズ海峡の情勢をどうみておられますか。イランは脅しているだけなのでしょうか

「かつて、イラン・イラク戦争があり、その最中にタンカー戦争(Tanker War)というタンカー受難の戦争(1982年7月以降~88年)が始まりました。だが我が国では原油輸入に大きな影響があったにもかかわらず、ほとんど報じられることはありませんでした」

「外国で日本人の生命に関わるような事件・事故があれば大々的に報じられますが、海上の事故・事件になると途端に少なくなるか、無視されるかです」

「現在、アデン湾やソマリア沖での海域での海賊に対し、各国海軍は軍艦を派遣、海上自衛隊も護衛艦2隻を派遣し、協同で船舶の護衛に当たり、海自の哨戒機P3Cが上空から監視を続けていますが、ニュースにもならないし、国民の関心もありません」

「タンカー戦争はイラン・イラク戦争中に起きました。一進一退の泥沼状態になり、相手国を打倒するには手段を選ばないようになりました」

「原油輸出のための港湾施設、石油採掘施設、ついにはペルシャ湾を航行中のタンカーへの無差別攻撃、やがて一般船舶までも攻撃対象になり、湾内には機雷がバラ撒かれ船舶航行には最悪の海域になりました」

「ギリシャ籍の貨物船がイラク空軍機のロケット攻撃で沈没、韓国籍貨物船イラン空軍機の攻撃で炎上、沈没。トルコ籍貨物船にイラク軍が発射したエグゾセが命中、乗組員が多数死傷しました」

「これらはほんの一部に過ぎず、触雷による被害も続発しました。1984~87年の4年間で総件数363隻の船舶が被害を受け、そのうち276隻はタンカーが占めました」

「この危機的状態に対し当時、米国8隻、ソ連4隻、英国4隻、フランス3隻、イタリア3隻、オランダ2隻、ベルギー2隻の海軍艦艇が派遣され、掃海と自国船舶の護衛を実施しました」

「当時、我が国は最大のペルシャ湾利用国でしたが、海上自衛隊の派遣は憲法上の制約から考慮もしなかったようです。掃海部隊を派遣したのは後年の湾岸戦争後での掃海部隊派遣からです」

「我が国関連は、日本が定期傭船していたリベリア籍タンカー『ケミカル・ベンチャー』が被弾したのみでした。被害が少なかったのは日本関連(日本海運会社のチャーターだが便宜置籍船)のタンカーは別のタンカーが運んできた原油を安全海域で積み替えいていたからです」

「この方法は相当高い船賃に転嫁され、さらにペルシャ湾配船の船舶に対するロイドを中心とする海上保険は通常の200倍に跳ね上がったため、船舶運賃も当然ながら猛烈な高騰をみました」

「イラン・イラク戦争は終結、しかし、それで終わりませんでした。イラクのクウェート侵攻と併合。湾岸戦争、クウェート解放、有志連合によるイラク侵攻作戦。ペルシャ湾の危機的状況は現在に至るも解決した訳ではありません」

「シリアは内乱状態。アラビア半島南西端とアフリカとの間のバベルマンデブ海峡も怪しくなってきました。危険海域は数多くあります。世界中が安定しない限り紛争は続きます」

――日本に石油を運ぶタンカーの運航は今、どうなっていますか

「ホルムズ海峡、バベルマンデブ海峡、マラッカ海峡、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島、バシー海峡など危険な海域は数知れず、特に絶対的な危険海域はペルシャ湾内とその出入口であるホルムズ海峡です」

「ホルムズ海峡封鎖の恐れは常に付きまとってきたし、狭い海峡の中央に船を沈めると、簡単に封鎖されてしまいます。喫水の深い大型タンカーは海峡の中央部しか航行できません」

    

「もう一つ日本国民が知らない裏事情は、政府指導で日本人船員を切り捨ててしまい、我が国の必需品を運ぶ船舶の乗組員は大半が船長を含めて外国人船員になってしまいました」

                   

「我が国外航海運は、第二次大戦中、軍事輸送船として徴用され、米潜水艦によって撃沈され、壊滅的な打撃と多数の乗組員が船と運命を共にしました」

「戦後はゼロから立ち上がり、昭和40(1965)年代には世界一の大海運国になり外航商船隊(外航船1580隻)になり、外航船舶職員数約7万人を築き上げました」

           

「ところが平成18(2006)年、外航船舶95隻、外航船員約2500人、28分の1に減少、現在はさらに減少してしまいました」

「船員とは徒弟制度のように下から経験を積み上げていくモノなので新人が入ってこなければそこで途切れてしまいます。従って限りなくゼロに近づきつつある危険な状態です」

「便宜置籍船は(1)パナマ(2)リベリア(3)マーシャル諸島(4)香港(5)シンガポール(6)バハマ(7)マルタ(8)ギリシャ(9)中国(10)キプロスです」

(筆者注)米中央情報局(CIA)の世界ファクトブック2018年によると、石油タンカーの便宜置籍船は(1)マーシャル諸島(2)パナマ(3)リベリア(4)マルタ(5)バハマ――の順。

