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日本の捕鯨に反対する英次期首相(当確)とガールフレンドが警察沙汰の大喧嘩 先が思いやられるEU離脱

木村正人在英国際ジャーナリスト
日本のIWC脱退に抗議するジョンソン前外相の父とガールフレンド(右)(写真:Shutterstock/アフロ)

[ロンドン発]英国の次期首相を決める与党・保守党党首選で当選をほぼ確実にしている強硬離脱派の大本命ボリス・ジョンソン前外相(55)が「無責任男」の本領を発揮して自宅に警察が駆けつける騒ぎを起しました。

英次期首相がほぼ確実なジョンソン前外相(昨年秋の党大会で筆者撮影)
英次期首相がほぼ確実なジョンソン前外相(昨年秋の党大会で筆者撮影)

ジョンソン氏は2番目の妻と別れて保守党のスピン・ドクター(報道担当者)だったキャリー・シモンズさん(31)とロンドン市内で暮らしています。残留を支持する英紙ガーディアンが2人の大喧嘩についてスクープしました。

警察の説明や近所の人が同紙に証言したところによると、21日午前零時25分ごろ、ドアを閉めたり、何かを叩いたりする大きな音がした後、シモンズさんとみられる女性の悲鳴が聞こえたそうです。

シモンズさんは「私から離れて」「私のフラットから出ていきなさい」と叫びました。近所の人が心配して玄関のドアを叩いても反応がなかったため、警察に通報。警察が現場に急行したところ、2人とも無事だったため、すぐに引き返しました。

近所の人が録音していた2人の口論は次のような内容です。ジョンソン氏はシモンズさんのフラットから出ていくのを拒否、「私のパソコンを離しなさい」と言い返しました。

シモンズさんは「赤ワインでソファを駄目にした」「あなたは甘やかされて育ったから何にも気を使わない。お金も何も気にしない」と大声を上げ、何度も「出て行って」と叫びました。

ジョンソン氏は昨年、25年間連れ添い、4人の子供をもうけた2番目の妻で幼なじみの人権弁護士マリナ・ウィーラーさん(55)と別れ、シモンズさんと同居しています。

保守党の報道担当責任者を8年務め、昨年8月、ブルームバーグで働き始めたシモンズさんはPR週刊誌に英国ベスト2のPRパーソンに選ばれたことがあります。

ジョンソン氏はシモンズさんのアドバイスで減量に成功、一気に12キログラム以上も体重を落としました。夜にチョリソ(スペイン・イベリア半島発祥の豚肉の腸詰ソーセージ)とチーズをあてに酒をあおるのを止め、失言を防ぐためパーティーでも水を飲むようになったそうです。

将来の“ファーストレディー”を意識してか、党首選が始まった今月からシモンズさんはジョンソン氏と一緒に公の場に姿を現すようになりました。

保守党下院議員による5回目の投票で過半数の160票を獲得し、約16万人の党員投票にコマを進めた矢先だけに2人の間に何があったのでしょう。ジョンソン氏は離婚歴2回で艶聞が絶えません。美術コンサルタントの女性との間に婚外子もいます。

党員投票で争う対抗馬の知日派ジェレミー・ハント外相(52)はもともと残留派で、EU離脱交渉の方針も、辞任に追い込まれたテリーザ・メイ首相と代り映えしないため、逆転するのは難しいでしょう。

2016年の党首選はマイケル・ゴーブ環境相に土壇場で裏切られ、出馬を辞退したジョンソン氏は今回、盤石の布陣で党首選に臨みました。夕刊紙イブニング・スタンダードによると、保守党下院議員313人の全データを表計算ソフトに入力し、投票行動を詳細に分析、1票違わず全候補者の結果を予測していたほどです。

離脱派のゴーブ氏と党員投票で争うと予測できないことが起きる恐れがあるため、戦いやすいハント氏が5回目の下院議員投票で勝ち残るよう票を回した疑いも浮上しています。

その裏にシモンズさんの“内助の功”があったなら“犬も食わない夫婦喧嘩”が英国の将来を大きく左右する可能性があるやもしれません。

日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退して商業捕鯨を再開することに抗議して、ジョンソン氏は英紙デーリー・テレグラフに「どうして日本の野蛮人のような捕鯨という習慣に怒りを爆発させないのか?」というコラムを寄稿したことがあります。

イスラムの衣装ブルカを「銀行強盗の覆面」にたとえ、目の部分だけ四角く空いたブルカを着た女性を「レターボックス」に見えると自分が発言した時には11日間も批判し続けた英BBC放送ラジオ4の早朝番組「トゥデイ」が捕鯨問題をほとんど取り上げないことに不満を唱えました。

シモンズさんも今年1月、ジョンソン氏の父親スタンレー・ジョンソン氏と一緒に在英日本大使館前で行われた日本のIWC脱退に対する抗議活動に参加したことがあります。

「勝って兜の緒を締めよ」「百里を行く者は九十を半ばとす」とも言いますが、ジョンソン氏は下院議員投票で勝っただけで慢心してしまったのでしょうか。10月末に期限が迫るEU離脱交渉の先行きを考えると、ますます頭が痛くなってきました。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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