国際統計専門サイト「グローバルノート」によると、世界の商船保有船腹量(船主国ベース)では(1)ギリシャ330,176千DWT(載貨重量トン)(2)日本223,615千DWT(3)中国183,094千DWT(4)ドイツ107,119千DWT――の順になっている。

「乗組員は1974年をピークに年々減少。大部分はフィリピ人(75%以上)、そのほかインド、ミャンマー、中国、韓国、ベトナム、クロアチア人などです」

「日本人船員は内航、漁船にはいますが、外航船には一部管理職(船長、機関長)として乗船しています。また外国人の乗船指導、訓練、指導、陸上での船舶管理に従事しています」

「従って、ホルムズ海峡封鎖の実力行使が行われた場合、外国人船員は就航拒否、集団下船は十分に考えられます」

――日本に向かう石油タンカーの安全を守るためには何が必要ですか

「この恐れが現実に起きました。7月10日に、ホルムズ海峡通過中のエネルギー会社BPのタンカー『ブリティッシュ・ヘリテージ』にイラン革命防衛隊の小型船3隻が近づき、航路を変えてイラン領海内で停船するよう要求したのです」

「これに対して『公海自由の原則』であるから、航路を変えず航行(東航路、西航路は公海になる)。航路を変えれば即イラン領海に入り、拿捕される危険性がありました」

「幸い護衛の英海軍のフリゲートHMSモントローズが警告を発し、砲口を向け、イラン革命防衛隊の小型船は姿を消しました。もし護衛の軍艦がいなかったら拿捕されていたでしょう。まさに危機一髪でした。もし日本関連の船なら完全に拿捕されていたのでしょうか」

ホルムズ海峡が危機になれば米国が守ってくれるだろうとの希望的観測は、もう通用しません。1980年代のタンカー戦争の時は、米国を中心とした欧州海軍が軍艦を派遣して護衛しくれました。その時は米国が最大の石油輸入国だったからです」

「しかし現在、米国は最大の産油国であり、中東石油に頼る必要は全くありません。我が国に輸入される原油の8割以上はホルムズ海峡を通過して日本に運ばれてきます。そのタンカーの大半は便宜置籍船であり、乗組員は外国人なのです」

(筆者注)ホルムズ海峡は原油・石油製品合わせて日量1700万バレルが行き交うエネルギー供給の大動脈。日本が輸入する原油の8~9割を占める中東産原油の大部分がホルムズ海峡を通過して日本に運ばれている。

「トランプ大統領は『自国の船は責任を持って自国の船を守れ』と明言しました。至極当たり前の言ととらえましたが、日本政府及び日本国民は、自国に運ばれる船荷であっても守るという意識は生まれてきません。従って、原油を運ぶ船舶は就航拒否となるかも知れません」

(筆者注)トランプ大統領は6月下旬、「中国は原油の91%を(ホルムズ)海峡から輸入している。日本は62%だ。他の多くの国も似たような状況だ。どうして我が国が他の国々のために何年も何の見返りもなしにシーレーンを守らなければならないのか」「こうしたすべての国は自国の船舶を自分たちで守るべきだ」とツイート。

「事実、タンカー戦争の時は海員組合が日本人船員のペルシャ湾への就航を拒否。やむを得ず、外国籍船をチャーターして原油を積載して、ホルムズ海峡を抜け、安全海域で待ち受ける大型タンカーに積み替えて日本へ運ぶという裏技を行いました。当然、船賃は暴騰しました」

「今度は大半が便宜置籍船であり、外国人船員になります。命を賭して日本の原油を運ぶなど、期待する方がおかしい

最近の経過

昨年5月、トランプ大統領が核合意から離脱

今年5月2日、トランプ政権がイラン産原油を全面禁輸

5月12日、サウジアラビアの石油タンカー2隻を含む4隻がアラブ首長国連邦(UAE)沖で攻撃される

5月16日、サウジが、イランが石油パイプラインを攻撃したと非難

6月12、13日、安倍晋三首相が現職首相として41年ぶりにイランを訪問。イラン最高指導者アリ・ハメネイ師は原油禁輸制裁の停止を要求

6月13日、ホルムズ海峡近くで東京の海運会社「国華産業」などが運航するタンカー2隻に機雷攻撃

6月20日、イラン革命防衛隊が領空侵犯した米国の無人偵察機RQ-4グローバルホークを撃墜

6月24日、トランプ大統領がハメネイ師を含む新たな対イラン制裁を発動。報復攻撃見送る

7月1日、イランの低濃縮ウラン貯蔵量が核合意の上限を超過

7月4日、英海兵隊がイランの30万トン級石油タンカーを英領ジブラルタル沖で拿捕

7月7日、イランがウラン濃縮上限の3.67%を突破。60日ごとに核合意違反をエスカレートさせると警告

7月9日、ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長が「有志連合」結成を宣言

7月10日、イラン革命防衛隊が英国の石油タンカーを拿捕未遂

7月14日、イラン革命防衛隊が原油100万リットルを密輸していたとして12人乗り組みのタンカーを拿捕

7月18日、米軍艦がイランのドローンを撃墜

7月19日、イラン革命防衛隊が英国のタンカー2隻を拿捕

(つづく)